真夏の夜の怪談

傾国の妖刀。

その刀一振りだけで、国を傾けるほどの魔力を秘めた恐ろしい刀です。
優れた付与者(エンチャンター)である一人の魔道士によって鍛え上げられ、
一説にはあの西の大魔道士も気まぐれでその製作に手を貸したと言われています。

製作を命じたのは、とある国の野心的な国王でした。
完成した暁にはどのような褒美も望みのままだと約束しておきながら、
いざ妖刀を手にした国王はあっさりと変心します。
褒美を与えるのが惜しくなったとも、同じ能力を持つ刀を量産され
他国に流出してしまうことを恐れたためだとも言われていますが、
ともあれ国王は、その魔道士を騙し討ちで殺害してしまったのです。

しかし魔道士も、ただ黙って殺されたわけではありませんでした。
殺害される直前、憤怒とともに強力な呪いを妖刀に付与したのです。

妖刀を手にした国王は呪いによって暴君と化し、国を傾けるその魔力を自国へと向けました。
国土のほとんどが灰燼に帰し、ついには隣国に攻められて滅ぼされることとなるのですが、
その時、殺された暴君の手元には妖刀の姿がなかったとされています。

その後、歴史上には暴君と称される国王が何人も登場しますが、
彼等は必ず、どこから入手したか同じ刀を手にしていたそうです。
傾国の妖刀“カナトモ”を……。


話はそれだけでは終わりません。
歴史の裏側で猛威を振るった妖刀にも、最期の刻が訪れます。

その影響力の大きさを懸念した数人の魔法使いが、
ある暴君と対峙してついには妖刀を叩き折ることに成功したのです。
風の噂では、その中に道重さんの姿もあったとかなかったとか。
ともあれこれで、妖刀の魔力に狂わされて暴君と化す者はいなくなった。
……そのはずでした。

妖刀の柄には本来、ピンクの大きな宝石が埋め込まれていました。
でも、妖刀が叩き折られた時にはその宝石が取り外されていたそうです。

妖刀の呪いが込められたその宝石――ローズクォーツ――は、
密かに好事家の手を転々とし、美しさに魅せられたものを暴君と化して、
周囲を巻き込みながら本人を破滅へと導き、そしてまた歴史の闇へと消えていく。

今でも、この世のどこかに呪いのローズクォーツは存在しているといいます。
実は密かに、このM13地区に流れついているなんて話もあるくらいです。

もしも、知り合いの性格が突然急変していたら、
それは宝石の呪いに絡め取られたサインかもしれませんよ。

ローズクォーツに魅せられた者には、次のような変化が起こります。

まず、猫に嫌われてまったく寄り付かれなくなります。
さらに、とにかくラーメンが食べたくて仕方なくなってきます。

そしてついには、こう言いだすのです……。

わーー!なんかムカついてきたぞ~(ハート)

「イヤアアアアアアアアァァァァァァァァ!!!!!!!」

 

 

「うーん、やっぱりはるにゃんこの話は怖くてたまらないよぉ」

「いやいや、まーちゃんちょっと怖がりすぎだって。それに全然怖い話っぽくなかったし」

「十分怖いと思うけど。くどぅーだって周りに暴君がいたら、
パンチされたりデコピンされたり、顔の上で書き物されちゃったりするんだよ」

「嫌だよまさそんなことされるの!」

「いやハルだって嫌だけどさ。最初は国を傾けるとか言ってたのに、話がスケールダウンしすぎだし」

「ただいま~」

「あっ、おかえりえりぽん。ずいぶん遅かったね」

「キャア!!」

「はるなん!? いきなり黒猫の姿で飛び出していっちゃったけど、どうしたんだろ??」

「海で泳いでたら、海底に転がってたピンク色の綺麗な宝石を拾ったっちゃよ」

「えっ。それって、もしかして……」

「泳いだら無性にお腹が減ってきたかも。ラーメン! うん、滅茶苦茶ラーメンが食べたい!!」

「えりぽんっ!?」

「うーん、なんだろうこの感じ……。わーー!なんかムカついてきたぞ~(ハート)」

「イヤアアアアアアアアァァァァァァァァ!!!!!!!」


(おしまい)

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最終更新:2015年12月14日 00:10