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■進撃の蟹ちゃん!■


その怪物は、海からやってきた。
八本の太く長い脚で大地に爪痕を立てながら、それは希望崎学園を目指して進んでゆく。
東京ドーム0.5個分の超巨大な身体を持った、超巨大な蟹の化け物。
怪物の目的は、希望崎学園の戦闘破壊! ダンゲロス! この先、学園存続の保証なし!

怪物はあっさりと学園の守備隊と二枚の防御壁を突破して校舎に迫る。
「ヒャーッハハハハーッ! このまま希望崎ごと全部ブッ潰してハルマゲドンは無期延期だぜェーッ!」
巨大な機械の蟹の背にサイバネ接続して張り付いている少女が叫んだ。
怪物の名は『超戦闘野球機蟹ハイパー・ドラッガー』。
魔法国家マジカニアの未来予算を転用して建造した無慈悲なベースボール破壊ロボである。

本来ならば『戦闘破壊学園』がこのような怪物の進撃を易々と許すはずはない。
だが、今は生徒会の主力メンバーが、武器販売の裏を調査するために出払っている最悪のタイミングであった。
足元に取り付く守備隊を意に介さず、ドラッガーは巨大鋏を校舎に振り下ろす!
「ぶっ壊れろォーッ! 戦闘破壊学園ダンゲロス『おわり』ッ! 横田先生の次回作『たたかえ蟹ちゃん』にご期待ください!」

ばうん! しかし鋏は校舎に柔らかく弾き返された!
「……校舎を……『トランポリン化』して防いだ……! だけど、こんな『跳土丘』、一度きりだよ……」
屋上に真野姫芽良! そう、希望崎にはまだ番長グループがいた!
学園を愛する気持ちならば生徒会にも負けてはいない!

「こいつの身体……サイバネ技術とゴーレム魔法を練り合わせて造ってるな。ならばマナの流れを断つ! 破ァッ!」
弾指一鉄が脚の一本にアンチ魔法掌底を撃ち込み機能停止させる!
昨日のオークションで番長グループは武器を一杯買えたので、『口奔りより鞘奔り』の調子も上々だ!

「『アイテマ』っ! 所詮そんな機械はオリジナル・アイテム! この『時計の針』に比べたら価値はゴミ同然っ!」
昨日のオークションでプレミアを競り落として上機嫌の長月メルデサムが、更に一本の脚をへし折る!
英雄“ラへレクス”の鎧が蟹に対して相性がいいのは説明するまでもない!

■ ■ ■ ■

脚二本を失い体勢を崩すドラッガー!
「今だーっ! ここは私の毒ガス兵器(未完成)で奴にトドメを……」
明和久那子が未完成兵器を手に飛び出す!
「ちょろちょろと目障りなゴミくず共めェーッ!」
超巨大な巨大機械鋏が振り下ろされる! 地面の舗装が砕け散る!
「ひっ……!」
直撃は免れたが、間近で見たサイバネ破壊力の恐怖に腰を抜かす久那子!

「明和久、下がっていろ! こいつは俺が倒す!」
「さ、斉藤くん!?」
斉藤直也。番長グループのメンバー。しかし……魔人ではない!
確かに明和の作戦は見通しが甘かった。明和自身の戦闘力は低く、毒ガス兵器も未完成で動作は不安定。
だとしても、少なくとも斉藤よりはマシだった。
斉藤の作戦は……ノープラン! 戦闘力皆無の一般人なのに、巨大蟹ロボットを前にノープラン!

だが、斉藤には奇妙な確信があった。
(俺はいつかでかいことをやる人間だ。そして、それは今だ! ……そんな気がする!)
それは根拠のない思い込み!
その思い込みは強く……斉藤は魔人に覚醒した!

「うおおおお! 喰らえ化け物おおおおーっ!」
魔人化によって強化された斉藤の拳が振り上げられ、巨大怪物の腹を打つ!
ガゴオオーンッ! ダンプカーが激突するような轟音が響き渡り、ドラッガーの山のような巨体が一瞬宙に浮いた!
強烈無比なアッパーカットを受けた怪物のサイバネ装甲腹部は大きくへこみ、剪断応力を突破されて亀裂が入る!
「ギャアアアーッ!」
フィードバック激痛に呻くサイバネ少女! バムッ! 腹部の何らかの機関が破損し小爆発!

だが、サイバネ巨獣は倒れない!
「おのれェーッ! 国家予算三年分を注ぎ込んだ最強兵器によくも傷をォーッ!」
怒りの超巨大サイバネクローが斉藤を襲う!
斉藤は両腕を交差させて防御! 無謀! 当然のように20mほど吹っ飛ばされる!

放物線を描いて飛びながら、斉藤は見た。
弾指が、長月が、自分と同じように巨大クローの餌食となり宙を舞うのを。
彼らの実力を以てしても、巨大蟹獣の脚一本を潰すのが限界だったのだ。
斉藤は、自分の身体が校庭の土に突き刺さる感触を、どこか他人事のように感じた。

■ ■ ■ ■

痛む身体を穴から引きずり出し、斉藤は地面に大の字に寝転んだ。
(惜しかったな。イケると思ったんだけどな。でも今のパンチは良かったろ。へへ……やるじゃん俺)
結局、学園を守ることはできなかったが、斉藤は満足していた。

――斉藤のそばに、いつの間にか一人の少女が立っていた。
「……ぁ…………ぅぁ」
少女は口をパクパクさせて、言葉にならない声を漏らす。その周囲には幽霊が漂っている。
(ああ、こいつは知ってる。“悪霊使い”の……鳥塚清子? 幽霊とばかり話してて、喋り方を忘れちゃってるとか……)
斉藤が少女のことを思い出しているうちに、鳥塚も喋り方を思い出した。
「……まだ……終わりじゃないよね?」
「はぁ?」
今度は斉藤が何と言っていいかわからなくなる番だった。
だって、もう終わりだろ? あの怪物はとんでもないし、弾指と長月もやられたし、俺も見ての通りだ。

「……みんなの……声」
そう言われて、斉藤は耳を澄ました。
「立ってくれ斉藤」「斉藤くんがんばって」「斉藤だけが頼りだ」
そんな声が、聞こえた気がした。うれしい。期待に応えたい。……でも身体が動かない。

「……私が……力を貸すね」
鳥塚がそう言うと、彼女の周囲に漂っている幽霊達が、俺の方に向かってきた。
うわああ、怖い。ひゃあ、身体に入ってきた! ……力がみなぎってゆく。
そして、俺は立ち上がった。

「ワアアアアーッ!」
校舎から歓声が上がる!
「斉藤!」「斉藤!」「斉藤!」「斉藤!」
割れんばかりの声援を受けて俺は走る。巨大蟹が緩慢に振り向くのが見えた。遅い!
俺は敵の巨体の下に潜り込み、大地を蹴って飛び上がった。
「うおおおおっ! いっくぜええええっ!」
格ゲーで言うところの『昇竜拳』って奴だ。助走の勢いを乗せた俺の拳が垂直に放たれ、戦闘機蟹の腹部装甲にめり込んだ。……そのまま貫通!

巨大なロボット蟹を突き抜け、俺は空高く舞い上がった。貫通した穴から強く輝く白い光が見える。
「うぁあーッ! 魔力炉をやられたッ! ヤバイ離脱ゥーッ!」
サイバネ少女は巨大ドラッガー・ユニットをパージ! 通常サイバネ☆クローに換装し火遁噴射飛行で逃亡……直後に大爆発!

■ ■ ■ ■

巨大蟹ロボットを撃破した彼の偉業は『斉藤のジャイアントキリング』として讃えられ、番長グループでも一目置かれる存在となった。
だが、皮肉なことに評価が高まることは、彼の魔人能力が効果を発揮できなくなる結果をもたらした。
しかし、斉藤は決して慢心したわけではない。むしろ彼は、一段高みに登ったのだ。
新たなる巨人が希望崎を襲ってきた時、ふたたび『斉藤のジャイアントキリング』を見せてくれることだろう。

――時は少し遡る!

巨大兵装を失い、悲しみに打ち震えながら飛行するサイバネ少女の耳に、美しいメロディが聞こえた。
(なんて素敵な曲だろう。バイオリン……? いや、ちょっと違うかな?)
彼女は、異常に気づくべきだった。
普通の演奏であったなら、サイバネ☆クローの火遁噴射音でかき消されて聞こえないはずである。
つまりこの音色は……魔人能力!
(あれ? なんだか……眠……く……)
レオナ・ブラテッシェの催眠演奏『ヴィーゲンリート』だ!

飛行が不安定になり高度が下がる!
そこに飛びかかる二つの影!

「そのハサミ、いっただきまーす!」
エルネスタ・クリンゲの両腕に装備されたブレードが唸りを上げる!『シュヴィングングクリンゲ』による高速振動!
高振動ブレードはサイバネ装甲をたやすく突破し、右クローを切り落とした!
「グワーッ!?」

「私の鋏の方が優れていることを証明して差し上げましょう!」
パウリーネ・フルスクレープスが暗殺鋏を振るう!
この程度の作業には奥の手『シェーレ』を使うまでもない!
暗殺鋏は左サイバネ☆クローの関節部分を的確に狙って切断!
「グワーッ!?」

両腕と推進力を失って落下するサイバネ少女。
「よいしょっと! ナイスキャッチ私!」
下で待ち受けていたリア・ベツァオバーンが、蟹ちゃんを抱き止める。
誘惑能力『フェアフュールング』は男性相手に使う能力だから今回は使わない。

こうして蟹ちゃんは組曲(スイーツ)に鹵獲され、番長グループの一員となった。
なお、『超戦闘野球機蟹ハイパー・ドラッガー』の残骸は“封洞”と名乗る謎の甲殻類マニアが高値で買い取ったため、マジカニア王国はデフォルトの危機を迎えずに済んだそうだ。

■進撃の蟹ちゃん■ おわり