■たたかえ蟹ちゃんシリーズ■第6話☆オオサカ蟹喰都市■


カネとお笑いが支配する退廃の都オオサカ。日々の非人間的労働に疲弊した人々は夜な夜なサイバースペースに逃避し、電子の海の仮想捕鯨で病んだ心を慰める。何機も並んだ機械仕掛けの巨大蟹看板が扇情的に手招きするが、入店して本物の蟹を食べられる者は一握りの上流階級に過ぎない。1

古来オオサカは「逢ふ坂」と詠われた出逢いの街だ。人の心も街の姿も平安時代とは全く変わってしまったが、その本質は変わらないのかもしれない。道頓堀グリコネオンに照らされた戎橋(えびすばし)。かつては「ひっかけ橋」とも呼ばれたこの橋の上で、ふたりの少女が出逢った。2

ふたりはお互い関わり合いにならず、すれ違おうとした。だが、やはり無視することはできず同時に振り向く。「あんた……普通の人間じゃないニャ?」モフモフのネコミミ少女が言った。「そう言うテメェもな」巨大なサイバネ腕の蟹少女が応えた。3

いや、ひと目みて普通の人間ちゃうやろと突っ込んだ者はオオサカについて無知すぎる。日本橋に程近いこのエリアでは、ネコミミメイドや機動戦士が徘徊するのは普通の光景である。ふたりは、お互いの発する常人とは異質なオーラを見て取ったのだ。4

ネコミミ少女の赤いジャージの胸には、片仮名の「マ」を意匠化した三角形マーク。サイバネ少女の赤いアームの肩には、丸で囲まれた奇怪な機種依存漢字ペイント。「……それどころか、この世界の生き物ですらねェな。化け物め」サイバネ少女は毒づき、挑発的にクローを開閉して見せた。5

「カニソルジャーじゃないみたいだけど……あんたも異界生まれっぽいニャ?」ネコミミ少女は開いた手の平を相手に向ける。肉球が、オレンジ色に輝いている。この光は……魔界の光だ。「私の生まれ? てめェは自分の死に様を気にするべきだなァ」ビウーン。クローの刃が発熱し、赤い光を帯びた。6

深夜二時。満員電車の如き人の流れは既に何処かへ消え去った。ふたりの少女の戦いを見守る者は、浮浪者然とした男や、仕事あけの水商売女など数える程だ。道頓堀川の湿気を孕んだ冷たい風が吹き抜ける。北詰、心斎橋側にオレンジの光。南詰、難波側に赤い光。10mの距離をおいて睨み合う。7

ふたりは同時に駆け出した! 距離が一瞬で詰まる!「死ねやネコミミィーッ!」赤いサイバネの刃が突き出される!「ウニャッ!」オレンジの軌跡を描きながら敏捷に跳躍回避! 空中で前方回転しつつ手の平の肉球でサイバネ鋏を打つ! バーニング! オレンジ色の爆発! 砕けるサイバネ装甲! 8

「馬鹿な! 無敵を誇る私の装甲が!?」「これが魔界エネルギーの破壊力ニャ!」ネコミミ少女はサイバネ少女を飛び越え背後に着地。サイバネ少女は振り向きながら巨大クロー裏拳! 冷たい地面に伏せるネコミミ少女! ミミ先を掠めて熱と破壊力の固まりが通過する! 9

「ウウニャアーッ!」鋭い爪でサイバネ少女の体を下から上に切り裂きながら飛び上がる! 対空ネコヒッカキ!「グワーッ!」サイバネ少女が流血!「だがこれで終わりだァーッ!」出血を気にせず巨大腕を振り下ろす! サイバネ破壊力で戎橋は崩壊落橋! 阪神優勝めいて道頓堀に落水するふたり! 10

「水中戦はお好きかなネコチャァーン?」巨大クローが垂直に振り下ろされる!「ギャニャーッ!」水で素早い動きを封じられたネコミミ少女は回避できずクロー直撃! 全身が水中に沈む! 今の道頓堀の水質はかなり改善している。水面からでも沈んだネコミミ少女の肉球光を視認できる程に。11

水中からゆっくりと、オレンジ色の光を纏った影が浮かび上がってくる。サイバネ少女は無慈悲に狙いを定め「死にやがれェーッ!」巨大な鋏を振るった! ジャゴォン! 真っ二つだ! ……だが手応えがおかしい!「こいつはッ!?」髭を生やした恰幅のよい人形だ!? 12

それは道頓堀の底で眠っている無数のフライドチキン販促人形のひとつ! ネコミミ少女は取り外した肉球を張り付けて囮にしたのだ!「しまった! くっ奴はどこだッ!?」……サイバネ少女の背中にモフりとした感触! 背後に組み付かれた! ほっぺにフニっとした肉球の感触! 13

「バアァアァーニング!」ドガァァァーン! 顔面で肉球が大爆発ッ!「アバッアババーッ!」苦しみながらサイバネ少女はクローを射出! グリコネオンに突き刺さるクロー! 連結ワイヤーを巻き上げて水中から脱出逃亡!「ネコミミィー! 後で必ず殺してやるからなァーッ!」14

……ネコミミ少女は親水歩道に這い上がり、ぶるんと全身を震わせて冷たい水を弾き飛ばした。寒い。疲れた。おなかすいた。「おなかいっぱい、蟹を食べたいニャア……」蟹看板を恨めしそうに見上げて、ネコミミ少女『ネコ人間ユージン』はトボトボと街の闇に消えていった。15

■第6話☆オオサカ蟹喰都市■ おわり



「ネコ人間ユージン」
魔界蟹によって滅びの危機にある人類最後の切り札!
ネコ忍者コアさんちの子です。ダンゲロスとは関係ありません。


蟹ちゃんとユージンちゃんが戦った道頓堀の写真を撮ってきました。
右奥のアサヒビールが、かに道楽の本店。

ネコ忍者コアさんに蟹ちゃんのイラストを描いてもらいました! ヤッター! すごく可愛い!

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最終更新:2014年06月14日 09:40