■たたかえ蟹ちゃんシリーズ■第18話☆相合傘権争奪戦■


ぱらぱらと降り出した雨はやがて雨足を強め、「濡れて参ろう」と洒落込むような霧めいた春雨ではなく、むしろ夕立に近い土砂降りとなった。追跡対象は商店のひさしの下で雨宿りをしている。サイバネ少女は屋根の上から監視を続ける。甲殻類だから濡れるのは平気だ。1

巨大な機械の爪を持つサイバネ少女は、背後に立つ人の気配を察知した。「誰だッ!? 死ねェーッ!」振り向きざまにクロー攻撃! 巨大質量斬撃が雨を切り裂いてはしる! 相手は華奢なピンク色の傘でクローを受け止める! 傘が旋回してサイバネ破壊力を受け流す! 雨竜院流『雨流れ』! 2

パステルピンクでハート柄の弱々しい傘に、巨大なクローを受け流せる程の強度があることに疑問を感じる者もいるだろう。一見すると平凡な日用品に見えるこの傘は、雨竜院家の傘匠が作り出した強力な武傘なのだ。銘は『磐長姫(イワナガヒメ)』。3

閉じられた『磐長姫』が鋭く突き出される! 雨竜院流『雨月』! 傘の軌道は……危ない! 真っ直ぐにサイバネ少女の右眼球を狙っている! しかし巨大クローのサイバネ慣性力で回避が難しい! 傘が突き刺さる!「グワーッ! 眼球グワーッ!」よい子はまねしないでね! 4

サイバネ少女は屋根にクローを突き刺した安全バック転で飛び離れる。右視界が霞むが、眼球破壊は免れたようだ。左目で二人の敵を睨む。「相合傘愛。それに、衣紗早雨衣……いや、トラロックと呼ぶべきかァ? 何の用だッ! 返答如何に関わらず殺すッ!」5

「あれ? 私のこと知ってるんだ。さっすが“転校生”だねー。雨衣でイイよ」ショートカットの少女が快活に答えた。「急に襲ってきたから咄嗟に突いちゃってゴメンね。でも、私たちはあなたの味方なの」ピンク傘の少女も、アホ毛を元気に揺らしながら答えた。6

愛は『磐長姫』とは別の、やや大きめで簡素な傘を差し出して言った。「はい。これであの人と一緒に相合い傘で帰るといいよ」あの人、とはもちろんサイバネ少女が現在追跡中の一一(にのまえ・はじめ)のことである。「だけど、そのびしょ濡れの服はどうにかしなきゃニャー」雨衣の目が妖しく光る。7

ひゅんっ! 雨粒の帳を突き破り、雨衣が獣じみた素早い動きでサイバネ少女の背後に回り込む! 雨衣の履くブーツは爬虫類めいた超格好いい(本人談)意匠だ。部分変身“脚だけトラロック”!「じっとしててねー」サイバネ少女の服の下に両手を滑り込ませる! 8

雨衣が叫ぶ!「変身!」雨衣とサイバネ少女の全身が光に包まれ、服が弾け飛んで下着姿に! 雨衣の能力『有衣纏変』だ! 本来は自分の服を変化させる能力だが、服に手を突っ込みながら発動することで他人を巻き込むことが可能になる。光の中、弾けた服は再構成されて二人の身体を覆ってゆく。9

「ふたりとも、ありがとう! じゃあ行ってくる!」可愛いレインコート姿に変身したサイバネ少女は、愛にもらった傘をクローで挟み、三階建ての屋上から元気に飛び降りた。ぴょーん、ズシン! 道路の濡れた舗装に爪跡を残して着地。「はっじめさーん☆」……声を掛けようとした、その時! 10

突然、周囲を霧が覆い尽くした!「雨衣ちゃん……これは?」「あちゃー、クラウディアさんが来ちゃったかー」屋上から心配そうに見守る愛と雨衣。しかし霧で何も見えない。「グワーッ!」「グワーッ!」「グワーッ!」聞こえるのはサイバネ少女のうめき声ばかり。11

かつてサイバネ少女は、クラウディアの濃霧発生能力『ネーベルバンク』を破ったことがある。だが、それは偶然であり今回また破れるとは限らない……濃霧に視界を奪われたサイバネ少女は、武傘『ニョルズ』の連続攻撃に為す術もなく倒れた。12

「あーあ、蟹ちゃん負けちゃったね」「クラウディアさんの応援はしないの? 親戚だよね?」「んー、なんか蟹ちゃんに親近感があってねー。負け組変身ヒロイン同士って感じでさ」「私はどっちも頑張れって気分」「あ、私もそれだ」愛と雨衣は少年を巡る戦いを、安全地帯から楽しく観戦していた。13

こうして相合傘権争奪戦はクラウディア・ニーゼルレーゲンの勝利に終わり、少年はクラウディアと共に去っていった。だが、蟹ちゃんは蟹ちゃんで、この後は愛と雨衣と一緒に喫茶店に寄り、恋愛談義に花を咲かせ楽しい時を過ごすことができた。よかったね! 14

■第18話☆相合傘権争奪戦■ おわり



第18話挿絵「蟹ちゃん・相合傘愛さん・トラロック雨衣さん」

参考リンク:

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2014年06月14日 09:59