ケメコ外伝

 

「この街ってハロウィンで盛り上がったりしないんだね」

「実はこの街はハロウィンの日に『出る』って噂なんですよ」

「『出る』ってお化けが? そんなの信じるなんてみんな純粋なんだね」

「笑い事じゃないですよ、一般人だけでなく魔道士も夜は出歩かないくらいですから」

「なんで魔道士まで??」

「その『出る』というのが、禁断の魔法の実験に失敗した魔道士の成れの果てらしいんです。
それがハロウィンの日だけ月の光の魔力を浴びて復活するとか」

「魔道士のあいだに広がる怪談話ってところなんだね」

「だから鞘師さんも今日の夜はおとなしく家にいたほうがいいですよ」

「はるなんも心配性だなぁ。大丈夫だようちは強いから」

なんて見栄を張って家を出たものの、やっぱり暗がりの街はちょっと怖いな。
噂のせいか人通りもまったくないし、気味が悪いんで用事を済ませてさっさと帰ろう。

ミシッ・・・ミシッ・・・

なんだこの後ろから聞こえるおかしな足音は。
もしかして・・・いやそんな馬鹿な、きっと気のせいのはず。だから思い切って振り返ってみよう!

http://stat.ameba.jp/user_images/20131101/00/kei-yasuda/a2/ba/j/o0480064012734615870.jpg

!! いやーーーーー!!!!!!!!!

 

 

我こそはケメキングデッド、命無き者の王にして闇を統べし存在なり!!!!(ドヤッ)


「なにケメちゃん、キングだなんて人間やめただけじゃなく性別まで変わっちゃったんだ」

しょうがないでしょ、ウォーキングデッドとノーライフキングからの命名なんだから。
せっかく見得を切ってるんだからよしこも余計な茶々入れないでよ。

「ごめんごめん、でもせっかくカッコつけても見せる相手がいないじゃん」

いつか正義の勇者様があたしのことを倒しに来てくれるかもしれないじゃない。

「こんな辺鄙なところに足を運ぶ物好きな勇者もいないと思うけどね」

勇者なんて物好きな暇人がやる職業なんだから、うっかり来てもおかしくないかもよ。

「それにしてもケメちゃんも大胆なことしたよね。
不老不死の研究に没頭した挙句、人間をやめて不死を実現させちゃうなんて」


別になりたくてこんな姿になったわけじゃないんだから。
それに不老不死の研究だっていいところまでいってたのよ。
まさか魔法が暴走してアンデッドが無限に湧いて出てきたのは想定外だったけど。
あたしが不死の王になってアンデッドを統率するという選択をしてなかったら、
世界が一体どうなってたか想像もしたくないわよ。

「わかってるよ、それも含めて大胆だなって」

別に不死の王になったのはいいけど、どうにも暇すぎるのが悩みの種なのよね。
周りにいるのはアンデッドばかりで話し相手にもならないし、
こいつらの監視があるから迂闊に動くわけにもいかないし。
盗撮の魔法があったらまだ暇つぶしにもなったんだけどね。
ずっと前にさゆちゃんにどうしてもってねだられて
軽い気持ちであげちゃったことを今頃になって後悔してるわよ。

「確か以前に、たまに外出できるようになったとか言ってなかったっけ?」

そうそう、ここも昔に比べれば落ち着いてきたから、
年に一度外出するくらいなら対応可能だと判明したんだけどさ。
じゃあお化けの仮装をよく見るハロウィンの日ならうろついても目立たないかな
なんて思ったら、予想以上に『出る』って噂になっちゃってさ。

「まあ今のケメちゃんの姿は、仮装にしてはあまりにホンモノっぽすぎるからねぇ」


今年なんかひどいのよ、普通に後ろを歩いてただけなのに、
振り向きざまに大声で悲鳴をあげられて、ありったけの攻撃魔法をぶつけられて、
そのまま走って逃げられちゃったんだから。ホントもう死ぬかと思ったわよ。

「いやもうとっくに死んでるし」

やっぱり早めに、「Trick or Treat!」って声をかけなきゃダメなのかしらね。

「いやそういう問題じゃないと思うんだけど・・・。
まあいいや、ケメちゃんの元気そうな姿を見れたし、今日はそろそろ帰るね」

ありがと、ちょくちょく顔を出して話し相手になってくれて。
これでもよしこには感謝してるんだよ。

「ううん、うちにはこれくらいのことしかできないしさ」

今度来るときは誰か一緒に連れてきてよ。リカちゃんとか暇そうな子でいいから。

「そういえばこの前、海辺で面白いヤツと知り合ったんだけど、
そいつはやけに人懐っこくて物怖じしない子だったから、
もしここに連れてきても案外馴染んじゃうかもね」

ふーん、そんな変な子がいたんだ。じゃあ機会があったらホントに連れてきなよ。
会えるのを楽しみにしてるからさ。

(おしまい)

 

海はいい、つくづくそう思う。
気分転換したいとき、何も考えたくないときなど、事あるごとに海に潜る。
ゴタゴタした装備一式がなくても泳げるようになる魔法を使って、
時間を忘れて思うがままに海中を散歩する。

小魚の群れが陽光を浴びてキラキラと銀色に輝く。
タコが獲物を求めて海底を徘徊し、岩場の陰にウツボが身を潜める。
ここでは生と死が身近に感じられ、たとえ強大な魔法を操る魔道士も
大自然の中ではほんのちっぽけな存在に過ぎないことを思い知らされる。


アイツに初めて会ったのも、今日のような暖かい日差しの朝だった。
そう、泳ぎ疲れて一息つこうと海面から顔を出したとき、
ちょうど近くの岸辺に佇んでいたのがアイツだった。

魔法の力を借りて泳いでいるため、人の目にはつかないよう意識していたはずが、
なぜアイツの存在には気づかなかったのか、今でもわからない。
いきなり海面からひょっこりと見知らぬ人間が顔を覗かせたら、
それは誰だって驚きそして警戒するだろう。
相手の反応次第では、魔法で相手の記憶を抹消するという最悪のケースまで
一瞬のうちに頭の中を駆け巡った。


ところが、アイツの反応は思いもよらないものだった。
あたしの姿を見たアイツは、一瞬驚いた表情をしたものの、
すぐに笑顔になっておはようございますと普通に挨拶し、
すごいですねそんな格好で泳げるんですかもしかして魔法ですか
やっぱり泳いでると気持ちいいですか海の中はどんな感じですかと、
息付く暇もないほど矢継ぎ早に質問攻めしてきたのだ。

予想外の反応にすっかり警戒心が削がれたあたしだったけど、
ふと悪戯心が湧いてきて、海の中はこんな感じだと言って
大きなナマコをアイツに手渡してみた。
なんですかなんですかとひとしきり騒いだあと、
扱いに困ったナマコを大胆にもあたしに投げ返してきたのを見て、
その度胸に一発でアイツのことが気に入った。


きっと、今日も同じ場所にいるはず。
まったく根拠のない確信を持って海面から顔を出すと、本当にアイツがいた。

「センパ~イ!!」

あたしの姿を認めると、とびきりの笑顔で大きく手を振ってくる。
確かにコイツは重さんの弟子だという話だから、
立場的には先輩と呼ばれるのも間違ってはいないのだろうけど、
聞き慣れない響きがどうにもむず痒く、思わず走って逃げたくなってくる。

そんな照れ隠しの気持ちも込めて、あたしは挨拶がわりの笑みを返すと、
生田に向かって特大サイズのナマコを投げつけた。

(おしまい)

参考:130706 ハロー!SATOYAMAライフ

 

生田の反応は、予想通りのものだった。

『不老不死の魔法が暴走して冥界の門が開き、無限に湧き出るアンデッドを
食い止めるために自ら不死の王となった魔道士がいる』

そんな荒唐無稽な話を聞いても、まったく疑う素振りも見せず素直に受け入れ、
ようやく合点がいったとばかり生田の友達の話をしてきた。

なんでも今年のハロウィンで運悪くケメちゃんに出会ってしまった子が、
たまたま生田の友達だったらしい。
その子は半狂乱で生田が居候する重さんの家に駆け込んできて、
必死の形相で化物に遭遇したことを訴えてきたものの、
慌てふためいていることもあり生田にはよく要領を得なかったそうだ。
重さんが、そのお化けは触らないことになってるから大丈夫だとなだめても
まったく聞き入れられる状態でなかったため、
仕方なしに魔法で眠らせて記憶の一部を消し去るまでの騒動になったという。

なんとも申し訳ない気持ちになってケメちゃんに替わりあたしから謝ると、

「里保もその話を聞いたら納得してくれますよきっと」

と軽い口調で答えたが、正直生田ほどの図太さがない限り
その友達もそう簡単に受け入れられるものでもないだろうにと思う。

 

「・・・それでさ、ケメちゃんてば
『正義の勇者様があたしのことを倒しに来てくれるかもしれない』
だなんて、まるで白馬の王子様が来てくれるかのように言っちゃってるんだ。
いくら退屈でしょうがないからといってそれはどうかと思うよね」

もともといじられキャラだったケメちゃんだけに、話のネタには事欠かない。

「でも、本当に勇者が来ちゃったらどうするんですか?」

「まあまずありえないだろうけど、もし来ちゃったら、
ケメちゃんだったらお茶でも出しておもてなしするんじゃないかな。
そしてこれまでの経緯を話して聞かせて穏便に帰ってもらうんだろうね」

冗談めかしたあたしの答えに、意外にも生田は真面目に返してきた。

「でも勇者なんて正義感に溢れているから、問答無用で襲われてもおかしくないんじゃ」

「うーん可能性はあるかもね。でもケメちゃんも本気を出したらマジで強いから」

「そうですよね。ただ、『倒しに来てくれるかも』なんて
まるで倒されたいと望んでいるような言い方がちょっと気になって。
それに、万が一本当に倒されてしまったら冥界の門が大変なことになるんですよね」

ノー天気に見えてなかなか鋭いところを突く。


「うん、実はあたしもケメちゃんに万が一のことについて聞いたことはある。
そうしたら、もしケメちゃんが倒された場合、倒した相手がその地に縛られて
次の不死の王として強制的に冥界の門の門番となる呪いが発動するんだって。
だから最悪の事態は避けられるんだとか言ってた」

まだまだ倒される予定はないけどね、と笑うケメちゃんの顔が脳裏をよぎる。
人間をやめて昔よりわかりづらくなったけど、その表情が嬉しそうにも
そして寂しそうにも見えたのはあたしの気のせいだろうか。

「それにしても、本当にすごい決断ですよね。
衣梨奈だったらそんなところに独りアンデッドに囲まれて生活なんてしてたら、
まず間違いなく正気を保っていられないなぁ」

やはりコイツには物事の本質を見通す力があるのか。

「ケメちゃんは正気よりも退屈すぎて死にそうだとぼやいてたけどね。
だからこそあたしも、その退屈を紛らわせてあげるために
ちょくちょく遊びに行ってるんだけどさ」


こう言って取り繕ったけど、実際のところは生田の言うとおりだ。
ただでさえ人間をやめた身で、そのまま人としての心を保ち続けること自体が
ほとんど奇跡に近いといっていい。

それはケメちゃんの精神力と魔道士としての能力が並外れていることを示してるけど、
はたしてそれが今後も永遠に続いてくれるのか、誰にも保証はできない。
万が一、ケメちゃんが人としての心を失った場合、ケメちゃん・・・いや不死王は、
無限のアンデッドを率いて地上に侵略し、全世界を恐怖のドン底に陥れることだろう。

これは今まで誰にも話したことがないけど、あたしがちょくちょくケメちゃんに
会いに行っているのは、その退屈しのぎの手伝いとともに、
ケメちゃんが正気を保っていられているかをチェックするためでもあるのだ。

そして、もし最悪の時を迎えた場合は、あたしのこの手でケメちゃんを倒す。
そこまでの覚悟もできている。
それはすなわち、ケメちゃんの死に際の呪いを受けて
人を捨て不死王として冥界の門に縛られるということでもあるのだけど、
ケメちゃんの後を継げるのはあたししかいないと、そこまで腹をくくっていた。

そんな密かな覚悟を、ケメちゃんはおそらく全部わかっている。
たまにあたしの顔を見て困ったような笑顔を見せるのは、多分そのせいだ。
お互いがお互いのことを誰よりわかっていながら、口にするのはいつも馬鹿話ばかり。
それがこの2人らしいと、あたしは思わず苦笑した。


「・・・センパイ! センパイ!! どうしたんですかいきなり?」

「ああごめん、ちょっと考え事してた」

つい考えが先走りすぎたようだ。

「ともあれそんなケメちゃんが生田に会ってみたいと言ってるんだけど、どうする?」

軽い誘いに、予想外に難しい顔で何かを考えこんでいた生田が、ようやく口を開いた。

「ごめんなさい、今はまだ会いに行けません」

あまりに真っ直ぐすぎる瞳で見つめてくる生田。
なぜかと理由を問いかけると、

「衣梨奈は、世界一の魔法使いを目指しています。
だから、いつか本当に世界一になれたら、衣梨奈の力で冥界の門を封印します。
そして、もし望むのであれば、保田さんを不死王から解放して
人間に戻れるようにできればと思っています。
それがいつのことになるのか今はまだまったく想像もつかないけど、
保田さんにはその時まで待っていてくださいと伝えてもらえますか」

それは、一言一句を噛み締めるような、感情のこもった重い言葉だった。

「ケメちゃんのためにそこまでのことを想ってくれてありがとう。
その気持ち、しっかりとケメちゃんに届けるよ」

お願いします、とようやく笑顔が戻った生田の姿に、あたしは思う。
コイツなら本当に世界一の魔法使いになれるかもしれない・・・と。

(おしまい)

 

闇の溢れる遥かなる地底の奥深く、そこで2人は対峙していた。

「ついにこの時が来ちゃったね、ケメちゃん」

静かに語りかけられた相手は、もう言葉を返すこともない。
その鋭い眼光には人としての知性を微塵も感じさせず、
身体より放たれる禍々しい瘴気が、そこに立つのがもはやケメコではなく
不死王ケメキングデッドに他ならないことを告げていた。

「あたしの力で人ならざる身のケメちゃんを倒せるのか、今でも自信はないよ。
でも、これはあたしにしかできない、あたしがやらなきゃいけないこと。
だから・・・あたしの手でケメちゃんを取り戻す!!」

ひとみの口から詠唱が紡ぎ出され、それに伴い膨大な魔力が蓄積されていく。
不死王となったケメコを倒すにはどうしたらいいか、以前からずっと悩み続けてきた。
ひとみの出した答えは、「地球そのものの生命力を利用する」こと。
これまで積み重ねてきた研鑽の成果が、ついに試されることとなる。

不死王が軽く右手を払うと、遥か後方の冥界の門が音もなく開いた。
そこから無数のアンデッドがゆっくりと、だが着実に歩を進めてくる。
もう一刻の猶予も許されない。

「いくよ!!」

ひとみの魔力と不死王の瘴気がぶつかり合い、その衝撃が激しく地底を揺るがす。
世界の存亡をかけた戦いが、こうして幕を開けた。




どれくらいの時間が過ぎ去っただろうか。
それまでの激闘が嘘のように静まり返った世界。
仰向けに横たわるケメコ。その頭を抱え膝枕しているのはひとみだった。
満身創痍で血まみれのひとみだが、その表情は穏やかそのものだ。

「すべてが終わったよ、ケメちゃん」

ケメコの髪をそっと撫でつけながら、優しく語りかける。
程なくしてケメコの身体は活動を停止する。
ケメコの死に際の呪いによって、もうすぐひとみが次の不死王となるわけだが、
今のひとみは晴れやかな達成感でいっぱいだった。
ケメコを自分の手で「救う」ことができた。もうそれだけで十分だ。

「・・・よしこ?」

「・・・お帰り、ケメちゃん」

この間際になって、ケメコが人としての意識を取り戻すだなんて、
あたしへの最後のご褒美かな、とひとみは微笑む。

「・・・ごめんね、よしこには迷惑をかけまいと思っていたんだけど、
結局こんなことになっちゃって」

「ううん、いいんだ。だからもう喋らないで」


冥界の門がざわめく。一度はひとみの魔法により吹き飛ばされたアンデッドが、
またゆっくりと這い出してくる。

「・・・よしこにとって情けない先輩だったかもしれないけど、
このまま事後処理までよしこに押し付けるわけにはいけないよね」

「えっ、ケメちゃん何を・・・!?」

指一本動かすこともできないはずのケメコの手が印を結ぶ。

「・・・最後くらい、あたしにもカッコつけさせてよ」

ケメコから紡がれる呪文の詠唱。それとともに、ケメコの身体から暖かい光が発せられ、
ひとみの全身もその光に包まれる。

「これは・・・『神』の魔法!?」

この世に神は存在しない、それは魔道士の中でも半ば常識となっている。
しかし、実際に神の力は存在する。
幾多の人々の祈りと願い、それが集約されることにより目に見えない力となり、
なんらかの偶然でその力が一点に解放されたとき、「奇跡」となって現れるのだ。

ケメコは人ならざる身になってから、その「神」の力を意識的に集約、
そして解放するための研究をずっと続けていた。
以前その話を聞いたひとみは、

「じゃあもしそれが実現したら、ケメちゃんのことを
『保田大明神』って崇め奉ってあげるから」

なんてからかったものだが、まさかこの魔法を本当に完成させていたとは。


まるでケメコそのもののような暖かい光を浴びて、
ひとみのボロボロの身体が見る見るうちに癒されていく。

そして光はそのまま冥界の門に向かって広がる。
光を浴びたアンデッドはあっという間に崩れ去り、
冥界の門を包んだ光がひときわ大きな閃きを放つと、そのまま門ごと消失した。

「本当はね、完成したときすぐにこの魔法を使うべきだった。
でも、よしことの時間が楽しすぎて、タイミングを逃しちゃって・・・。
そのせいでよしこにこんな迷惑をかけて、ホント馬鹿だねあたしも」

これだけ強大な力をその身に宿したのだから、反動が出ないわけがない。
ましてケメコは人ならざる身。その結末は必定だった。

「ケメちゃん!」

ケメコの身体が、光の粒となりゆっくりと虚空に溶け出していく。

「今まで・・・ありがとうね。これからはよしこも・・・自由に生き・・・て・・・」

最後の言葉を残し、光の粒となったケメコはそのまま天へと召されていった。

「なんだよそれ! 最後の最後に一人カッコつけて勝手に逝きやがって!!
ケメコの・・・大バカヤロー!!!!」

そして地底には、残されたひとみの叫びと慟哭がいつ途切れるとも知れず続いていた。




「これが、今後2人の身に起こる必然の未来」

「必然の・・・未来」

その日、海辺でひとみと語り合い帰宅した衣梨奈に、
いつになく厳しい面持ちのさゆみが待ち構えていた。
そこでさゆみによって有無言わさず見せられたのが、
この「未来を見る魔法」によって映し出された衝撃的な映像だった。

「そう、何年後、何十年後にこうなってしまうのかはあえて言わないけど、
このままだと間違いなくこの未来は変えられない。・・・そのはずだった」

「はずだった、というのは?」

「生田が吉澤さんに伝えた約束、その言葉が2人の未来を変えるかもしれない
ほんの少しの可能性を生み出したの。
もちろん、今のままではこの未来を変えるなんて到底無理な話。
それどころか、生田が迂闊に2人の間に介入することによって、
今見た未来よりももっと悲惨な結末に変わってしまうかもしれない。
生田が伝えた約束は、自分自身が思っている以上にずっと重いものだってこと」

そこで言葉を切ったさゆみは、真剣な表情で真正面から衣梨奈の顔を見据える。

「そこまでをすべて理解した上で、それでも生田は
自分の約束を本当に成し遂げようという覚悟はある?」

いきなり突きつけられた衝撃的な未来と自分の言葉の重み、
そして普段からは想像できないほどのさゆみの気魄に顔面蒼白の衣梨奈だったが、
さゆみの問いに対する答えは、少しの間を置くこともなく発せられた。


「やります! 絶対に成し遂げてみせます!
だって、こんな悲しすぎる結末はあってはならんけん!!」

衣梨奈の魂の叫びに、さゆみはようやく表情を緩める。

「その言葉、確かに受け取ったから。
世界一の魔法使いを目指すなら、これくらいの試練は乗り越えなさいね。
一つだけいいことを教えてあげる。世の中で一番強い魔法は、言葉。
言葉の力を信じ、言霊から力を引き出すことが成長の秘訣なの。
だから、生田も自分の発した言葉に責任をもって、曲げることなく
それを守り抜きそして貫き通せば、きっといいことがあるかもよ」

やっばーい、生田なんかに魔法の真髄を教えちゃった、とおどけるさゆみに、
衣梨奈の表情にもようやく笑みが戻った。


その夜、寝床で衣梨奈は2人のことを思う。
あまりに無力すぎる今の自分にできることは、ただ祈ることくらい。

「保田さんと吉澤さんの2人の未来が、幸せなものになりますように」

この祈りを積み重ねて、いつか「神」の魔法を体得した衣梨奈が
祈りの力を解放して冥界の門を消失させる。

そんな未来を夢想しながら、いつしか衣梨奈は眠りに落ちていった。


(おしまい)

 

 

 

ケメコとひとみそして衣梨奈の物語もこれで一段落です

最初はケメコブログにアップされたあまりにリアルすぎる
ケメコのゾンビ仮装に触発されてこれをオチに使おうと勢いで書いた1レスネタで
当然それだけで終わるはずのものでした
それが続きになりそうなネタを思いついては見切り発車で広げていき
気づけば結構な長さの連作になってしまいました

自己満の長々した話を読んでくれた方々とそしてなにより
こんな素敵な物語とその世界観を提供してくれたスレ主に感謝です

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最終更新:2014年02月10日 22:54
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