やあ、聖。
久しぶりだね。
・・・僕を忘れてしまったかい?
そう、さゆべぇだよ。
今僕は、寝ている君の脳に直接アクセスして、語りかけているんだ。
・・・夢?
違うよ。僕は確かに存在している。
君たちが「魔女」と戦った事も、紛れもない現実さ。
でも、君たちの中では、「夢」として処理されてしまったんだね。
今頃になって君の脳にアクセスしたのは、ちょっとした好奇心からなんだ。
どうしても、「あの時」の事で納得がいかない事があったからね。
だから、君の思考パターンと記憶を探らせてもらおうと思ってね。
・・・・・・・・・・
・・・これは・・・そうか・・・
やっぱり君たち人間の思考は、僕の想像を上回っていたんだね。
・・・なんだい?
ああ、そうだね。この君の記憶に間違いがなければ、わかるはずがないよね。
「魔女」と戦った事が現実だったとすれば、なぜ君が生きているか・・・
まあ、正直僕にはそれを君に教える義務はないんだけどね。
・・・まあ、「お礼」として特別に教えてあげるよ。
君はあの時、自分の「願い事」を使って「魔女」をこの世界から消滅させた。
そして、その代償として、君もこの世界から消滅するはずだった。
だけど、君が消滅してしまうのを、彼女の「願い事」が許さなかったんだ。
そうだよ。
鈴木香音。
彼女の「願い事」さ。
・・・プリン?
なんの事だい?
ああ、彼女はそんな事を言ったんだね。
それは、君たちの思考パターンで言う、「照れ隠し」だと思うよ。
・・・そうか、本当にプリンが余ったのは、ただの偶然だろうね。
鈴木香音は、あの夜僕と契約しようとした。
彼女は契約する前、暗い顔をしていたんだ。
それは、君とあの生田衣梨奈がケンカした事を気に病んでいたからだった。
だから彼女は、「願い事」として、こう言ったんだ。
「みんなが、ずっと一緒でありますように」
この願いを聞いた時、僕は気付かなかった。
この「願い事」が、どれほどの力を持っているかを。
「ずっと、一緒でありますように」・・・
それはつまり、これから先、なにがあっても、一緒に「生きていく」ということ。
だから、君は消滅することなく、蘇った。そう、何事もなかったようにね。
そして、この「みんな」という言葉の通り、鈴木香音が思う「仲間」とされる人間は、誰も死ぬことはなかったんだ。
福田花音は、首から上をかじられても、傷ひとつなかった。
生田衣梨奈と鞘師里保も、「ローズクォーツの夜」の攻撃を受けて、全くの無傷だった。
そして、鈴木香音自身も・・・
宇宙空間に投げ出されようが、大気圏に突入しようが、生きているんだ。
ふつうならば、これら全ては致命傷だったはずなのに・・・
そして、さらに。
この「願い事」には、もう一つの意味も含まれていたんだ。
鈴木香音自身も気付かなかっただろうけどね。
「みんなが、ずっと一緒でありますように」という言葉。
それは、「一緒に生きていく」という意味の他に、「ずっと、一緒の状態を保つように」とも、取れるだろう?
君たちの言葉のニュアンスは、あいまい、かつ、ややこしい事が多いようだね。
つまりあの時、君たち「仲間」は、「願い事」をした鈴木香音と同じ状態になっていた。
そう、「魔法少女」と同じ状態にね。
だから、その素質のないはずの彼女ら・・・生田衣梨奈、鞘師里保、飯窪春菜も、「魔女」を見ることも、攻撃することもできたんだ。
これでわかったかい?
君が、まだこの世界で生きている理由。
僕も、後で全てを理解した時はさすがに驚いたよ。
・・・僕の、目的かい?
それこそ、君に教える義理はないんだけどなぁ。
どのみち君は、明日目覚めたら、この会話の事をきれいに忘れているんだよ。
・・・まあ、どうしてもというなら教えてあげるよ。
もう、こうなってしまった以上、隠す理由もないしね。
僕の目的は、君たちの持つ特殊なエネルギーを回収することだったんだ。
君たちの世界では、「因子」と呼ばれているらしいね。
・・・驚いたかい?君は、特別な力を持っていたんだよ。
君たちの「因子」は、僕の住む世界のエネルギー源として、とても優秀な素材なんだ。
でも、そのままじゃ使えない。
「因子」の魔力を、僕たちのエネルギーに変換させる儀式が必要なんだ。
それが、「魔法少女」の契約さ。
・・・そう、君たちの「願い事」は、自分自身の力で叶えていたんだよ。
僕は、きっかけを与えただけさ。
そうしてエネルギー変換を行った君たちを、最後は回収させる。
「ローズクォーツの夜」にね。
そうだよ。全ての「魔女」は、僕から生まれたんだ。
僕の分身としてね。
・・・でも、「魔女」は全て消滅させられてしまった。
君にね。
だから、今となってはもう君たちに用はないんだよ。
また、新たなエネルギー源を探すだけさ。
・・・え?
ああ、「お礼」は「お礼」さ。
まあ、直接君には関係ないけどね。
感謝しているのは、鈴木香音にだけどね。
僕を、消滅から救ってくれたからね。
そう。「魔女」たちは、僕の分身だった。
だから、僕も「魔女」といえる存在だったんだ。
当然、僕も君の「願い事」で消えるはずだった。
だけど・・・本当に・・・
君たちの、人間の思考パターンには驚かされたよ。
まさか・・・僕も、鈴木香音のいう「仲間」に、入っていたとはね。
思えば、一度しか会っていなかった僕もだけど、福田花音もそうだった。
その一度の出会いで、僕らは「仲間」として認定されたんだ。
まあ彼女は、君たちで言うところの「人間のでかさ」を持っていたんだろうね。
でもおかげで、こうして僕は生きている。
やれやれ・・・だから、「お礼」さ。
・・・まだ、訊きたいことがあるのかい?
これで、最後だよ。
・・・ああ、僕が何を納得出来なかったのか、ね。
それは、君の行動さ。
何故、「魔女」を消すなんて「願い事」が、君に出来たかってことさ。
「魔女を、この世界から消す」・・・
その「願い事」をした「魔法少女」は消滅する。
僕が作ったルールだったのに、君はあっさりそれを実行した。
・・・そうさ。「魔女」を消されてはとても困るからね。
それで、僕は考えた。
君は、もしかして鈴木香音の「願い事」を理解していたんじゃないかってね。
だから、君は自分が消滅することがないと知っていた上で、あの「願い事」をしたんじゃないか・・・
でも、違ったね。
僕は、君の記憶を探って、君が確かに自分が消滅するのを覚悟していたのを知った。
本当に、人間は、今でも理解できない。
意味がわからないよ。
でも、それでも、それが人間なんだね。
「理解」は出来ないけど、「納得」はしたよ。
さて、僕はそろそろ失礼するよ。
また、別のエネルギー源を探さなくてはならないからね。
これから先、僕が君たちの前に現れることはないから、安心していいよ。
・・・ついでに、教えておいてあげるよ。
鈴木香音の「願い事」は、もう効果がなくなってるんだ。
そう、彼女の魔法の力と同じで、彼女自身が制限時間を設けたらしいね。
あの「願い事」は、24時間限定だったんだよ。
だから、君たちがこれから先も「ずっと一緒」にいられるかどうかは、君たち次第ってことさ。
まあ、せいぜい頑張って、「ずっと一緒」にいればいいと思うよ。
それじゃ、聖。
じゃあね。
(完)
←第二章