アナタの人工言語のレベルが一定以上であると思うのであれば、
以下の短い小説の翻訳に挑戦して見なさい。
『購入者』
いつの時代になっても、
人間の購買意欲という物は留まることを知らない。
それは異星人同士が交流しあう時代になっても同様である。
J氏の勤める会社は、そんな時代のニーズにこたえた
惑星間の商売を行う会社であった。
今回もJ氏とその部下数人は、
新たな顧客となる星を求めて宇宙を旅している途中であった。
「J隊長、見てください。新たな惑星を発見しました。」
「うむ、そうかそうか。ではいつも通り、小型探査機を送ろう。」
せっかく惑星を発見しても、
そこに知的生命体がいなければ商売は出来ない。
またいたとしても、文明が中程度でなければ意味が無い。
文明が遅れすぎていては商品を買うほどの知能がないし、
逆に進みすぎていれば、こっちの商品は時代遅れの
中古品としか見なされず、買ってくれないからだ。
「どうだねあの星は? 商売が出来そうな知的生命体はいるのかね?」
「はい。まだロケットなどの宇宙移動手段は無いようですが、
交通網が整備されて大都市も見受けられます。
人口も多いようです。商売をするには十分な文明かと思われます。」
「そうかそうか、それでは、いつも通り、
出来る限り大きな都市の郊外に着陸するとしよう。
大都市なら商売もはかどるというものだ。」
J氏たちは適当に陸地を飛び回り、よさそうな都市を発見して
そこに着地した。目の前の都市は、中心部に大きな
城がそびえていた。
「隊長、城があるということはこの星は王が支配して
いるという事でしょうか?
となると少々遅れている文明でしょうか…?」
「まあそのようだな。しかしこのような状況の星での商売は
初めてじゃない。国王に気に入ってもらえれば
いくらでも大きな商売が出来るだろう。」
「あ…っ! 隊長! 見てください!」
すると隊員の一人が窓の外を指差した。
どうやら宇宙船に気付いたこの星の住人が
こちらに向かってくるようだった。
しかし物珍しさに実に来た野次馬という訳ではなく、
どうやら兵士か警官のような人物らしかった。
「こりゃあいかん! この宇宙船は頑丈だから
壊されることは無いかも知れんが、
トラブルになれば商売が出来んかも知れん!
すぐに翻訳機をもって外に出るんだ!」
J氏達は見張りの一人を残して全員外へ出た。
警官らしき人が2人立っていて、
しきりに何かを叫んでいるようだ。
J氏は彼らに翻訳機を向けた。
「こら! こんな所に変な船を着陸させるな!
我々の法律に違反している! 罰金だ!」
「なんと! はるばる遠い宇宙からやってきたのに、
いきなり罰金を取るとは!」
「しかし隊長、彼らとトラブルになっては商売が出来ません。
ここは素直に罰金を支払うべきです。」
しかたなくJ氏らは罰金を払うことになった。
ここの貨幣は当然持っていなかったので、
同等の価値の宝石や金属で支払った。
意外と高値であったが、商売の為なら仕方なしと思った。
「ふむ、確かに罰金は受け取った。
今後は気をつけてくれたまえ。
しかしそれにしても君達は実に高度な文明をお持ちのようだ。
教養もしっかりしていて野蛮そうには見えない。」
「はい、我々は商売の為にたくさんの星を渡り歩いて参りました。
ぜひこの星でも商売がしたいのです。」
「ほう、商売か。なら王様の許可が必要だな。
君達は知性もある立派な文明人のようだし、
特別に王様に会わせてやろう。」
そういって警官の一人は王への報告のため、
すぐに城へと向かって行った。
残りの一人はJ氏達を案内する為に残り、
城下町へと案内した。
「いやあ隊長、罰金は高かったですが、支払った甲斐がありそうですね、
こことの商売も上手くいきそうです。」
「そうだな。いやあ、それにしてもこの街は実に素晴らしい!
整った高さの家々、ゴミ一つ無い道路…、
だがしかし、何で人々は皆、あのように白線の上を
歩いているんですかな?」
J氏達の歩いている道の両側には、足1つ分くらいしかない様な
細い白線が引いてあった。住人達は警官について行くJ氏達と同じ様な
道路の真ん中ではなく、その白線の上を律儀に歩いている。
「ハッハッハ…ッ、アレはそういう決まりなのだ。
あの白線を少しでもはみ出せば、すぐに高額の罰金を
支払わなければならない。
ゴミが落ちていないのも、建物の高さが同じなのも
同様の理由だ。」
警官が当たり前のように話したので、J氏達は仰天した。
「なんと…!? たったそれだけの事で罰金を取るんですかな?!」
「ハッハッハ…ッ! 彼らは金を貯める事か物を買うことしか考えない
愚かな住人なのだ。
ああして毎日罰金を取らないと、国の財政も福祉も
何も出来ないのだよ!」
「しかし、税金を取るとか、他にも方法はあるでしょう…、」
「ハッハッハ…ッ、この方が一番安全で効率が良いのだ。
まあ安心したまえ、君達は良識ある文明人のようだから、
あのように罰金を取りはしないさ。」
警官は軽く受け流したが、街を歩いている人々をみると
皆元気が無い。
手にはいつでも罰金が支払えるようになのか、
大きなバッグやリュックを背負い、
常に周りに細心の注意を払い、何か罰金を取られるような事を
していないかと不安そうな顔の人々ばかりだった。
城に着く間も、実際に何人かの人が多額の罰金を取られていた。
バッグやリュックの中身をほとんど取られ、泣き崩れる者や
わめく者がいたが、すぐにこらえてまた歩き出すのだ。
その場でずっとそのままだと、迷惑行為とされて
また罰金を取られるからだ。
「おお! これはこれは! 君達ははるか
宇宙の彼方から来たと聞いたぞ!
はるばる商売の為にやってきたとか、
まあとりあえず、ゆっくりくつろいでくれたまえ。」
王宮についたJ氏達はさらに驚いた。
王宮は見た目も大きかったが、中は宝石や珍しい金属で
輝くばかりだった。
明らかに民衆から奪った罰金で造られているといった感じだ。
「王様、無礼を承知で申し上げますが、この部屋の飾りは…?」
「ああ、これか、なに、金庫の中が金でいっぱいなので、
こうして宝石や金属に換えて壁に飾っておるのだ。」
「そうなのですか。ですが王様、
ここに来る途中で何回か罰金を取る場面を見てきましたが、
あれはあまりにもひどすぎます。
どうか彼らからもうあんなに多額の罰金を取るのは
お辞めになってはどうでしょうか…?」
「うむ、勇気ある意見ではあるが実に大きなお世話だ。
彼らは金を自分の為に使う事しか考えない愚か者達だ。
ああして罰金を取らないと、税金も何も払わずに
毎日物を買ってばかりだ。
こうした方が社会の為になるのだよ。」
「しかし、あまりにも取りすぎではないですか?
あれでは彼らはまともに生活が出来ないでしょう?
それに、いつかクーデターでも起こったらどうなさるのですか!?」
「心配には及ばん。
食料など生活必需品は罰金の中から工面し、
生きていくのに必要最低限の量の品だけ出して
民衆に与えている。
武器なども全部武器庫に保管してあるから大丈夫だ。
無論違反したものは即多額の罰金と牢屋行きだ。」
「ですが、これでは我々も商売が出来ません。
罰金でお金が無い民衆と、一体どうやって
商売をしろというのですか?」
「商売なら私個人とやればいい。
ちょうど金庫の金を少し減らしたかった所だ。
なに、金ならいくらでもある。
少々値が張るものでも、大いに買って進ぜよう。」
こうして王はJ氏達といくらか高い買い物をした。
寝心地の良い安眠ベッド、珍しい植物、この星では取れない
宝石や金属…、それに、民衆を黙らせる為の強力な武器も。
あまりにも多い量の買い物だったので、この星に届くのには
何日かかかりそうだ。
「J隊長、今日一日でかなりの売り上げになりましたねえ。」
「うむ、しかしまだこの額じゃあ前の星の売り上げの
10分の1にもならん。
もう王様はしばらく物を買ってはくれんだろうから、
新たな顧客が欲しい。
やはり一般の者にも買って貰わんと、困るわい…。」
J氏達はそう言いながら城下町を歩いていた。
王様から許可が下りて、警官なしでの散策が許されたのだ。
「そうだ! J隊長! それならここの人達に、クーデターを
起こしてもらいましょう!」
「なるほど…、あの罰金を取る王がいなくなれば、
人々は自由に買い物が出来る…、
しかしそれをやるにしても、肝心の武器が無ければ
話にならないじゃないか。武器はみんな王宮の武器庫に
しまってあるのだし…、」
「彼らにはありませんが、我々にはあるじゃないですか。
護身用のレーザー銃が宇宙船にいくつかあります。
それをここの人々に渡しましょう!」
「うむ、なるほど…。
確かにあの銃は最新式だ。
我々の技術で開発した珍しい金属じゃないと
防げない代物だ。」
「そしてその金属はこの星にはありません!
だって先程その金属をあの王様が買っていましたから…!」
「その金属も届くのは数日後…、
なるほど…、これはチャンスかも知れん…!」
こうしてJ氏らはレーザー銃を取りに行き、
町中でそれなりに強そうな者達に配りだした。
「…いけません! こんな武器なんて!
警察に見つかったらまた罰金ですよ…!
ましてやクーデターだなんて…!」
「君、その罰金も、この武器を使って
クーデターを起こせば取られなくて済むのだよ。
さあ受け取ってくれたまえ。」
最初はこういってなかなか受け取らなかった人々も、
J氏らの説得によってなんとか受け取ってくれた。
「さあ、このレーザー銃を防げる金属が到着してしまえば、
このクーデターは失敗してしまいますぞ!
やるなら今ですよ!」
J氏にこうはやし立てられた人々は、
あっさりとクーデターを成功させてしまった。
警察や兵隊達の武器はまるで子供のおもちゃのように
役に立たず、王宮はたったの半日で陥落してしまった。
「ああ…っ! なんという事だ…!
クーデターだなんて…! 一体どうして…!?」
「王よ…、我々が民衆に最新の武器を与えて
クーデターを起こさせたのだ…!
貴様が罰金を取って私腹を肥やしていたのはお見通しだ!
これからは王のいない平和な国となるのだ…!」
「ああ…、貴様達…、なんて事をしてくれたんだ…!
もうこの星はおしまいだ…!
もう何もかも、ダメになってしまう…!」
「何を訳の分からない事を言っている…?!
この強欲な王め…!」
「強欲なのは民衆の方だ…!
私はその民衆が金を使えないように、
ワザと高額の罰金を取ってそれを防いでいたのだ…!
みろ…! あの民衆を…!」
「なん…だと…?!」
J氏らはそう言われて辺りを見回した、
民衆は自分の金をちゃんと支払って、
壁の宝石や金属、様々な装飾品を次々と買い取っていた。
武器庫の武器も、食料庫の食料も、
最後には城の壁でさえも、全て民衆が買っていった。
後に残ったのは、大量の札束だけだった。
「金ならたくさんある! 何か他に買える物はないか…!?」
「おい…! あそこに王と異星人がいるぞ…!
あいつらの服や装飾品を買おう…!」
「これはいかん…!
うかうかしていると、我々が買われてしまう…!
この星は危険な星だった…!
ああ…、ワシはなんとバカな事をしてしまったんだ…!」
「隊長…! そんな後悔をしている場合じゃありません…!
はやくこの星から逃げましょう…!」
J氏らは急いでその場を逃げ出した。
後ろではあの王が丸裸にされている。
後に残ったのは大量の札束だけだった…。
逃げる途中、あの銃を与えた者達が追いかけて来た。
打ち返したかったが、その銃も彼らに与えてしまった。
それを跳ね返せる金属は、自分達が乗ってきた
宇宙船の外壁しかない。
「隊長…! もうすぐ船が見えるはずです…!」
「うむ…! だがしかし、何か嫌な予感が…!
ああ…! 見ろ…! やはりそうだった…!」
J氏たちが見たのは、絶望的な光景だった。
民衆達が寄ってたかって、宇宙船を買っていたのだ。
宇宙船のあった場所に残っているのは、
やはり大量の札束だけ…、
そして、通信機を必死に守りながら、
地球に向かって交信している、
船に残った隊員の一人の姿だけだった…。
「緊急事態発生…! 緊急事態発生!
至急救助隊の要請を…!
このままではもうだめです…!
このままじゃあ…、私が買われてしまいます…!」
必死に通信機に話しかける隊員のそばで、
この星の住人達は、どの部分を自分達が買うのか
話し合っていた。
「私はこいつの服を買おう…! 金ならいくらでもある…!」
「なら私はこいつの片足だ…! 金ならいくらでもある…!」
「なら私はこいつの両腕だ…! 金ならいくらでもある…!」
おわり 貴殿の健闘を祈る。