翻訳に挑戦3 CHALENGE TRANSLATION 3

アナタの人工言語のレベルが一定以上であると思うのであれば、

以下の短い小説の翻訳に挑戦して見なさい。

 

『キジを鳴かせれば』

 

昔々ある村に百姓の父親と幼い一人の娘が暮らしていた。

母親は娘が小さい頃に死んでしまい、
男手一つで何とか育てていたが、
貧しい生活は一向に良くはならなかった。

一日一食食えれば良いような生活が毎日続いたが、
娘は何一つ文句もねだりもしなかった。

しかし育ち盛りの子供に貧しい食事しか
与えられなかったせいなのか、ある雨の降る晩、
とうとう娘は熱を出して寝込んでしまった。

「本当にすまねえだなあ…、おらげが貧乏なばっかりに…、
 薬も粥も買える金がねえで…、」

「おっとお…、おら、
 小せえ頃に…一度だけ食った…、
 お赤飯が食いてえだ…。」

「おお…、おめえ、
 今まで一度もそんなわがままさ言った事もねえのに、
 そうた事さ言うなんて…、
 こりゃあいよいよ死が近いのかも知れん…。
 だけんどそんな赤飯なんて買う金はねえだ…。
 いったいどうすりゃあ良かんべか…。」

父親は困り果てて、
とうとう村一番の庄屋の蔵から
小豆と米を盗みに行こうかと考え出した。

 

 

「すいません、どなたかいらっしゃいますか?」

すると突然家の外で声がした。
こんな雨の中一体誰だろうと思いながら家の戸を開けると、
一人の男が立っていた。

白いスーツ姿にシルクハット、足まで届くような
長い黒マントの男は、この時代には似つかわしくない。
どうやら未来人のようだったが、
昔の人にとってそんな事は想像すら出来ないだろう。
ましてやこの父親は小さい頃から村の外に出た事がないので、
そんな事は想像にも至らなかった。

「これはこれは…、南蛮の方だんべか?
 随分と珍奇な格好さしてるけんども…?」

「すいません、旅の途中で雨が降ってきたので、
 雨が止むまでの間ここにいさせて下さい。
 決してご迷惑はお掛けしません。」

「いやあ、こりゃあまた丁寧な言葉遣いだ。
 こりゃあきっと高貴な方に違えねえだ。
 汚ねえ家だけんども、あがってくんなせい。」

「ありがとうございます…、
 おや? あのお嬢さんは…?」

「ああ、うちの娘だけんども…、
 熱が下がんねえんだ…、
 このままじゃおっ死んじまうかもしんねえだ…。」

「それは大変です! 今すぐ私が手当てして差し上げましょう!」

男はそう言うと懐の中からバンノーチリョーヤクとかいう
奇妙な薬を取り出して娘に与えた。
すると夜が明ける頃には娘はすっかり良くなっていた。

 

 

「こりゃあ奇跡だ! おめえ様は神の使いか仏様の化身だあ!」

「いえいえ、わたしはただの旅の者です。
 それに人助けは人として当然の事。
 当たり前の事をしたまでです。」

「はあ、なんとお礼をしたら良いか…、
 だけんどもおらの家は見ての通り何にもねえ一文無しだで…、」

「おや? あなたお金に困ってらっしゃるので?
 ならそうと言ってください。
 私が無償でいくらでも差し上げましょう!」

そう言って男はドサッと山積みの大判小判を
男の目の前に差し出した。
こんな大金を見たことが無い男は仰天した。

「あんれまあ! おったまげただ! おめえ様どこから
 一体こげな大金を…?!」

「いえいえ、これも雨宿りさせていただいたお礼ですよ。
 おや、もう雨は止んだようですね。
 それでは私は用事があるのでこれで失礼致します。
 また来年ここに立ち寄りますので、その時お会い致しましょう。」

そう言うと男は父親の感謝の言葉もろくに聞かずに
その場から立ち去ってしまった。
父親はそのあとすぐに追いかけようとしたが、
外に出ると男の姿はどこにもいなかった…。

 

 

そして翌年、約束通りその男はやってきた。

「お久しぶりです。お約束通り一年ぶりにやってまいりました。
 覚えておいででしょうか?」

「おお! こんりゃああん時の親切な方ではねえか!
 忘れる訳ねえべ! 来て下さってありがとうごぜえますだ!」

「おや? あんなに大金を差し上げたのに、
 随分と貧乏でらっしゃる。
 一体どうしたのですか?」

「へえ…、申し上げにくいんだども…、
 あの大金さ盗まれたんだあ…。
 きっとこげな貧乏なおらが行き成し小判さ持って
 米と小豆さ買いに村さ現れたんで、
 金さ持ってると思って誰かが盗んだんだあ…。
 おかげで去年一年は貧乏暮らしだあ…。」

「それはお気の毒に、ですがこちらも配慮が足りませんでした。
 あんな大金をお渡ししても、このような狭い家では
 隠し場所に困りますものねえ…、
 それでは良い物を差し上げましょう。」

そういうと男は懐から何かを取り出した。

「はあ…、一見すっと木彫りの雉にしか見えねえけんども…
 何だあこりゃあ…?」

「これはただの雉ではございません。
 こうして頭を叩きますと…、」

そういって男が雉の頭を叩くと、木彫りの雉はケーンと一声鳴いて
小判を一枚産み落とした。

「ありゃあ! たまげただ! こりゃあ夢のようだあ!」

「いえいえ、決して夢でも幻でもございません。
 このように雉を鳴かせれば一枚小判が出てきます。
 何回も鳴かせれば何回でも出ますよ。
 出しすぎたらクチバシに小判を持ってきてください。
 このように飲み込みますので…。」

「いんやあ…、これで今年は貧乏をせずにすむだあ…!
 これで娘にも毎日赤飯が食わせられるだあ…!」

「赤飯だけでなく豪華な料理をいくらでも買えますよ。
 このような木彫りの置物ですから、
 盗まれる心配もございません。」

「いやあ…、なんとありがてえお方なんだあ…!
 おらの為にこんな事までしてくれるたあ…!」

「いえいえ、これもあの時の雨宿りのお礼ですよ。
 それでは私は用事があるのでこれで…。
 また来年お会いしましょう。」

そういって男はまた家を出て行った。
そして翌年もまた約束通り男はやってきた。

 

 


「お久しぶりです。お約束通り一年ぶりにやってまいりました。
 覚えておいででしょうか?」

「おお…! もちろんだあ…! 忘れる訳がなかんべえ!
 去年はどうもありがとうごぜえましただ!」

「お会いできて何よりです。
 おや? ですが何か浮かない顔をしておられるようですね。
 家も相変わらず狭いようですし…?
 まさか雉を盗まれたんですか?」

「いんや、雉は盗まれてねえけんども
 もっと最悪だあ…。
 おらあもうすぐ死ぬかもしんねえだ…。」

「それはなんでまた? 理由を話してごらんなさい。」

「へえ、実は物を買えるようになったのはよかったんだども、
 それさ村の者共が怪しんだんだあ…。
 おらあちゃんと、旅の親切な方から貰っただって
 説明しただが信じてくれねえで、
 どっかから盗んだ金だろってきかねくて…。」

「それは大変でしたねえ…、
 ですがなんでまた死ぬ事に?」

「はあ、おらの村では毎年のように川が氾濫して
 村の畑がダメになるだあ…、
 そこで人柱さ沈めて川の神様のお怒りさ静めうよって
 事になっただが、死にてえ者なんざいねえだで…、
 盗人呼ばわりされたおらが…。」

「それはお気の毒に、ですがこちらも配慮が足りませんでした。
 それでは私があなたを
 人柱にされないようにして差し上げましょう!」

「はあ、そげな事も出来るんですかい…?
 んだどもどうやって…?」

「あなたのおっしゃった川の氾濫の大きな原因は、
 この川が村を囲むように大きく曲がった流れになっているからです。
 なので川をまっすぐにして、ついでに川幅も広くすれば
 氾濫はしなくなります。
 工事に必要なお金は雉を鳴かせればいくらでも出てきます。
 道具も人手もいくらでも買えますよ?」

「なるほど、だけんどもそれだと村のど真ん中さ
 川が突っ切ってしまうけんども、どうすんべか?」

「なら同時に、もとあった曲がった川を埋め立てる工事を
 しましょう。そしてそこに村を立て替えるのです。
 なに、金は雉を鳴かせればいくらでも出るんです。
 それぐらい簡単でしょう?」

「なるほど! ほんならおらも人柱にならずにすむだ!
 いやあ…、なんとありがてえお方なんだあ…!
 おらの為にこんな事までしてくれるたあ…!」

「いえいえ、これもあの時の雨宿りのお礼ですよ。
 それでは私は用事があるのでこれで…。
 また来年お会いしましょう。」

そういって男はまた姿を消した。
そしてやはり翌年、約束通り男はまたまたやってきた。

 

 

「お久しぶりです。お約束通り一年ぶりにやってまいりました。
 覚えておいででしょうか?」

「おお…! また来てくれただか!
 もちろんだあ! 忘れる訳がねえだ! よく来てくれただなあ!」

「お会いできて何よりです。
 おや? ですがまだご不満なご様子で…、
 家は少し新しくなったようですが…?」

「へえ…、実は、去年おめえ様から教えられた通り、
 道具と人を仰山集めて工事をしただ。
 おかげでもう川は氾濫しねえ様になっただ。
 村も移築して新しい家さいっぱい建てただ。
 おかげで村人から随分と尊敬されるようになっただ!
 この家もそのお礼にっつって皆が建ててくれただ!」

「それは何よりです。ですが浮かない顔をしてらっしゃるという事は、
 また何か問題でもあるのですか?」

「へえ…、実は、去年からずっと川の工事をやってたんで、
 去年は作物を作る暇が無かっただあ…、
 おらは金があるからいいだが、他の村人たちは
 おととしの蓄えがもうそろそろ尽きる頃で…、
 このままじゃあ村人全員が飢え死にだあ…!
 一体どうすりゃあええだか困って困って…!」

「なら話は簡単です。その村人全員に食料を買ってあげなさい。
 なに心配はいりません。雉を鳴かせれば金はいくらでも
 出てくるのですから。
 豪華な物をたくさん買ってあげなさい。
 そうすれば村人からの尊敬も一段と大きくなることでしょう!」

「なるほど! ほんならみんな飢え死にする事もねえだ!
 いやあ…、なんとありがてえお方なんだあ…!
 おらの為にこんな事までしてくれるたあ…!」

「いえいえ、これもあの時の雨宿りのお礼ですよ。
 それでは私は用事があるのでこれで…。
 また来年お会いしましょう。」

そういって男は再び姿を消した。
そしてあくる年もまた男は約束通りやってきた。

 

 

「お久しぶりです。お約束通り一年ぶりにやってまいりました。
 覚えておいででしょうか?」

「おお…! もちろんだとも!
 あんなに親切にしてもらっただに、忘れる方がおかしいだ!」

「お会いできて何よりです。
 おや? ですが随分お疲れのようですねえ…、
 何かお体の具合でも悪いのですか?」

「いんや、そんな事はねえだが、実はとても困ってるんだあ。
 というのも去年は村人たちに豪勢な料理をたんと振舞っただで、
 村人たちが随分と喜んだだ。
 おかげで来年からおら村長をやることになっただ。
 家の前の畑も村人たちがお礼にとあんなに広い畑をくれただ。
 今年はいい作物がたんととれそうだあ。」

「それは何よりです。ですがその疲れた表情ですと、
 やはり問題が…、」

「そうなんだあ…、あんまり広い畑だもんで二、三日じゃあ
 とてもとても耕せねえだ…。
 娘も手伝ってはくれるだが、もう疲れて疲れて…。」

「それはいけませんねえ…、
 せっかくのかわいい娘さんがお怪我をしては大変です。
 でしたらまた人手を買えばいいのですよ。
 何人か働き盛りな若者を集めて、毎日小判を差し上げて
 畑を耕させたり、作物を育てさせるのです。
 あなたはその指示を毎日すればよろしいのですよ。
 なに、心配はいりません。雉を鳴かせれば金はいくらでも
 出てくるのですから。」

「なるほど! そりゃあええ! それならこんなに
 毎日疲れずにすむだ!
 ああ…、本になんとありがてえお方なんだあ…!
 おらの為にこんな事までしてくれるたあ…!」

「いえいえ、これもあの時の雨宿りのお礼ですよ。
 それでは私は用事があるのでこれで…。
 また来年お会いしましょう。」

そういって男はまたいつもの様に姿を消した。
そして次の年もまた男はいつもの通りやってきた。

 

 


「お久しぶりです。お約束通り一年ぶりにやってまいりました。
 覚えておいででしょうか?」

「おお…! もちろんだとも!
 毎度毎度どうもありがとうごぜえますだ!」

「お会いできて何よりです。
 おや? ですが随分と眠そうでらっしゃいますねえ…?
 なにかあったのですか?」

「へえ…、実は、去年おめえ様に言われた通り、
 若者さ雇って畑で作業させただ…。
 おかげで大豊作の上にその作物が美味えって大評判でえ、
 作物さ売ったお金で、遠くから来てもらってる
 若者たちの為にすぐそこさ家を何件か建ててあげただ。」

「それはそれは、何よりですねえ。ですがその目のクマ、
 その原因はなんなのですか?」

「へえ…、それが、雇った若者たちが毎夜のように
 酒を飲んで騒ぐんだあ。最初は
 若いから仕方ねえと思っとったけんども、
 こう毎度の事だと困っちまって…、」

「なるほど、それはそれはいけませんねえ…、
 せっかくのかわいい娘さんも寝不足のようですし…、
 でしたらいっその事、この家をまるごと塀で囲みましょう!
 そうすれば毎晩うるさい思いをせずに済みます。
 ついでに家も大きくしましょう。
 塀だけ立派で中が普通の家じゃあ変ですからね。
 なに、金の心配はいりません。雉を鳴かせればいくらでも
 出てくるのですから。」

「なるほど! そりゃあええ! それならこんなに
 毎日寝不足にならずにすむだ!
 ああ…、毎度毎度なんとありがてえお方なんだあ…!
 おらの為にこんな事までしてくれるたあ…!」

「いえいえ、これもあの時の雨宿りのお礼ですよ。
 それでは私は用事があるのでこれで…。
 また来年お会いしましょう。」

そして男はいつも通り消えていって
そして翌年もまた同じ様に約束通りやってきた。

 

 


「お久しぶりです。お約束通り一年ぶりにやってまいりました。
 覚えておいででしょうか?」

「おお…! 毎年毎年ご苦労だあ!
 おかげでこの通り元気だあ!」

「お会いできて何よりです。
 おや? ですがまだ何かお困りのご様子ですが、
 一体どうなさったんですか?」

「いんやあ…、実は…、広い家さ建てただは良いけんども、
 こう広過ぎっとどうも物事さやるのが億劫で億劫で…、
 それに娘も最近、毎日つまらなそうなんだあ…。」

「なるほど、娘さんも遊びたい年頃ですからね。
 それではその遊び相手も兼ねまして、この家の手伝いをする
 娘を集めましょう! そうすれば全て悩みは解決です!」

「なるほど! んだども、おらあそんなにいっぺえ
 若え娘っこさ集めてきても、ちゃんと家の手伝いさ
 やってくれっかどうか心配だあ…、
 おらの娘と遊んでばっかしじゃあ困るしなあ…。」

「でしたらこちらで、躾の出来るロボ…いえ、
 女性を知っておりますので、その方を連れてきましょう。
 彼女に任せれば勝手に近くの村などから
 良い年頃の娘を連れてきて躾けてくれます。
 もちろん雇う為の金の心配はいりません。
 雉を鳴かせればいくらでも出てくるのですから。」

「なるほど! そりゃあありがてえだ!
 いんやあ…、いつもいつもなんとありがてえお方なんだあ…!
 おらの為にこんな事までしてくれるたあ…!」

「いえいえ、これもあの時の雨宿りのお礼ですよ。
 それでは私は用事があるのでこれで…。
 また来年お会いしましょう。」

そして男は人間そっくりのロボットを
父親に渡し、いつも通り消えていった。
そしていつも通り次の年も約束通りやってきた。

 

 


「お久しぶりです。お約束通り一年ぶりにやってまいりました。
 覚えておいででしょうか?」

「いんやあもちろんだあ! 毎年ありがてえ事だあ…!」

「お会いできて何よりです。
 おや? ですがまだご不満なご様子ですねえ。
 何かおありなのですか?」

「いんやあ…、おめえ様の連れて来た世話係の女は
 実に良く出来た女だあ…!
 毎日新しい娘っこさ連れてきて、ちゃあんと
 躾けるだで、家事には全然困ってねえだ!
 家ん中もにぎやかだし、もうあと一点良ければ
 おらあ幸せだあ!」

「ほう…、その一点とは、一体なんですか…?」

「いんやあ…、実はおらも前の嫁と死に別れてから
 随分たつし、おらの娘も随分と大人さなっただから、
 もうそろそろ嫁っこの一人も欲しいだなあと…、」

「なるほどなるほど…。では私の方で、ちょうど良い
 ロボ…、いえ、妻になりそうな女性を紹介しましょう。
 きっとお気に召す事間違いなしです!
 村中の皆を呼んで、ぱ~っと盛大な結婚式でも挙げてください!
 もちろんその金の心配はいりませんよね?
 雉を鳴かせればいくらでも出てくるのですから。」

「おお! 毎度毎度の事だけんども、
 なんとありがてえお方なんだあ…!
 おらの為にこんな事までしてくれるたあ…!」

「いえいえ、これもあの時の雨宿りのお礼ですよ。
 それでは私は用事があるのでこれで…。
 また来年お会いしましょう。」

そして男は人間そっくりの美女のロボットを
父親に渡し、いつも通り消えていった。
そしてまた、次の年も約束通りやってきた。

 

 


「お久しぶりです。お約束通り一年ぶりにやってまいりました。
 覚えておいででしょうか?」

「いんやあ…、久しぶりだあなあ…。」

「お会いできて何よりです。
 おや? 随分夢心地のようですねえ…。
 どうなさったのですか?」

「いんやあ…、おめえ様の紹介してくれたこの嫁っこは
 最高の嫁っこだあ…。
 毎日毎日こうして膝枕さしてくれるだけで、
 おらあ幸せな気分になれるだあ…。
 もう他の事なんて興味も無くなってしまうくらい、
 最高の嫁っこだあなあ…。」

「それはそれは…、お褒めいただきまことにありがとうございます。
 ところで…、あなたの娘様なのですが…。」

「ああ…? おらの娘がなんだあ…?」

「見た所娘様はちょうどお年頃の様で…、
 よろしかったらこちらの方で、よい飼い主…、いえ、
 ご結婚相手を探して差し上げますので、
 連れて行ってもよろしいでしょうか?」

「ああ…、そうだあなあ…、娘ももうそんな年頃かあ…、
 おめえ様は信用出来るから…、お願いしようかねえ…。」

「ありがとうございます。ついでですが、
 そうなるとこれらの家事手伝いに使っている娘達も
 必要ありませんよね? もともと娘様のご友人として
 選んだわけですし…、あなたにはそのロボ…、妻がいれば
 十分でしょう?
 きっとこの娘達も立派な奴隷…、いえ、女性として
 立派に旅立っていく事でしょう…。」

「うん…、まあ…、そうだあなあ…、それじゃあ…、
 そうしてくれてかまわねえだあ…。」

「そうですか。ではもう一つご提案なのですが、
 そうしますとあなた様は妻とお2人だけになってしまいます。
 でしたらこんな広い家も畑も必要ないでしょう?
 ですから、畑の向こうの端に昔住んでおられた家を再現したものを
 建てましたので、そこに住んでください。
 この家は心配ありません。今の畑の部分は全部森にしますので。
 その方が我々未来人には別荘としての価値が…、いえ、
 何でもありません…。」

「はあ…、おらあそうたに難しい事は分かんねえけんども…、
 確かに畑もいらねえだなあ…。」

「そうでしょう…。そうしますと、当然今まで畑を耕していた
 若者達も不要ですよね?
 ご安心ください。こちら側で寂しいご婦人用の毎晩の…、
 いえ、こちらの方で新たな奉公先を探しましょう…。」

「まあ…、おらあこの嫁っこと一緒に住めりゃあ、
 そうた事どうでもええだあ…。」

「そうですか、まあ、ですが安心してください。
 いざとなったら雉を鳴かせればいくらでも金は…、
 とはいっても、もうそろそろ中の腐食性高濃縮合成プラスチックの
 残量が…、といっても、あなたには理解出来ませんでしょう…?」

「ああ…、そうだあなあ…。おらはこの嫁っこさえいれば…、
 そうた事…。」

「腐食性ですので、最初の方の小判はもうそろそろ…、
 まあ、ですが安心してください。
 この家はすぐに非可視化バリアで覆って、
 人避け催眠ガスを充満させてしまいますので、
 一般人には場所さえ分からなくなります。
 なので小判が消えても、家も消えて元のボロ屋に住んでる
 あなたを見れば、皆さんはタヌキかキツネに化かされたと
 思うでしょう。まあもっとも、村人達はそのロボ…、いえ、妻を
 キツネかタヌキと勘違いして、壊し…、
 いえ、殺そうとするかもしれませんが…。」

「いやあ…、そらあ困るだあ…。
 おらあ嫁っこが死んちまったら…、生きていけねえだあ…。」

「そうでしょう。ですから私にその妻を返し…、いえ、
 ずっと預けてください。そうすればあなたは
 妻を殺されずに済みますよ。
 それにその夢心地のような効果は、
 妻が離れても半日以上は続きます。
 意識がはっきりしだした頃には全て気付いても
 手遅れの状態になっていますがね…。」

 

こうして父親はボロボロの家に投げ込まれた。
後に残ったのはもう金を造れなくなって鳴かなくなってしまった
木彫りの雉だけが残った。

もうこの雉はいくら叩いても、殴っても鳴かないのだ。

「おお…、何から何までなんと親切な方なんだあ…。
 おらの為にこんな事までしてくれるたあ…!」

「いえいえ、これも、あの時の雨宿りのお礼ですよ…。
 それでは私は、用事があるのでこれで…。」

 

おわり 貴殿の健闘を祈る。

最終更新:2014年06月14日 20:08