夢で逢えたら


「ちょっとまーちゃん何持ってんのさ」

「さっきかくれんぼしたときガラクタ部屋みたいなところで見つけたんだけど」

「勝手に持ってきちゃダメじゃんかよ」

「でもそれなんだろうね。
綺麗なクリスタルガラスの容器に入ってるし、やっぱり香水かな?」

「香水かぁ……。えいっ! ホントだとってもいい香り~」

「ダメだよ勝手に使ったりしちゃ!」

「えーいいでしょせっかくいい香りなんだから。
みんなにもかけてあげるね。えいっ! えいっ!」

「だからダメだってばまーちゃん!!」

「あれ? なんか……視界が…………」







「聖~! 宅急便で貴女宛てに荷物が届いたわよ~!!」

階下から響くママの声で目を覚ました。
宅急便? 誰からの荷物だろう??
眠い目をこすりながら階段を下りて、届いた段ボールをママから受け取る。
送り主を確認すると、石田亜佑美……。そう、亜佑美ちゃんからだった。

なんで亜佑美ちゃんが荷物を?
と、しばらく考えてふと気づく。
そうか、今日は聖の誕生日だったっけ。
わざわざお誕生日プレゼントを宅急便で送ってくれたんだ!!

そんな気を使ってくれなくていいのに。
でも、そこまでして送ってくれたプレゼントだなんて
いったい何が入っているんだろう。

そして聖は、ドキドキしながら段ボールに手をかけた。



ああ、よく寝た。

私は大きく伸びを一つして、緩慢な動きでベッドから起き上がりました。
カーテンを開けて窓から外を窺うと、そこには真っ赤な夕焼け空が。
よく寝たとは思っていたけど、もしかしてちょっと寝過ぎなような。
軽く半日以上、15時間は寝ちゃったってこと?

そこで私は重大な事実に気づきました。
今日は店長さんが一日出かけるからって、朝から古本屋の店番を頼まれてたんだ!
それなのにもう夕方だなんて、これは遅刻なんてレベルじゃないし!!

いくら普段はお客さんも少なく暇をもてあますような古本屋だからって、
さすがにこれはクビを宣告されても仕方がないくらいの大失態です。

そして私は大慌てで着替えを済ませると、急いで部屋を飛び出しました。



「へいっ! 里保パス!!」

「いくよえりぽん!!」

スカッ!

ボールめがけて大きく振りかぶった里保のキックは見事に空を切り、
そのままの勢いで里保がすっ転ぶ。

「ちょっと里保~。ちゃんとやってくれんとサッカーにならんやん」

「ごめんねえりぽん。うち球技苦手だから……」

顔を顰めて立ち上がりながら、情けない声を上げる里保。
確かに、やる相手を間違えてるような気がする。
でも、なんでえりは里保なんかとサッカーしてるんやろ??



なんだろう、顔の右側が痛痒いような、変な違和感がある。
そっと右手を頬に当ててみると、ガザガザと硬くざらついた、
まるで自分の肌じゃないような感触が。

何これ!?

頬だけじゃない。額も、鼻も、口周りも、ちょうど右半分だけ同じ肌触りになっている。
これって……もしかして!?

プチュッ。

嫌な予感に動転しながら指を押し当ててるうちに、
爪がその中の柔らかい部分を押し破り、温かいモノが頬を伝う。
恐る恐る右手に目をやると、指が赤い液体で濡れていた。

やだ!! なんでこんなことに!!?

懸命に目を逸らそうとしながらも、抗えず鏡に向かってゆっくりと顔を上げる。
そこに映っていたのは、右半分全てがかさぶたに覆われ、
爪によって傷ついた部分から溢れだす血で真っ赤に染まる無残なうちの顔……。

イヤアアアアァァァァァーーーーーー!!!!!!!!

そしてうちの悲痛な叫び声が、辺り一面に響き渡った。



白い。
白い。
白い白い白い。
どこもかしこも真っ白だ。

ここは一体どこだろう?
まさはなんで独りっきりでこんなところにいるんだろう??

よくわからない。

一面の白さが目に刺さる。
白いってこんなにも眩しいんだ。

思わず目を細めると、遠くからぼんやりと薄黒い影が見えてくる。
その影は徐々に大きさを増していき、すぐ近くで聞きなれた声がした。

「やっと見つけたよ、まーちゃん」

そしてまさは、目の前に現れた相手に迷うことなく抱きついた。



「みにしげさ~ん!!」

何の躊躇もなく抱きついてくる優樹の頭を、さゆみが微笑とともにポンポンと撫でる。

「なんでみにしげさんがこんなところにいるんですか? ていうかここはどこ?」

「ここはまーちゃんの夢の中だよ。
今まーちゃんのイタズラでみんなが大変なことになっちゃってるから、
さゆみがそれを解決するために夢の中まで来たの」

イタズラ……って、どれのことだろう?
しばらく首を傾げて考え込む優樹だったが、勝手に持ち出した香水を
みんなに振り撒いたことだと気付き、シュンしてさゆみに謝る。

「ごめんなさい……」

「うん、わかってくれればいいんだけどね。
それより、まーちゃんがみんなを助けに行ってくれるかな?
きっと怖い思いしてる娘もいると思うから」

その言葉とともにさゆみが差しだしたのは、赤く映えるバラの花束だった。

「これを使って……よろしくね?」

「わかりました!」

こうしてさゆみから花束を受け取った優樹が、
みんなを救出するため勢いよく自分の夢の世界を飛び出していった。



今日はアイツの結婚式。
まさかこんな日が来るなんて、時の経つのは本当に早いと思う。

でも……。アイツって誰だっけ??

首をひねりながら新郎新婦へと目を向ける。
するとそこに座っていたのは……。

ハルだった。

そっか、今日はハルの結婚式だったのか。
ってまさかの自分!? しかもタキシード着て新郎席にいるっておかしくね??
それにハルが新郎なら新婦は誰なんだよ。

いつの間にか新郎席に座っているハル。
ドキドキしながら横目でそっと隣の新婦のことを窺おうとしたその瞬間。

チュッ。

いきなり頬にキスされ、唖然として固まるハルの耳元にいつものアニメ声が響いた。

「こらDOドゥー! デレデレしてないでさっさとみんなを助けに行くよ!!」

そしてハルは、事情がまったく分からないままに一輪のバラを押し付けられ、
まーちゃんに手を引かれて夢から夢へ駆け抜けることとなった。



首元にチクチクと刺激する嫌な感触。しかもそれがザワザワと動いてる。

これは……虫だ。
たくさんの小虫があたしの首元に張り付いている。

いや、首元だけじゃない。
顔も、腕も、胸も、脚も、身体全体を覆い尽くすように
小虫の大群が蠢き這いずりまわっていることに気づく。

思わず悲鳴を上げかけて危うく踏み留まる。
だって口を開けるとその中にまで虫が侵入してきそうだったから。

半狂乱になりながら、身体中を手で払って虫を振り落とそうとする。
でもダメだ。全然身体から離れる気配すらない。

ついに観念してギュッと目をつぶる。
このままじゃ……頭がおかしくなりそう!!!!

その時だった。
鼻腔をくすぐる甘い香り。これは……バラ??

その香りに気づくと同時に、身体中を刺激する嫌な感触が消えた。

「助けに来ましたよ鈴木さん!!」

「みにしげさんが言ってた怖い思いしてる娘もいるってこーゆーことだったのかぁ」

ゆっくりと目を開けたあたしの視線が捉えたのは、
勇ましげに胸を張るまーどぅーコンビの姿だった。



亜佑美ちゃんから送られてきた段ボール。
ドキドキしながら開けてみると、中に入っていたのは一輪のバラだった。

「ふくぬらさんが最後ですよ」

頭上からいきなり声をかけられて顔を上げると、
いつの間にか聖を取り囲むようにみんなの姿があった。

まーちゃん、どぅー、香音ちゃん、えりぽん、はるなん、そして亜佑美ちゃんの姿もある。
みんなはそれぞれ一輪のバラを手にしていた。

「どうしたのみんな集まって?」

「まさがみんなを助けてきたんだよ!」

「それで譜久村さんには最後の仕上げをしてほしいんです」

助けた? 仕上げ? 何のことだか全然分からないんだけど。

「みんなのバラに金の粉をかけてください!」

「金の粉? できないよそんなの、聖は魔法使いじゃないんだし」

「できますよ! だってここはふくぬらさんの夢の中なんだから!」

よくわからないまま言われたとおりに手をかざして強く念じると、
本当に聖の掌から金粉が溢れだし、みんなのバラに吹きかけられていく。
そして金色のバラは鮮やかな輝きを発し、その眩しい光がいつしかみんなの視界を覆い尽くした。



「みんなおはよう、そしてお帰り」

道重邸のリビング。部屋の中でバラバラに倒れていた面々が、
頭を抱えながらそれぞれに立ち上がってくる。

「道重さん。これはいったいどういうことですか? 
なんで聖達はこんなところに倒れて寝てたんですか?」

状況がわからず頭の上にクエスチョンマークを浮かべた一同を代表して、聖が訊ねる。

「全てはまーちゃんがみんなに振り撒いた香水が原因なんだけどね。
この香水は、さゆみがずっと昔に暇潰しで作った魔法道具のできそこないなの」

「魔法道具?」

「そう。この香水使うと、夢をはっきりと見られるの」

「夢をはっきり? どういう意味があるのかよくわかんないっすけど」

遥が納得できないように首を傾げる。

「みんなも一度ならず経験したことがあるでしょ。
なんか面白い夢を見てたような気がするけど、いざ起きてみるとよく覚えてないってこと。
この香水を使うと、本来ぼんやりとしか覚えていない夢をはっきりと、
もっと言えば本当に起きてる時と同じように体感することができるの」

「ああなるほど」

「でもこれが大失敗だった。
理由は簡単。実際に見る夢って楽しいものばかりじゃないよね。
もしとっても恐ろしい夢を見てしまった場合、それをはっきりと体感してしまったら
精神的に負うダメージは計り知れないものになってしまう。
それこそ人によってはショック死してもおかしくないくらいにね」

亜佑美と香音が苦い表情で顔を見合わせる。
確かにあのまま夢を見続けていたら、どうなってしまっていたか想像もしたくない。

「そのことに気づいて、失敗作と諦めて倉庫に放り込んでいたんだけどね。
まさかまーちゃんが持ち出してみんなに使っちゃうだなんて、さすがのさゆみも想定外。
しかもこの香水は睡眠誘発効果もあるから、さゆみが帰宅したら
リビングにみんなが倒れていて、どんな大参事があったのかと焦っちゃった。
まあ結果的にみんな無事に起きてこれたからよかったけどさ」

それぞれが抱いていた疑問も氷解したことで、ホッと胸をなでおろす一同。
そこでようやくある違和感に気づく。

「あれ? 里保がいない??」

「そういえば鞘師さんの夢の中に行ってなくね?」

「ああ、りほりほはねぇ……」

みんなでリビングを見回すと、ソファの隅に丸まったまま動かない里保を発見した。


「道重さん! 里保はいったい!?」

「大丈夫、ただ寝てるだけだから。
りほりほはね、たまたまなのかそういう体質なのか、今回は夢を見てないんだ。
だから魔法道具も効果がなくて、普通に寝てるだけ。
まーちゃんに渡したバラの香りを嗅がせれば起きるはずだから、やってみるといいよ」

さゆみの言葉に従い、懐から花を取り出した優樹が思わず大声を張り上げる。

「あれっ!? バラがタンポポになってる!!」

その声にみんなが慌てて取り出した花もまた、全てがタンポポになっていた。

「ふーん、面白いね。きっとふくちゃんのエネルギーを浴びて
今のみんなにとって最適な形に姿を変えたんだろうね。
これからどんな風に成長していくか楽しみなの」

楽しげに微笑んださゆみだったが、改めて優樹を促す。

「ほら早くりほりほを起こしてあげな。
このままだと取り残されたりほりほが拗ねちゃうよ」

「里保は一度ヘソを曲げるとほんと大変やけんね」

実感のこもった衣梨奈の一言をきっかけに、みんなの笑い声がリビングにこだました。


(おしまい)


※参考
2015.04.21 
最近見た夢を教えてください。

譜久村聖   石田亜佑美ちゃんからお誕生日プレゼントが宅急便で届く夢
生田衣梨奈 友達とサッカーしてる夢(・_・)
鞘師里保   夢はよく見る方だったのですが、最近はなかなか見ません。。よく眠れてるのかな??
         フクちゃんの二の腕を何時間も触らせてもらえる夢が見たいです。
鈴木香音   大量の虫におそわれる夢です。
飯窪春菜   寝坊する夢をしょっちゅう見ます。
        おかげで今、お仕事寝坊しません!!
石田亜佑美 顔の右半分が全部かさぶたになる夢。
         なぜか今でも感触が残ってます。。。
佐藤優樹   白い中に1人いた。
工藤  遥   メンバーの結婚式に出席している夢。
小田さくら   ホテルで11時に起きれば間に合うっていう時に、
         遅刻する夢を見て、慌てて飛び起きたら5時台で、、あと6時間も寝れただろぉぉぉ
尾形春水   ・朝起きたら、クレオパトラになっていた夢。
         ・アルフ(ペットのトイプードル)が人間で本当の弟だった夢。
         ・忘れ物して、急いで家に取りに帰る夢。は、よく見ます。
野中美希   こけて階段から落ちる夢。
         最近よくこけるのですが、まさか夢の中でまで、こけるとは・・・!
牧野真莉愛 寒くてふとんから出られない時、
         ふとんから出て仕度している夢をみて、遅刻しそうになりました。
羽賀朱音   内容は覚えてないのですが、工藤遥さんの夢をみました!

 

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最終更新:2015年06月02日 00:46