■たたかえ蟹ちゃんシリーズ■第16話☆疾風怒涛蟹工船■


「おい、三日間でクラーケン倒すんだで!」“将軍”のような恰好をした船長の遠堂がデッキの手すりに寄りかゝってそう言った。俺達の蟹工船薄光丸が絶漁の危機に瀕していることは間違いない。クラーケンが漁を邪魔するので全く水揚げが出来ないのだ。1

海上保安庁からは腕利きの対魔忍が、有限会社二家からは十二獣の少女が派遣されてきた。「大変そうだけど、まあ、なんとかなるんじゃないか?」船内にはそんな楽観的風潮があった。――その日、本物のクラーケンの脅威を目の当たりにするまでは。2

結局のところ俺達はクラーケンというものを、本当には理解していなかったのだろう。クラーケンとの交戦経験があったはずの対魔忍や十二獣ですら、危険認識は甘かったように思える。なにもかも、いまとなってはの話だ。3

「あの子、カワイイですね。十二獣の」危険認識不足では船内随一のミキヒロが、対魔忍に気安く話しかけた。「『蟹ちゃん』と呼ぶといい。愛称で呼んであげた方が喜ぶ」確かに少女は可憐だったが、彼女の両腕の巨大サイバネ鋏を見ると俺はむしろ恐怖が先に立った。「……来るぜ」4

十二獣の少女が警告した直後には、すべてが滅茶苦茶になった。海の底から伸びてきた大量の触手が、甲板の上を引っ掻き回し出したのだ。白い触手がうねりながら獲物を探す様子は、流しそうめんにちょっと似ていた。「みんな隠れろ! トロールズ! 試合開始だ!」遠堂が叫んだ。5

「薄光丸トロールズ」は船長である遠堂の発案で結成されたラクロスのチームだ。まだ9人しかメンバーがいないので人数不足で試合はできない。そもそも「漁師だから網を使うのは得意」というのが結成理由だから船内でも選り抜きの馬鹿揃いだ。つまり……強い! 6

当然、俺とミキヒロもトロールズの一員だ。非戦闘員を船内に避難させ、クロスを構えて戦闘態勢! 次々と触手に絡め取られ戦闘不能となるトロールたち! 対魔忍は忍者刀で触手に応戦しながら、呻くように言った。「……テンタクル型だなんて聞いてないぞ!」7

だって、クラーケンに色々な種類がいるなんてことは知らなかったし、対魔忍は触手型(テンタクル)に極端に弱いなんてことも知らなかったんだ。だから、単に「クラーケン」とだけ伝えた通信士に罪はないと思う。対魔忍は既に刀を取り落とし、触手に巻き付かれ始めていた。8

クラーケンの奴は男への興味が薄いらしく、俺達は触手で拘束されて身動きできない以外の害は受けなかった。だが、対魔忍には大量の触手が集まり、全身を蹂躙されていた。「くっ、触手などに負けるかっ!」俺の位置が現場から遠く、よく見えないのが残念だった。9

ザバァーッ! 突然海中から巨大ゼリーのようなクラーケン本体が姿を表した!「もう一丁ォーッ!」赤い閃光! 十二獣の少女が振るうサイバネ巨大クローがクラーケンを斬り上げる! 襲撃直後に急速潜行し、本体に集中攻撃を加えていたのだ!「あの時の借り、たっぷり返させてもらうぜェーッ!」10

クラーケンの触手が十二獣の少女に絡みつく!「効かねェなァーッ!」腕のサイバネ破壊力が触手をたやすく引きちぎる! 激しい戦いで少女の服は破れて全裸に近い! 水しぶきでうまい感じに隠れてよく見えないが間違いなく貧乳だ!「これは勝てる!」俺達がそう思ったのは当然だ。11

だが、クラーケンの戦闘本能は、少女の凹凸が少ない身体にある2つの豆粒ほどの突起を見つけ出し狙いを定めていた。突起目掛けて触手が少女の脇腹をにゅるにゅると這い上がる!「ひゃうっ!? そ……そこはダメッ!!」その小さな突起は、少女の弱点だったのだ。12

ガゴンガゴン! プシューッ! 少女の腋の下に副乳めいて配置されたアーム取り外しボタンを触手が押し、両腕の巨大クローがパージされた。無力化! 為す術もなく触手に絡み付かれる!「くっ、クローさえ使えればこんな触手なんかに……」あっ、テンプレ入った……もう駄目だ……。……その時! 13

爆発音と水柱がクラーケンを包んだ! 増援の水雷攻撃だ! 見張りをしていた漁夫が、駆逐艦がやってきたのを見た。「駆逐艦が来た!」「しばふ型駆逐艦が来た!」触手から解放された俺達は甲板で、声を揃えて大興奮で「帝國軍艦萬歳」を叫んだ。14

しかし、事態は思うようには進行しなかった。「ふん、誰かと思えば……生きてたのね、悪運の強い!」「ケッ、そう言う敷波ちゃんもなァ!」十二獣の少女と駆逐艦娘は、因縁浅からぬ仲だったらしい。「ま、詳しくは鎮守府でじっくり聞くから」15

十二獣の少女を曳航して去ってゆく駆逐艦娘を、俺たちは呆然と見送るしかなかった。クラーケンは手負いとは言え、残された俺達トロールズだけで戦うのは無理な話だった。「触手には勝てなかったょ……」対魔忍は何度も絶頂させられて既に役に立たないし。16

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「――間違っていた。あゝやって、トロールズの9人だけを表に出すんでなかった。やるなら全員だ。いくら奴の触手が多くても全員は捕らえられないからな」一致団結の進歩的闘争で退廃主義的触手怪物を打倒するのだ。そして、俺達は、立ち上がった。――もう一度! 18

■第16話☆疾風怒涛蟹工船■ おわり



参考リンク:
  • 『疾風怒濤商店街』はロケット商会が送る超面白い小説です! 商店街のロクデナシ野球チームが3日間でドラゴンを殺す! Web無料公開期間は終わりましたが、またどこかで見ることができるかも……!
  • 『蟹工船』小林 多喜二(青空文庫)

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最終更新:2014年04月19日 07:12