■たたかえ蟹ちゃんシリーズ■第20話☆裸繰埜ヤバイ■


ヤバイ。裸繰埜ヤバイ。まじでヤバイよ、マジヤバイ。裸繰埜ヤバイ。なにしろ殺す。もう殺すなんてもんじゃない。超殺す。殺すって言っても「20人くらい?」とか、もう、そういうレベルじゃない。裸繰埜ってのは過去三年間で通算200人以上または週ひとり以上殺すのが必須。スゲェ! 1

だって殺そうとして襲いかかっても相手は抵抗するじゃん。相手も必死だから勝ったり負けたりするし、むしろ負ける方が多いでしょ。だから二家のみんなとかはそんなに殺さない。話のわかるヤツだ。けど裸繰埜はヤバイ。そんなの気にしない。殺しまくり。2

とにかくてめェらは、裸繰埜のヤバさをもっと知るべきだと思います。そんなヤバイ裸繰埜一族の、裸繰埜夜見咲らちかと普通に人狼とかやって遊んだりするハジメさん超スゴイ。尊敬する。惚れ直した。だけど、そんな危ないことはもうさせない! らちかは……私が殺すッ! 3

東京都内とは名ばかりの孤島。裸繰埜一族の一員が持つ隠蔽能力によって一般人には知られてない、活動拠点のひとつだ。両腕を巨大クローにサイバネ置換した十二獣の少女『蟹』は、小型のモーターボートで密かに上陸した。裸繰埜夜見咲らちかが、この島に滞在していることを知り、襲撃するためだ。4

らちかの『エヴァーブルー』は、相手を問答無用で拉致する凶悪能力だ。ただし、対象には制約がある。血管に異様な執着心を持つ彼女だが、対象は外見上も美しい必要があるのだ。サイバネ少女は、異形のサイバネ巨腕さえ気にしなければ可愛らしく、らちかの審美眼に叶う容姿であることは間違いない。5

だが、勝算はある。おそらく『エヴァーブルー』の対象制約をすり抜けることは可能だろう、とサイバネ少女は予想していた。だが、能力発動を許さず一撃で仕留めるのが理想的。サイバネ破壊力ならば、それが可能だ。ガシャーン! 島に建てられた洋館の窓をクローで突き破り秘密裏に潜入! 6

ギシギシと機械音を立てながら、こっそりと館内を索敵するサイバネ少女。その背後から声。「遠路はるばる、よくお越しいただきました」しまった、先に捕捉された! やはり敵本拠地では地の利があったか。すでに背後に密着されている。『エヴァーブルー』の射程範囲内! 7

「ずいぶんと汚らしいお客様ですね……」サイバネ少女の髪はボサボサに乱れ、服も顔も全身が機械油で汚れていた。これが敵の能力制約を欺くための秘策である!「でも、綺麗な桃色の瞳……いくら汚しても素肌の美しさは隠し切れませんよ」「ああっ、作戦失敗! うわあああぁぁあ、誰か助けてーッ!」8

『エヴァーブルー』の真の恐怖は物理的拉致ではない。その効果は犠牲者に関連する全ての者に及び、記憶改竄がもたらされる。友人も二家の人々も、故郷で待つ本当の家族も、そして愛する少年も、サイバネ少女「蟹ちゃん」が存在したことすら忘れてしまうのだ。9

「いやッ! いやあアぁッ! 死ぬのは嫌! みんなに忘れられるのも嫌ッ! お願い許して! いやだ! いやだよぅう!」「……そんなに心配しなくても大丈夫ですよ」らちかは泣きじゃくる闖入者の頬に手を添えて、この可愛らしい子と二人きりになりたいと願った。『エヴァーブルー』。10

……しかし何も起こらない!「これは!?」慌てて離れるらちか。「嫌ァアアぁあぁ……あれ……?」サイバネ少女は目と鼻を固いクローでぬぐう。「ククク……なんだよ。びびらせやがって。作戦成功じゃねェかよォーッ!」赤熱したクローが襲いかかる! 11

「ヒャーハハァーッ! 能力が無効ならてめェなんぞ怖くはないぜェ! 死の恐怖に怯えなァーッ!」二本の巨大クローが嵐の如く吹き荒れる! らちかは逃げの一手!「待ちやがれェーッ!」サイバネ凶器を振り回しながら追いすがる! だが、その右足がトラバサミを踏んだ!「グワーッ!?」 12

「万が一に備えて」らちかが解説する。「保険の効いた部屋で声を掛けたんです」懐からシュッとメスを取り出す。「何故、私の能力が効かないのか。あなたの身体、じっくり解剖して調べさせてくださいね」「ヒイッ……!」クローでトラバサミの破壊を試みる。固い。魔人捕獲用の特殊構造だ。13

「大丈夫。罠で脚はちょっと傷つけちゃったけど、他の部分は跡が残らないよう上手く切開してあげるからね」柔和な表情でらちかが迫ってくる。「安心して。私、切るのは慣れてるから」「やぁ……やだ……こないで……」クローで罠が固定された床の破壊を試みる。固い。特殊建材なのか。14

「うあぁああァアあぁあァーッ!」クローで右足を膝下から自切! 半狂乱でサイバネ火遁フルバースト! 火遁推進のアームに引きずられるように窓に向かう! ガキン! 固い! 特殊ガラスに弾き返される!「あぁああァーッ!」闇雲に火遁放射! 熱と物理破壊力で窓が破れ屋外脱出! 15

らちかは、残されたサイバネ少女の右足の断面を覗き込んだ。「うっ……」その不気味さに軽く吐き気を催す。その脚には「血管」と呼べるような構造が存在していなかったのだ。「まともな人間じゃない……『エヴァーブルー』が発動しなかったのも納得です……」らちかは嘆息した。16

「ホムンクルス? ミュータント? ……奇妙なマグソイド(魔人もどき)が居るものですね」罠から右足を取り外し、無造作にダストボックスに放り込む。何者かはわからないが、こんな醜い循環器系の存在には興味はない。らちかは、猛スピードで島から逃げてゆくボートを無感情に見送った。17

■第20話☆裸繰埜ヤバイ■ おわり



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最終更新:2014年04月19日 07:47