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■たたかえ蟹ちゃんシリーズ■最終エピソード☆二〇禾予抹殺(1)「夜」■

茨城県北端。標高1021mを誇る県下最高峰ヤミゾ山の地中に天然洞窟を拡幅して建造された、誰も知らない二家の秘密拠点のひとつは現在厳重な警戒態勢下に置かれている。深夜。闇の中、銃器を手にしたモヒカン衛士たちが、交代で洞窟の入り口を警備している。1

「“セブン”の奴、来ねえなぁ」三人のモヒカン衛士のうちひとりが欠伸をした。「あの、俺たち、二家に入って間がないもので、その、よくわかんねえから教えてくれないスか」「一体、何があったのですか?」新人らしい残り二人は、緊張した面持ちで問い掛けた。2

「知らねえの? 噂の美少女怪盗“セブン”から予告状が届いたんだぜ。『蟹ちゃんの命を頂く』ってな」「でも、流石の“セブン”でも難しくないスか?」「警備は厳重なはずでは」「キヒヒ、当たり前よ。『蟹』の間は一番奥。そこに行くには他の十二獣が守る部屋を全部突破しなきゃならねぇ」3

「なるほどねっ。説明ありがとっ! それじゃ、ヨルさんお願いっ!」「ああ。『一日が二日の前の日であるとき、二日の次の日は四日であるか六日であるか?』」「あ? おまえら何を言って……うわああああーっ!?」モヒカン衛士のひとりが突然消えた! 4

モヒカン衛士は過去に居た場所に飛ばされたのだ。恐らくは自宅に戻されただろうが、運悪く車道横断中などに戻されなかったことを祈ってあげたい。残った二人の新人衛士は、モヒカン装束をするりと解き正体を現した。一七(にのまえ・なな)と一四六(にのまえ・よる)だ。5

「それじゃ、見張りお願いねっ」そう言って洞窟の中に単身颯爽と入っていった年下の義姉を、四六は見送った。一家に入って日の浅い四六には、まだよくわからない。なぜ彼女は、一切の躊躇も感じさせずに危険な敵の本拠地に飛び込んでゆくのか。6

一一(にのまえ・はじめ)の周辺に出没し、関係者を見境なく襲撃する危険なサイバネ少女『蟹ちゃん』こと二〇禾予(さんした・おうじょ)。一家は、蟹ちゃんを放置するわけにはいかないと判断し、処理する決定を下した。執行者は、同じ番長グループに所属していた七。7

七は洞窟の中に消えた。最初の部屋は『狼』の間。美少女怪盗“セブン”と二十二獣(サンシタ・トゥエルビースト)の激しい闘いがまもなく幕を開ける。……独り残った四六は考えた。果たして自分は、家族のためにここまで危険な闘いに飛び込めるのだろうか。8

(もし、一家のみんなが、自分のためにも命懸けで戦ってくれるのならば)四六は思う。(……自分だって命懸けで、戦えるかもしれない)根無しの実験体であった四六だが、最近は一家の一員として墓に入るのも悪くないと思うようになってきた。……今夜は二〇禾予、最後の夜である。9

■二〇禾予抹殺(1)「夜」■ おわり ■(2)「誠」■ につづく

■たたかえ蟹ちゃんシリーズ■最終エピソード☆二〇禾予抹殺(2)「誠」■

洞窟の中を歩いていた七は、突然開けた空間に出た。道場ほどの広さの空間に畳が敷かれ、新撰組のような羽織りを纏った少女が正座して待っていた。『狼』の間を守る十二獣のひとり、二〇五十(さんした・まこと)である。長い黒髪を、狼の尾のように後ろで纏めている。1

〇五十は澱みない所作で立ち上がり、懐から取り出した赤い液体入りの小瓶を一気に飲み干した。これは“理性を抑え込み身体能力を大幅に強化する秘薬”である!「蟹ちゃんを守るためなら……この命、散らしてみせよう!」“秘薬”を用いる代償は自分自身の死! 能力名『羅刹』! 2

さらにハルマゲドンの時は、うっかり刃こぼれさせてしまって使えなかった日本刀を抜き放つ! そして愛刀の銘を叫ぶ!「噛み砕け『八重桜』!」刃が八重歯じみてギザギザになり効果「超凄惨な死」が付与される! 歯喰犬刃の『狂犬ガウガウ』を封入しているのだ! 3

しかし、七とて無策ではない。希望崎で〇五十の能力は既に見切っている。『怪盗”セブン”七変化』! くるりと廻りながら怪盗スーツを脱ぎ捨てると、七の姿は西部劇から抜け出たような美少女ガンマンに早変わり! ばきゅーん! 艶やかなスカーフをなびかせクイック・ドロー! 4

「はんっ! 噛み砕いてやる!」〇五十は大きく口を開け、飛んでくる弾丸に噛み付く!“秘薬”で得られる極度の精神集中によってのみ可能な神業的弾丸白歯取り! 鋭く尖った上下の犬歯が噛み合わされ弾丸を挟み込む! しかし……! 弾丸は牙を滑り抜け喉の奥に命中!「ぐふぅっ!?」5

「ゴム製の弾だよっ! 威力は低いけど『羅刹』を撃ち抜くシルバーバレットさっ!」ばきゅーん、ばきゅーん! 七は二丁拳銃を連射してゴム弾幕を張る! 〇五十は狼の目で射線を見切り獣じみた回避動作で距離を詰め鋸歯日本刀斬撃!「その銃もらったーっ!」6

名刀『八重桜』の鋭い牙が七の銃を噛み砕こうとする! ギィンッ! しかし銃身が刃を弾き返した!「なにっ!?」「硬質プラスチック製の銃身さっ!『羅刹』の特性“金属破壊”は知ってるからねっ!」七はくるりとターンしながら拳銃本体による近接打撃を繰り出す!7

(ああっ、やられる……///)〇五十は自分の延髄に振り下ろされる銃身打撃を、歓喜と共に迎え入れた。痛みと同時に甘い痺れが全身を走る! 〇五十はマゾヒスティックな散華願望を抱いていた。どのみち“秘薬”の副作用で滅びる身なれば、敵に討たれて死するが本望! 8

「きゃうんっ!」嬌声めいた呻きを漏らし、快感に震えながら意識を失う〇五十。「……残念かも知れないけど、多分キミは死なない」七は言った。「狙った武器が金属じゃなかった時点で、キミの『認識』はズレてしまってるからねっ!」なにしろ“秘薬”の正体は単なるアセロラジュースなのである。9

「だけど、大切な物を守るために命を賭けるキミの『誠』、確かに見せてもらったよっ!」第一関門『狼』の間を守る二〇五十を撃破し、さらに奥へと進む怪盗“セブン”。目指す『蟹』の間まで、残り十部屋。次なる十二獣の名は……『呑龍』! 10

■二〇禾予抹殺(2)「誠」■ おわり ■(3)「魔眼」■ に続く

■たたかえ蟹ちゃんシリーズ■最終エピソード☆二〇禾予抹殺(3)「魔眼」■

第二の番人『呑龍』は、友好的な素振りで七を出迎えた。「やあ。こんな辺境の地までようこそ。まあ、お茶でも飲んでいきたまえ。俺に君を止める力はないし……止める気もない」確かに二四四(さんした・ヨッシー)に戦闘力はほとんどない。彼の能力は“相手が穿いているパンツを知る”それだけだ。1

「家族を消そうとする者を止める気がない……? そんなこと言われても信じられないねっ」七にとって家族は何よりも大切な存在だ。「そもそも俺は蟹ちゃんに無理矢理連れてこられて二家の一員にされたんだ。しかも戦闘部隊『十二獣』って何だよ。俺の能力は諜報専門だぞ!」2

二四四、あるいは紅石密義の能力『アンダーワールド・ドミネイター』は時空を超えたパンツ完全知能力である。侮るなかれ。パンツ情報に基づくプロファイリングによって、対象の人となりや魔人能力を高精度で割り出すことができるのだ。3

「でさぁ、渾名から取って『四四(ヨッシー)』はまだいいよ。そこから更にビースト・ネーム『呑龍』ってどーゆーことだよ! 俺の能力も性格も全然関係ないじゃないか!」四四の愚痴はいつまでもいつまでも続くようだった。「……なるほど、わかったよっ!」4

「あなたの狙いは『時間稼ぎ』だねっ!」長々と続く愚痴に付き合っていたら、予告の“今夜”を守れなくなってしまう。「感づかれちゃったか。やはり俺が視た通り、君は優しいけど鋭いね。……先に進みたまえ。本当は止めたいところだが、正面から君と闘って勝てる気はしない」5

「そうするよっ」七はくるりと四四に背を向け、『呑龍』の間を抜けようとした。その時!「ケヒャーッ! 敵に背を向けるとは愚か者めェーッ! 背後からなら別だぜェーッ! ノックアウトしてから怪盗生パンツをじっくり拝見させてもらうぜェーッ!」四四が隠し持っていた鈍器で襲いかかる! 6

七は振り向きざまの回し蹴り!「とおっ!」「ギャーッ!」第二の番人『呑龍』を撃破!「……背後から襲っても無駄だって、『ドミネイター』でわからなかったの?」「ふふっ」四四は力無く笑った。「あんなんでも可愛い義妹だからな。無駄だとわかっていても、タダで通せるわけないだろ?」7

「なるほどっ」ぷしゅっ。七は麻酔弾を撃ち込み、四四を完全に沈黙させた。「あなたも立派な二家の一員ってわけだねっ!」蟹ちゃんまで、残りあと九部屋。怪盗“セブン”の長い夜は、まだ始まったばかり。次の部屋で待ち受ける十二獣は『牛』……巨大な敵だ! 8

■二〇禾予抹殺(3)「魔眼」■ おわり ■(4)「おっぱい」■ につづく

■たたかえ蟹ちゃんシリーズ■最終エピソード☆二〇禾予抹殺(4)「おっぱい」■


たわわに実った豊かな胸。それが、ビースト・ネーム『牛』のホルダーである二〇二八一(さんした・おっぱい)の武器である。「あんな貧乳娘、〇二八一様の敵じゃありませんよ!」「そうだそうだ!」「おっぱい! おっぱい!」周囲を固める親衛隊が高らかに礼讃する。1

バーン!『牛』の間の扉が開く! やってきたのは……二〇二八一!?「騙されないで! そいつが“セブン”よ!」「なんですって!?」睨み合う二人の〇二八一! 豊満な四つのおっぱい!「なんてことだ……」「〇二八一様が2人……」「すごい光景だ……」2

「「お前たち! 早くこの偽物を倒しなさい!」」2人の〇二八一が同時に叫んだ。「そんな……どっちが本物なんだ?」2人は顔も豊かな胸もそっくり同じ。「提案があります!」モブ親衛隊の一人が言った。「揉んでみれば偽物を見分けられるんじゃないでしょうか!」3

「「アホかーッ!」」二人の〇二八一が不埒な提案をしたモブを同時パンチで殴り倒した! まるで同一人物みたいに完璧なシンクロ打撃!「仕方ないわね」「どっちが本物か」「思い知らせて」「あげるわ!」勝負の方法はもちろん、おっぱい相撲だ。4

おっぱい相撲とは小さな足場の上に立った二人の女性が胸をぶつけ合う競技である。足場から落ちた方が負け。おっぱい以外の箇所を接触させてはいけない。必ずしも巨乳ならば有利であるというわけではないが、慣れない偽乳の七には明らかに不利だと思われる! 5

激しくぶつかり合う四つの膨らみ! ただでさえ開き気味のブラウスの前が……アアーッ! 危ない! これは凄い!「ふんっ、偽物のクセにやるわね!」「こっちのセリフよ!」モブ男子たちは刺激的すぎる光景を呆然と眺めることしかできなかった。6

だが、やがて趨勢が傾いてきた。徐々に、一方の〇二八一(以下、乙と表記)の体勢が押されてきている。「アハハ、化けの皮が剥がれてきたかしら?」「くっ、私は負けるわけには……」「フン、トドメよ!」ばいーん! 巨大な乳が〇二八一乙を弾き飛ばす!「きゃああーっ!」足場から転落! 7

「アハハハ、いいザマねェ、偽物さん!」「くっ、基礎体力の差か……でも……いくらあんたが強くても……私は蟹ちゃんを守るんだ!」なりふり構わず相手の足にすがりつく〇二八一乙!「見苦しい! さっさと諦めて正体をあらわしな!」容赦なく蹴りを加える〇二八一(以下、πと表記)! 8

「ぐっ、ううっ……蟹ちゃん……蟹ちゃん……」手酷く蹴られてボロボロになっても、〇二八一乙はその手を緩めない!「しつこい! 私があんな子のためにそこまで必死になるわけないでしょ! 猿芝居はやめろ偽物!」〇二八一πの無慈悲な蹴りが続く!「ざわ……ざわ……」動揺するモブ男子たち! 9

「蟹……ちゃん……」〇二八一乙は限界が近いのか、もううわごとのように呻くだけだった。だが手は離さない。「お前たち、もうどっちが偽物かわかっただろう? 手を貸しなさい!」〇二八一πがモブに呼び掛けた。「……わかりました……本物の〇二八一様は……あなたです!」10

モブ親衛隊たちは一斉に〇二八一πに襲いかかった!「〇二八一様から離れろ偽物めーっ!」「なっ!? 違う、偽物はコイツ……フギャーッ!」親衛隊たちの怒りの鉄拳が振るわれる! その間に〇二八一乙は素早く『牛』の間を抜け出した。そして、変装を解く乙。11

「あなたの良い所はおっぱいだけじゃないんだよ。例えば、義妹思いのトコとかねっ」だからこそ多くの男子を魅力できるのだ。「でもあなたは、おっぱい以外の魅力に自覚的じゃない。……だから私はあなた以上にあなたらしい二〇二八一を演じられるわけさっ!」……次は『蝙蝠』の間だ! 12

■二〇禾予抹殺(4)「おっぱい」■ おわり ■(5)「遺産」■ につづく

■たたかえ蟹ちゃんシリーズ■最終エピソード☆二〇禾予抹殺(5)「遺産」■

第四の間を守る番人、『蝙蝠』こと二六九(さんした・ローグ)は既に死んだ。無人の間である。誰もいない空間。探検家である六九の趣味だろうか、天然洞窟の味わいを強く残してある。(だけど……)怪盗“セブン”の直感が、違和感を察知していた。(この部屋は危険だっ!)1

自然の造形に見せかけた裏に、機械仕掛けの気配がある。微かに残っている、複雑に岩を動かした痕跡。巧みなウェザリングを施した擬岩の壁面。(死してなお蟹ちゃんを守るのか……。一定の手順を踏んで解除しないと罠が起動するって寸法かなっ。巨岩ゴロゴローっとかねっ!)2

しかし、ゆっくりと分析している時間はない。素早く解析して突破しなければ……! 七は六九の死体から掠め取ったプレミアアイテム『時計の針』を握り締め、思考を走らせた。岩に残された微かな痕跡を手掛かりに構造を解析し、ロック解除手順を読み取る! 3

(……読めた!)それらしい手順は見いだした。これ以上の検討を加える時間はない。この読みに賭ける! 部屋中央の岩を横に30cmずらし左に25度回転、隅の細長い岩を倒す、菱形の小さな岩を壁のくぼみに嵌める、それから……。しかし、七は決定的な思い違いをしていた。4

ゴゴゴゴゴ! カラクリ装置が作動し、岩壁に擬装されていた重い岩の扉が開く!(これはっ……!)七は目を見開いた。壁の奥にあった、もうひとつの部屋。そこは、六九が世界各地の遺跡から盗掘してきたアイテムの秘密倉庫であった。罠など、最初からなかった。5

(これは凄いなっ……!)チラリと見ただけで興味を惹かれるアイテムがいくつもある。しかし、時間もないし予告しておいて別の盗みをついでにするのもポリシーに反する。七は後ろ髪を引かれながら、『蝙蝠』の間を通過した。……次は『駒』! サンシタにあるまじき強敵! 6

■二〇禾予抹殺(5)「遺産」■ おわり ■(6)「軸」■ につづく

■たたかえ蟹ちゃんシリーズ■最終エピソード☆二〇禾予抹殺(6)「軸」■

ガション! ガション! ガション! 洞窟内とは思えぬ広い空洞の中、暗殺竹馬が歩く音が鳴り響く。ブオオオオーン! 竹馬に組み込まれた18個のジェット扇風機が唸りを上げる。手の着けられないY軸上のアドバンテージが、『駒』の間に入る狭い入り口を完全に封鎖する! 1

ヒュンヒュンヒュンヒュン! 暗殺竹馬を駆る男は、長大な暗殺竹槍を巧みに旋回させる! 万が一竹馬によるY軸上アドバンテージをすり抜けてジェット気流の及ばぬ側面に回り込んだとしても、竹槍の圧倒的リーチで貫かれるだけだ。手の着けられないX軸上アドバンテージ! 2

単純なサイバネ破壊力で比較すれば『蟹』や『蝦蛄』には及ばないが、その戦略的価値において間違いなく『駒』は二十二獣最大戦力の一人と言って良いだろう。サンシタと呼ぶには強すぎる、との評もある。その恐るべき名は二十(さんした・えっくすわいじく)。3

(えっくすわいじく……なんて名前……)一家にも常軌を逸した名を持つ者は多いが、こいつは異常すぎる。同じ字を書く十(くろす)程度では到底勝ち目はない。対抗できるのはバジルこと〇〇(ばじりすく)や、二六(てるまえろまえ)ぐらいだろうか。4

(亡くなった黄泉路さんの能力なら、塵も残さず消し去れたろうなぁ……)通路の向こうから吹き寄せるジェット気流を感じながら、七は思案した。(まぁ、手持ちのカードだけで勝負するしかないかっ!)怪盗“セブン”七変化! さて今回は誰の姿になるのだろう? 5

ジェット扇風機が巻き起こす圧倒的Y軸上アドバンテージを切り裂き、一本の槍が飛来する! 蛇部凛子の『槍人間の投槍(ピッチ・オブ・ヤリマン)』だ! 確かに二十ほど殺り甲斐(やりがい)のある槍男(やりガイ)はなかなか居ない! 敵陣営の能力も押さえていた七の抜け目なさ! 6

アドバンテージ圏外からの遠距離攻撃!「ぬうっ! だがかわせるっ!」十は竹馬技術を駆使して姿勢を変え投擲軌道上から離脱! 精神疲弊状態でなければ避けられる! しかし七凛子はニヤリと笑う!「普通の槍ならねっ! お願い、モノノケさんっ!」「おっけー! ヤリますよーっ!」7

あらかじめ伊吹命に変装して『命の息吹』で槍をモノノケ化していた!「スピア(隙あ)りーっ!」槍の軌道が空中で変化し、十の脚に刺さる!「グワーッ!」激痛で馬ランス(※)を崩して竹馬が倒れる!(※竹馬と突撃槍とバランスをかけた高度な駄洒落)8

Y軸がぶれてジェット気流の方向が乱れた隙に七が距離を詰める!「イ、イヤーッ!」床に倒れた体勢から暗殺竹槍で突く!「ヤリーッ!」投擲槍さんが身体を捻って傷口をさらに広げる!「グワーッ!」激痛でX軸がぶれて竹槍の狙いが逸れる! 七は横に飛んで回避しながら銃撃! ぱしゅんっ! 9

「グワーッ、麻酔弾! ……スヤーッ!」安らかな眠りにつく十。第五の間『駒』突破! 二十……恐るべき敵であった。だが、サンシタとは実力のみではなく、運命に対して与えられる名である。主人公たる七に傷ひとつ与えられず敗れた十のサンシタとしての『軸』はぶれてなかったのかもしれない。10

シリーズ主人公は蟹ちゃんだけど、現在進行中の展開における主人公は一七ってことです。さて、次の部屋は『河豚』の間……あれ、河豚じゃなかったっけ?『狗』ナンデ? しおりちゃん断ってたよね? ちょっと蟹ちゃん、これどーゆーつもり? 11

■二〇禾予抹殺(6)「軸」■ おわり ■(7)「急展開」■ につづく

■たたかえ蟹ちゃんシリーズ■最終エピソード☆二〇禾予抹殺(7)「急展開」■


『河豚』の間を守っていた男は禁忌の同族殺しを侵したために名前を捨て、無名の毒ナイフ使いとして死んだ。今は空き部屋のはずである。しかし、部屋には『狗』と書かれたファンシーな表札がかかっている。これは、蟹ちゃんの手作りである。1

戌井しおりを『狗』として十二獣に迎え入れる計画は、一応は存在した。だが、本人が嫌だと言ったので中止になった。表札は蟹ちゃんが先走って作ったものである。室内には危険な毒ナイフが多数残置されていたが、触らなければ問題ないので七は何事もなく通過した。2

第七関門『駱駝』の間は……砂漠だ! とある少女の空間転移能力『私が居るない場所』を利用して洞窟内に広大な鳥取砂漠の一部を展開している! 広い! そして暑い! これだけ大規模な空間転移を維持するのには、どれほど強大な精神力が必要とされるのであろうか。3

番人、いや、番らくだである2八八(さんした・ふたこぶ)の精神ステータスは……20! なんという圧倒的な強靭さを誇るメンタリティであろうか! 彼はその精神力で砂丘学園の追っ手から逃げ延びて二家に身を寄せているのだが、凄いのは精神力だけなので七は問題なく倒した。4

「グハハハハーッ! 兄より優れた妹など存在しねェ! 俺様のサイバネ破壊力は蟹ちゃん以上だぜェーッ!」巨大な両腕のサイバネ・ハンマーを振るう『蝦蛄』二四八五(さんした・ジャコ)は実際強く、とてつもなかったが、最終的には自ら起こした落盤に埋もれ自滅した。5

「あれっ、ここでこんなとは……。その節は能力を貸してくれてありがとねっ!」「ぐぬぬ、部屋のガス室改造が完了していれば“セブン”ごとき……ひっ! どうぞお通りください」最も最近に加入した第九の番人『蝦夷鼬(ウパシチヌンロプ)』二七五(さんした・なこ)を突破! 6

十二獣『馴鹿』こと二一四(さんした・いし)。通称『ドクター』。元は単なる歯科医だったが、無節操な業務拡大を繰り返した結果として自らの肉体をバイオサイバネズンビーロボに改造している恐るべき医者だ。「ヒヒヒ、流石の“セブン”も無傷とはいかなかったな。どれ、治してやろう。ヒヒヒ」7

「と見せかけて、ケヒヒヒャーッ!」メスを閃かせ襲いかかる一四! 卑劣! 七は振り向きざまの裏拳!「たあっ!」「ギャワーッ!」第十の番人『馴鹿』を撃破!「騙し討ちを狙うタイプの卑怯者は、成功したと思った瞬間に一番大きな隙ができるっ! 対処は簡単さっ!」8

『蟹』を除けば、残る十二獣はあと一人!『栗鼠』の間は綺麗に整頓されたダイニングキッチンの家庭的空間だった。最後の番人『栗鼠』は七に言った。「ここは絶対に通しません。でも戦う前に……、まずはこれを食べて頂きます!」これは……お弁当だ……? 9

■二〇禾予抹殺(7)「急展開」■ おわり ■(8)「お弁当」■ につづく

■たたかえ蟹ちゃんシリーズ■最終エピソード☆二〇禾予抹殺(8)「お弁当」■

小さなお弁当の包みを差し出して、十二獣『栗鼠』の二〇三七二三(さんした・おさななじみ)は言った。「普通の意味で言うならば、毒などは入っていません。もし疑うなら、棄てていただいても結構です」「いや……食べさせてもらいます」七はお弁当を受け取った。1

七はダイニングテーブルの席につき、お弁当の布包みをほどいた。パステルカラーのプラスチック蓋を開ける。小さな箱だが、中には手間暇かけた色とりどりのメニューがぎっしりと詰まっていた。分量の少なさは、小柄な七に合わせたのだろう。実際、ちょうど良い量だった。2

まずはミニハンバーグから箸をつける。ひと口かじると、中にソースが封入されていた。汚さずに食べられる工夫だ。手作りハンバーグは、玉ねぎ多めで柔らかかった。赤い人参グラッセをつまみ、黄色い卵焼きを食べる。卵焼きにも砂糖が使われていた。甘味が強いのは疲労した七を労っての味付けか。3

なるほど、通常の意味での毒は入っていない。だが、七は胸が苦しくなった。このお弁当には、七のことを思いやる気持ちが詰まっている。初対面、しかも敵である自分にこれほどの思いを注げる優しい〇三七二三が、妹の蟹ちゃんを愛する気持ちはどれだけ深いだろうか。4

そんな姉から七は、妹を奪い去ろうとしているのだ。「……ごちそうさまでした。おいしかったです」素直な感想を述べた。「おそまつさまでした。……このまま帰っては、くれませんよね?」「うん。悪いけど、やらなければいけないんだ」心を鬼にして、二〇禾予を殺さなければいけない。家族のために。5

〇三七二三は左手にフライパン、右手に菜切り包丁を構えた。「絶対に通しません。蟹ちゃんには指一本触れさせない!」戦闘経験は少なそうだが、身体能力は低くないことが窺える。それ以上に決意の強さ。冷たい汗が一筋額を流れるのを感じながら、七は怪盗銃を抜いた。「それじゃあ……いくよっ!」6

……強敵だった。いままでの十二獣の誰よりも強かったかもしれない。だが、全身に傷を負いながらも七は勝利した。あとは蟹ちゃんを倒すだけだ……! 最後の『蟹』の間を目指し、暗く曲がりくねった洞窟の通路を進んでゆく。だが、七の行く手に大勢の人の気配。7

七を待ち受けていたのは、十二獣の『司令官』二一(さんした・はじめ)であった。「貴様を妹に会わせるわけにはいかない。『ここまで来たことは褒めてやる……だが、この人数には勝てまい!』」引き連れた手下の数はおよそ五十名! 動員可能な二家の戦闘員ほとんどを招集した総力戦! 8

(なんて人数……!)だが勝機はある。狭い洞窟内では数の威力は半減。そして、敵は全員……男!「怪盗“セブン”七変化……佐亜倉ひめ!」魔性のフェロモン因子が洞窟内に充満する!「皆さん、妹思いで優しいんですね」佐亜倉七は、しとやかに、ひかえめに、かわいらしく、破滅的に笑った。9

■二〇禾予抹殺(8)「お弁当」■ おわり ■(9)「王女」■ につづく

■たたかえ蟹ちゃんシリーズ■最終エピソード☆二〇禾予抹殺(9)「王女」■

佐亜倉七の鉄拳が最後の一人を叩き伏せた。本格的に『円壊の理』を発動せずに済んだのは幸いだ。七は変装解除し、小さな胸を撫で下ろす。自分を守って義兄たちが死んだら、蟹ちゃんは悲しむだろうから。いよいよ残るはサイバネ少女・蟹ちゃんただ一人。1

サイバネ少女『蟹』こと二〇禾予(さんした・おうじょ)。両腕を巨大なサイバネ☆クローに置換したサンシタ・ヒロインである。魔法王国マジカニアの第一王女であった彼女は、愛する少年を死の運命から救うために自らサンシタ・イニシエイションを受け、王家の誇りを棄てた。2

一家はその選択に感謝している。可能ならば、蟹ちゃんの好きなようにさせてあげたかった。だが、その存在は危険すぎた。そして、処分が決定する。すべては一家のために。当事者である少年、一一(にのまえ・はじめ)は何も知らない。蟹ちゃんの真実も、自分が辿るはずだった死の運命も。3

アンプリファイされたサイバネ少女の声が洞窟内に響いた。『おのれおのれ怪盗“セブン”め! よくも私の義兄さんたちを! よくも優しい義姉さんたちを! てめェの死体は粉々にすり潰してミジンコの餌にしてくれる!』七は答える。「残念だけれど……死ぬのはキミだよっ!」4

『ヒャハハハハーッ! 馬鹿め! 私の目には視えている! 胴体を真っ二つに両断されて、てめェが絶命する未来がなァ!』サイバネ少女は予知能力<未来視>を持っている。サンシタ化以前と比べて大幅に弱体化し、ごく短期の予知しかできなくなったが、その精度は健在だ。5

「未来は……」七は言った。「変えられるっ! それはキミが一番良く知ってるハズだよっ!」『ククク……。その通りだ。私は自ら望んでこの世界を選び取った! 後悔なぞしてねェし退く気もねェ! 私は王女だ! 糞ヒロインどもを全員皆殺しにして女王になるんだ!』6

「させないっ! キミの悲しい戦いは今夜が最後だっ!」七の視界が開けた。『蟹』の間に到着したのだ。広大な地底湖……それがサイバネ少女のテリトリーであった。壁面に据え付けられた灯具の冷たいサイバネ光が湖面を照らす。『ようこそ私の部屋へ。そして……死ねェーッ!』7

水中から二発のスティンガーミサイルがハプーン射出される! 七は湖岸を全力疾走して可能な限り距離を取る! 二連続爆発! 頭が割れるような轟音が洞窟を揺るがす! 間一髪で爆心圏を逃れた七は怪盗ゴーグルを装着。湖面を睨み、暗闇の水中に潜む敵を探す。8

いや、まず倒すべきは本体ではない! 十二条の赤外線索敵レーザーが七を捜して蠢く! 壁面各所に設置されたこれら全てがサイバネ少女の目だ! 怪盗銃の狙撃でひとつずつ『目』を潰してゆく。『ちぃッ! 気付いたかッ!』壁面から多数の機銃が出現! 乱射! 洞穴内に銃弾の嵐が充満する! 9

■二〇禾予抹殺(9)「王女」■ おわり ■(10)「セブン」■ につづく

■たたかえ蟹ちゃんシリーズ■最終エピソード☆二〇禾予抹殺(10)「セブン」■

美少女怪盗“セブン”は義賊であると、世間一般には考えられている。汚い金持ちから金銀財宝を掠め取り、清貧なる庶民に分け与えるからだ。然り。一七は己の正義を実現するため夜を駆けている。七が信じる正義は「幸福絶対量の増加」である。1

盗むことで被害者に与える不幸よりも大きな幸福を、誰かに与えるられるのならば、それが七には正義の執行である。七の正義は、警察が守るべき正義「秩序」とは相容れない。七は、自らの正義が絶対とは考えていない。人はみな、自分だけの正義を実現するために生きているのだ。2

蟹ちゃんが暴れると、死者は出ずとも誰かが不幸になる。それで蟹ちゃんが幸福になるのならまだいい。撃退された蟹ちゃんも不幸になり、幸福絶対量は減少する。蟹ちゃんが成し遂げた大局的正義は認めるが、だからと言って小さな悪を見逃せるほど七は達観していない。3

蟹ちゃんの命を護る魔技『ホーリィライト☆フォース』を無効化する術を、七は持っている。しかし七を阻む無数の弾幕! 全弾回避は物理的に不可能! ならば「七変化!」エルネスタの装甲スーツで銃弾に耐えつつ高振動ブレードで機銃と索敵ユニットを破壊してゆく! 4

装甲越しでも全方位からの銃撃ダメージが急速に体力を削ってゆく。視界が霞む。鍾乳石に躓き転倒、索敵レーザーに捕捉される! 潜対地スティンガー射出!「うーやーっ!」ブレードでミサイルを両断!「ううーやーっ!」旋回跳躍しながら機銃と索敵ユニットを破壊! 5

周囲のユニットを破壊し終えると「七変化!」リアに変装! 正確無比な狙撃スリングショット(水着でない)で遠方に配置されたユニットを潰してゆく!「うぐっ!」暗闇での回避は困難で素肌に被弾!「でも負けないっ!」全ての機銃と索敵ユニットを撃破! 6

「さあ蟹ちゃん! 出てらっしゃい!」……返事はない。水中に潜み、アンブッシュを狙っているのか。「ふうん……ならば、七変化!」パウリーネに変装! 水中に頭を突っ込み二本のアホ毛状触角を蠢かす。ヨーロッパザリガニの遺伝子を組み込まれた彼女の触角は、水中の微かな振動を逃さず察知する。7

「見つけたっ! 七変化!」レオナに変装しヴィオラで魔曲を奏でる! 指向性対潜演奏術!「その耳障りな曲をやめろォーッ!」水しぶきを上げ、ついにサイバネ少女が姿を現した!「くたばれェーッ!」ゴオッ! サイバネ火遁の炎を上げて右クローを射出! ゴオッ! 続けざまに左クローも射出! 8

火遁ブースト高速飛来する二本のクロー! だが直線的な攻撃だ。七は冷静に見切り回避。背後の岩壁に突き刺さる二つのクロー。ガシュガシュガシュウン! クローのバブルハッチが開き、大量のアワ☆バクダンを放出! 泡は狭い陸地全域を覆い尽くした! 水中に飛び込む七! 水面の上では大爆発! 9

水中戦!「ウェルカァーム!」サイバネ少女のクローは既に換装済み! 水中用クローのスーパーキャビテーション推進で人喰い鮫めいて七の周りを高速旋回する。「ごぼっ……七変化!」人魚“セイレーン”に変装、魚の尾を振って素早く逃亡しながら魔性の歌を歌う! 10

ゴガガガゴガーン! サイバネ少女のクローから放たれた水中機雷の爆発音が歌声を掻き消す!「ウズマキ☆ジゴクぅーッ!」両腕を交差してクローのスクリュー出力を全開! 巨大なワールプールを作り出す! 人魚の遊泳力でも逆らえない急流! すり鉢状に水面が窪む! 11

人魚の尾が全力で水を叩き、渦巻きの中から空中に跳ね上がる! 渦巻きの中央、真下にはサイバネ少女! 空中で変装解除! 美少女怪盗“セブン”は怪盗銃を構えて必殺の射撃を行おうとする! しかし!「ハサミ☆コウゲキィイーッ!」蟹の鋏が速い! 12

いつの間に火遁クローに換装したのか! サイバネ噴射で垂直に飛び上がる! 赤熱したクローが七の胴体を挟み込む!「死っねェエェーッ!」「うぐあぁあぁあーっ!」七が苦悶の叫びを上げる! ホーリィライト☆フォースが発動しない!? 容赦ないサイバネ破壊力が七の胴体を真っ二つに切断! 13

■二〇禾予抹殺(10)「セブン」■ おわり ■(11)「チョコ」■ につづく

■たたかえ蟹ちゃんシリーズ■最終エピソード☆二〇禾予抹殺(11)「チョコ」■

真っ二つに切断された七の上半身と下半身を、サイバネ少女は大切そうに地底湖の岸辺へ運んだ。「やった……やったぜ! 怪盗“セブン”をブッ殺してやった! 妙な光も出なかった! この調子で全員皆殺しにしてやる! ヒヒヒヒ、ヒャーハッハハーッ!」1

実のところ、二家に入ってからサイバネ少女は一度たりとも殺人を犯していない。明らかに殺したはずのタイミングでも謎の発光現象が発生し、犠牲者が生き延びてしまうのだ。だが、今回は違った。はじめて味わう人体を輪切りにする手応えにサイバネ少女は興奮し、呵々大笑した。2

(ぱしゅん!)音もなく。姿もなく。大口を開けて笑うサイバネ少女の口の中に一発の銃弾が撃ち込まれた。「あぐッ!?」突然の痛みに驚き、尻餅をつく。(痛ッ……なんだコレ……甘い……?)口の中に広がる甘い風味と、ほのかな苦味。これはチョコだ。撃ち込まれたのはチョコレートの弾丸だ。3

口内で溶けてゆくに従って、チョコに込められた呪詛が効果を発揮していった。「ぐっ……うぐぐ……うぐああああぁあァーッ!」苦しみ出し、のたうち回るサイバネ少女。<狂気の魔女>一千四五(にのまえ・ちよこ)謹製の魔法弾! 蟹ちゃんの全身から青い血が噴き出す! 謎の発光現象が発生! 4

二家に入るにあたり、パルプは自らに魔技『ホーリィライト☆フォース』を施した。愛する少年のためなら誰が死のうと構わないが、犠牲は少ない方がいい。体内に受け取った『LOVEメイカー』のエッセンスを核に織り上げた、死を遠ざける魔技により、不殺不死・不撓不屈の狂戦士となったのだ。5

しかし……蟹ちゃんを覆っていた白い光が徐々に薄れて消滅した!「ぐがああぁああぁあ!」血塗れで苦しむ蟹ちゃん。千四五が魔法弾に込めた効果は、あらゆる付与状態を解除する“凍てつく波動”であった。「あぐぅ……ぐ……あ……ぁ……」蟹ちゃんの呻き声が弱々しくなってゆく。6

怪盗“セブン”一七は能力と変装を解除して姿を現した。『   』の能力『     ・     』である。死体召喚と共に姿を消す、存在隠蔽能力だ。苦しむ蟹ちゃんを見下ろす。それは、辛い光景だったが、七には見届ける義務があった。二〇禾予の最期を。7

………………………………………………………………二〇禾予は死んだ。8

■二〇禾予抹殺(11)「チョコ」■ おわり ■(12)「聖域」■ につづく

■たたかえ蟹ちゃんシリーズ■最終エピソード☆二〇禾予抹殺(12)「聖域」■

日の光届かぬ二家の地下秘密基地最深部。昏い水を湛える地底湖『蟹』の間で、十二獣のサイバネ少女・二〇禾予の抹殺が完了してから数時間が経過した。七は動かぬ蟹ちゃんの様子を静かに見守る。一四(にのまえ・あずま)の予知が正しければ、全てが上手くいくはずだ。1

蟹ちゃんの背中に、縦一筋の亀裂が生じた。七は蟹ちゃんの服を亀裂に沿って縦に割く。亀裂は細長く広がり、頭頂から臀部に及ぶ。蟹ちゃんの背を割って、粘液にまみれた少女がゆっくりと身を起こした。蟹ちゃんの赤みがかった黒髪ではなく、鮮やかなピンクの長い髪。2

一千四五の魔法弾がサンシタ・イニシエイションを解除して二〇禾予は消滅。マジカニア第一王女、パルプが帰ってきたのだ。古来、脱皮生物は死と再生を司る神聖動物とされる。甲殻類から進化した魔法種族であるマジカニア人も、脱皮により成長する生態を持つ。3

「あれ……? 私が……私だ……?」パルプ本人はまだ状況をよく掴めていない。立ち上がろうと手をついたが、身体を支えきれず突っ伏す。長期間サイバネ化していたため、再生した腕の力は極端に弱まっていた。「ふふ、鍛え直しですね。七さん、助けて頂いてありがとうございます」4

「礼には及ばないさっ。チョコを届けただけだよっ! 怪盗“セブン”七変化!」黒衣のショコラ・プティ・ソルシエール(小さなチョコレート魔女)に変装!「お兄さまを救ってくれたお礼に、今回だけ手助けしてあげる。だって……魔法を使えないあんたが相手じゃあ張り合いがないからね」5

「あら、珍しい。ツンデレな千四五ちゃんなんて初めて見ました」「普段はヤンデレだからねっ」「本当にありがとうございます。入籍こそできませんが、私の心は一家の嫁です。きっと、助けてくれると信じてました。『一人は家族の為に、家族は一人の為に』……ですもの」6

本当だろうか。七はパルプの言葉が嘘ではないかと思った。複数の予知能力者が事態に関与した場合、未来の不確定性が高まり正確な予知は困難となる。チョコ魔法弾でイニシエイションを解除するルートを一四が見い出したのは、パルプが蟹ちゃんになった後のことだ。7

「予知能力者が、視てもいない未来を信じることなんて……できるの?」「できますよ」パルプは答えた。「それに、もし蟹ちゃんのままでも、あの人は愛してくれると分かってましたから。恐れるものなどありません」その穏やかな笑顔に七は戦慄を覚えた。愛の力とは、なんと強く、罪深いのだろうか。8

愛しい貴男のためならば、深き奈落の底までも。心も身体も魂も、笑顔で業火にくべましょう。そんな健気な修羅の道。それが、ちょろインの世界。恋心の行き着く先、最果てのホーリーランド。乙女の全てを捧げる覚悟はあるか? 安易なちょろイン化、ダメ。ゼッタイ。9

■二〇禾予抹殺(12)「聖域」■ おわり ■(E)「蟹ちゃん」■ につづく

■たたかえ蟹ちゃんシリーズ■最終エピソード☆二〇禾予抹殺(E)「蟹ちゃん」■

サンシタ・イニシエイションは、新たな人格を形成しない。蟹ちゃんは、最初からパルプの中に居た。理性や良識をオミットした結果、王族として相応しくあるために抑圧していた衝動が顕在化したのが蟹ちゃんである。だから、表に出てくることは少ないけれど、今でもパルプの中で蟹ちゃんは生きている。1

パルプは目的のためには手段を選ばないし、負け癖があるし、力及ばずも結果オーライなのがパルプの「ばっちり解決」である。一見すると全然違う、サイバネ少女・蟹ちゃんと魔技姫ラクティ☆パルプだが、本質的な所はまったく変わってないのかもしれない。2

……そして一年後! 新型ウイルスの流行により全人類の三割が死亡したりもしたが、マジカニアは無事だし、パルプも元気だ。今日も厄介な議会答弁資料の作成で頭を痛めている。サイバネ開発に投入したマジカニア国債について、いまだに元老院の理解が得られていないのだ。3

ヴヴヴヴヴ。パルプの魔法スマホが振動し、着信を告げた。「もしもし。……うん、元気だよ。さなみん姉さんは? ……ふふ、良かった」二〇禾予ではなくなったけれど、それでも二家はパルプにとって、もう一つの家族である。公務に差し支えない範囲で出撃要請にも応じるようにしている。4

「姫はん、用件は何やったん?」使い魔のリミラヴが尋ねる。「うん。出撃依頼なんだけど……ちょっと今回は勝ち目が全然なさそうなの」「ほなヤメにしとこか?」「でもね、勝てなくても、行った方が未来はちょっとだけ良い方向に動きそうな感じ」5

「どう思う?」パルプの問いにリミラヴは答える。「どうせ反対しても結局は行くんやろ? いつも通り陰ながら全力でサポートしまっせ」「ありがと! それじゃ、マジカニック☆ポリモルフ!」眩い光が魔技姫ラクティ☆パルプを包み込む! 変身だ! 光の中、パルプのシルエットが形を変えてゆく! 6

「丁度いい! あのガキはハルマゲドンの時から生意気で気に入らなかったんだ! ブッ殺してやる!」その両腕には巨大なサイバネ☆クロー! 黒いセミロング・ボブに流星ヘアピン! 蟹ちゃんに変身完了!「待ってろよ高島平四葉ァーッ! 八ツ裂きにしてやるぜェーッ!」7

青く澄んだ大空に二条の火遁ブースト軌跡を刻みながら、次元ポータルを越えた蟹ちゃんが戦いの地を指して往く。陽光にきらめくサイバネ☆クロー。蟹ちゃんの行く手には今後も、あまたの敗戦が待ち受けていることだろう。だが、蟹ちゃんは決して負けることはない。8

運命を見通す蟹ちゃんの目には、愛する人と共に歩む未来がはっきりと視えているから。そして、たとえ手痛い敗北を喫しても、その戦いで未来が少しでも良い方向に変わるのならば、それは蟹ちゃんの大勝利なのだから。たたかえ蟹ちゃん! サイバネ☆クローで未来を斬り拓け! 9

■たたかえ蟹ちゃんシリーズ■ おわり