小さな神社の裏にある雑木林。
月明かりもなく、足元もまったく見えなくなるような闇夜の中を、
一人の少女がまるで真昼の遊歩道を闊歩するような迷いのない足取りで通り抜けていく。
少女が辿り着いたのは、雑木林の奥深くにひっそりと佇む小さな社の前だった。
迷いなく社の観音扉に手をかけようとしたその直前、
扉がひとりでに開帳して中から痩身の中年男性の姿が現れる。
「いくら俺がショートスリーパーとはいえ、人を起こすの早すぎやろが。
寝入りばな背中に氷入れられて叩き起こされるようなもんやぞ。
『アイスイヤ~ン!』とかリアクションしてもらえると思ったら大間違いやからな」
いかにも不機嫌そうな声で、目の前の少女を睨め付けるさんまい舌。
「それでこんな真夜中に何しにきたんや鞘師は。
……違うな。よう似とるけど鞘師やあらへんがな。
なんやお前、鞘師のドッペルゲンガーか」
一睨みで正体を看破された少女だったが、
まったく物怖じした様子もなく不敵な笑みを見せる。
「さすがは明石上人、隠し事はできませんね」
それは、さんまい舌と同じ独特のイントネーションを持つ喋り方だった。
「それでドッペルゲンガー風情が俺に何の用や」
「実は明石上人にお願いしたいことがありまして」
「人の眠りを妨げときながら抜け抜けとお願いやと?
聞いてやってもええけど、もしつまらん話やったら
この世界に存在できへんようにしてやるからな」
さんまい舌から一気に放出される重厚なプレッシャー。
しかしドッペルゲンガーの口元から笑みが絶えることはなかった。
「ご存知ですか? 鞘師里保の正体を。
鞘師里保は、実は女の子じゃないんです」
「ウソや」
「彼女は本当はDテ……いえ、男の娘なんですよ」
「ホンマか!
なんやオモロそうな話やないけ。よし詳しく話してみいや。
内容次第では手を貸してやらんでもないで」
予定通りさんまい舌の興味を引きつけたことで、
してやったりとドッペルゲンガーが内心ほくそ笑む。
「つまりお前は、鞘師の全てを奪ってアイツに取って代わりたいわけか」
「ええ、もちろんそれもありますけど」
「なんやまだなんかあるんか」
「本当の狙いは、鞘師とともにもう一人。
それが鞘師の弟……佐藤優樹」
さんまい舌の助力を得たドッペルゲンガーの陰謀が、ここに本格的な始動を果たす。
「魔法使いえりぽん外伝 ~尾兄ちゃんの野望と兄弟の危機~」 Coming Soon(嘘)
※以上、初登場のヤンタンでお笑いモンスター相手に見事な受け答えをするはーちんの勇姿から閃いた
「ドラマティック モンスター」のオマケでした。
兄弟スレの住人じゃないとついていけない内容ですが、
あくまでオマケなのでわからない人はスルー推奨でお願いします。