※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

■たたかえ蟹ちゃんシリーズ■第7話☆戌井しおりの▽▽日記■


静寂が支配する図書室の中で、その音はよく響いた。ギシリ。ウィーンキュキュ。ギシリギシリ。しかし咎める者はいない。彼女は、巨大な腕を持つサイバネ少女は、普通に歩いているだけだから。金属の軋む音とモータ音は図書委員の座る机に近づいていった。1

机には長い黒髪を三つ編みにした気弱そうな図書委員が座っていた。「何か…お探し…ですか……?」サイバネ腕の威容に怯えてか、消え入りそうな声だった。「うん。ちょっと欲しいものがあるんだ」サイバネ少女は幼さの残る可愛らしい顔に笑みを浮かべて答えた。2

「もらいに来たのさァーッ! ふしだらな雌狗の首をなァァーッ!」サイバネ少女は知っていた。図書委員、戌井しおりのことを。しおりが、彼の机の角で何をしたのか。彼の体操服を持ち帰って何をしたのか。あの人を穢した罪は死で償ってもらう。殺意のサイバネ爪を振り上げる! 3

「死ねェーッ! てめェを殺……………………!」サイバネ少女の台詞は途中から聞こえなくなった。サイバネ腕の機械音も消えた。そして、振り上げた巨大な腕はゆっくりと折り畳まれ、体にぴったりつく形で動きを止めた。よく見ると細いワイヤーでサイバネ少女の全身が拘束されている。4

サイバネ少女を縛り上げたのは、図書委員の無量小路奏だ。完全に動きを封じてから、無音化能力『サウンドオブサイレンス』を解除し、言った。「静かに」「グッ、うぅー。ブッ殺……はい」大量の書籍に囲まれて何倍にも増幅された図書委員オーラの前では、流石の蟹ちゃんも大人しくなった。5

「あ…ありがと、無量小路さん…」しおりが発する御礼の言葉に小さく頷き、奏は狼藉者を連行しようとした。「待って! あの…あのね、ちょっと…その子と……話してみたい…の」意外な提案に奏は驚いたが、図書エリア内なら何かあっても対応可能だろうと判断し了承した。「気を付けて」6

「……」「……」ふたりきりの図書整理室に気まずい沈黙が続く。「……」「おい」「ひゃっ」「話があるんじゃ?」「あうっ…ごめんなさぃ…」「ナニ謝ってんの?」「だって…怒ってる…みたいだから……理由…聞きたい…な…って」「じゃあ理由聞いてから謝ったら?」「あっ…ごめ…」「あのさー」7

「心当たりないの? 犬耳めくって思い出したら?」サイバネ少女はちょっと意地悪く言った。「はい……」しおりの頭にぴょこんと可愛い犬耳が生える。これは能力『ドッグイヤーメモリーズ』の副作用。大切な記憶を、いつでも鮮明に思い出すことができる、しおりの能力。8

しかし、いくら記憶を辿ってもわからない。「あの…初めてですよね…? 会うの…」「うん。初対面」「なのに……どうして…?」「それじゃ、しおりちゃんがやった、いっっっち番ワルいことって何かな?」「わっ…悪いことなんて……」……してた。9

一番悪いこと。一番イケナイこと。それを思い出し、しおりの犬耳はプルプルと震え、顔はみるみる赤くなっていった。「それで正解! た・い・そ・う・ふ・く!」「なっ…なんで……ふぇ、ふぇえぇぇぇ……」最悪な秘密の秘密を突き付けられ、しおりは泣き出した。10

「待って泣かないで! 図書委員が来ちゃう!」サイバネ少女は慌てた。奴らと今戦うのはまずい。フォローしなきゃ!「誰だって機会があったら好きな子の体操服を持ち帰って匂い嗅いでしたりするよ! 机の角に擦り付けたりもするって!」「うぇぇえぇぇえん!」11

「言う、言うから! 私の秘密も! 私も好きなの! 同じ人のこと! だから仲間だよ、友達になろう! もう殺さないし、ね、泣かないで!」「うぐっ…ぐすっ……うん……」必死の説得で、ようやくしおりは泣き止んだ。扉の外では図書委員会の戦闘班が今まさに突入する寸前だった。12

「蟹ちゃんはどうして……は、一さんの事を……好きに…なったの?」「私って何をやっても駄目駄目でさ、いっつも空回りばっかりなんだ」「……」「でね、ひっどい失敗をして『もうこの世の終わりだァーッ』って落ち込んでた時に、あの人に出会ったの」13

「あの人ね、まるで自分の事みたいに一緒に悩んでくれて、励ましてくれた」「……優しいよね」「うん! それに格好いいし!」「うん…かっこいいよね……!」サイバネ蟹鋏少女と、気弱な犬耳少女は、どこか相通ずる所があったのか、いつの間にか打ち解けていた。14

「▽月☆日」新しい友達ができた。一見怖いけど実はいい子だ。彼のことを話せる仲間ができたのは嬉しい。今度、その子の家に遊びに行く約束までした。私には才能があるんだって。そんなこと言われるのは初めてだ。あれ? でも何の才能なんだろう? 15

■第7話☆戌井しおりの▽▽日記■ おわり



参考リンク: