ロボキッス(まーどぅー編)


2016年も気づけばもう3月。
今日無事ゲネプロも終了し、春のツアー本番が本格的に近づいていた。

ライブで一体どんな充実した空間を作り上げられるか、今からホンマに待ち遠しい。

もちろんそれは、歌やダンスなどパフォーマンス面でもそうやけど、
それ以上に、曲の合間のフリーな部分でのメンバー同士のイチャイチャや、
マイクを落とすとか思わぬハプニングをきっかけに垣間見える人間関係などなど、
想像しただけでもうワクワクが止まらへん。

道重さんが鞘師さんの唇を強引に奪ったようなことはさすがにないやろうけど、
ほっぺた程度ならチューするメンバーも絶対おるんやろうな。
その瞬間を見逃さず、しっかりと瞼の裏に焼き付けておかんと。

ちなみに「瞼の裏に焼き付ける」というのは比喩でもなんでもなく、
「脳内カメラの魔法」という、まばたき一つでその瞬間の光景を鮮明に
記憶しておくことができる素晴らしい魔法を、道重さんから伝授されてたりする。

ホンマはその上位魔法として「脳内ビデオの魔法」ってのもあるんやけど、
残念ながらこっちはまだはるなには使いこなせてへん。
もっとしっかり修行していかなあかんなぁ。


そんな風に色々妄想を膨らませてニヤニヤしていると、
マネージャーさんからこんな通達を受けた。

「初日夜の2人MCは工藤と尾形でいくから、よろしく頼んだよ」

まさか初日に2人MCの片割れを任されるとは、なんと光栄な。

……でも、ホンマにはるななんかでええんやろか。

せっかくの初日、しかもミスムンで盛り上がった直後にやる大事なMCやし。
きっとファンの皆さんは、工藤さんの相手としてもっと望んでるメンバーがいるはず。

というか、ファンの皆さんのことはとりあえずさておいても、
はるな自身、色気のないダブルAのMCより別のカプが見たい。

夜公演はミスムンのセリフシーンにあかねちんが相手役で初登場やから、
あかねちんの熱視線で会場が沸いた後に工藤さんとあかねちんの2人MCというのも、
盛り上がること間違いなしやろな。

ただ、はるなにはあかねちん以上にまず見てみたい王道のカプがあるわけで、
ならばその思いに忠実に従って実現を目指していくのが正解かもしれん。

脳内会議でそんな結論に至ったはるなは、善は急げとばかりに
マネージャーさんの背中に向けて小声ですばやく呪文を投げかけた。



2016年3月12日、ついに春ツアー初日が幕を開ける。

緊張の昼公演もどうにか大きなトラブルもなく終了し、
夜公演までの束の間、楽屋でみんなして一息ついていた時だった。

「じゃあ夜の2人MCは工藤と佐藤の2人でお願いね」

「えっ!?」

「何それ聞いてないし!!」

降ってわいたようなマネージャーさんからの思わぬ宣告に、
驚きの声を上げる工藤さんと佐藤さん。

「あれ、事前に変更の話してなかったっけ?
まあ2人ならぶっつけでも問題なくトークを回せるでしょ。
尾形も悪いけど、後日ちゃんと2人MCの機会を作るから、
今日のところはなしということでよろしく」

こともなげに言い添えると、マネージャーさんは忙しそうに楽屋を出ていった。


「いくらなんでもちょっといきなりすぎるでしょ。いい迷惑だよなホント」

突然出番を外されたはるなのことを気遣ってか、工藤さんが声をかけてくれる。

「そうですね。工藤さんと2人MCができないのは残念ですけど、
でも延期になっただけと思えばしゃーないです。
2人MCでは、はるなとやる時以上に、佐藤さんと会場を盛り上げてくださいね」

納得いかない表情を押し隠しながらけなげに答えるはるな。
もちろん内心ではしてやったりなんやけど、
それをおくびにも出さないなかなかのいい演技ができてるはずや。

「うん、まーちゃん次第だけど、精一杯頑張るよ」

「なにそれ! いきなりどぅーとやれと言われただけでもいい迷惑なのに、
まさに責任押し付けないでよ!」

「はいはい、言い方が悪かったね。じゃあ2人で頑張ろう」

「ふん!」

望み通りの展開となり、後はもうこの2人のトークを楽しませてもらうだけ。
まーどぅーMCのお膳立てしただけでも十分やとは思うけど、
せっかくなんでもうひと押し念には念を入れておきますか。



Mr.Moonlightの楽曲が大歓声の内に終了し、ステージが暗転。
メンバーは工藤さんと佐藤さんを残してステージからはけていく。

はるなもその一人やけど、工藤さんとすれ違う瞬間、

「よろしくお願いしますね!」

と声をかけて軽く肩を叩く。
とともに、工藤さんに向けて気づかれぬよう素早く魔法をかけた。

さあこれで準備万端。
ステージに照明が戻り、残っているのが工藤さんと佐藤さんの2人だと認識されると、
客席、特におそらく工藤さん推しの女性ファンから黄色い歓声以上の、
まるで悲鳴のような声があちこちで上がる。

そうそう、この大歓声が聞きたかったんや。
やっぱりみんなまーどぅーの絡みは大好物なんやなぁ。
こんなに喜んでもらえると、はるなもここまで骨折りした甲斐があったというもんやね。

肝心のトークやけど、滑り知らずのコンビ芸やから基本心配することはないものの、
強いて不安を挙げるとすれば、工藤さんが佐藤さんの暴走を抑える役目に徹しすぎて
あまり弾けきれないという展開になってしまわないかということ。

そこではるなが工藤さんにかけたのは、「やる気! IT'S EASY」の魔法(はるな命名)。
この魔法は名前の通りかけられた人のやる気が増大するという効果があるんやけど、
それとともに自制心のタガが緩んでしまうという副作用もある、
一種のバーサク魔法だったりする。

だからこそ、工藤さんにもトークで弾けてもらうにはピッタリの魔法かと思い
念には念で使ってみたんやけど、はたしてどんな効力を発揮してくれるんやろか。

ドキドキしながら見守っていると、工藤さんの第一声で、
さっそく魔法の効果が表れていることをはっきりと認識することができた。


「どうですかまーちゃん、羽賀ちゃんが羨ましいかい?」

この発言は明らかに、工藤さんの佐藤さんへの挑発行為。
さらに言えば、2人MCのトークテーマをカプネタにするという宣言でもあるわけで、
魔法の影響かミスムン後のハイテンションが原因か、
いつになくアグレッシブな工藤さんにこの先もう期待しかあらへん。

「全然」

即答する佐藤さん。
佐藤さんが「羨ましいに決まってるでしょ!」なんて答えるはずもあらへんから、
否定するのは当然なんやけど、嫉妬させようという工藤さんの意図に反して
本気でなぜそんなこと言われたのか理解できてないみたいや。

「だって今……」

「あ~出た出たナルシストナルシスト!」

慌てて説明しようとする工藤さんに、ようやく言いたいことがわかった佐藤さんが
そこから意外にも冷静な口調で説教モードに突入する。

「あのさぁ、そうやって色々やめた方がいいよ」

「ガチでダメ出しだ」

予想外の展開に思わず苦笑する工藤さん。

「あゆみんとかぁ、はがねちんとかぁ、まなかちゃんとかぁ、小川ちゃんとかぁ」

指折り数えていた佐藤さんから穏やかなまでの口調でこぼれ出た次の一言が、
驚くべきものやった。


「そろそろ誰か切りな」

どよめく客席。「ちょっと待って」と笑いながらも慌てる工藤さん。
そこに放たれるとどめの一言。

「相方として恥ずかしいよ」

客席から上がる歓声。これには工藤さんも白旗を上げるしかなかった。

「そっか恥ずかしいかぁ。それは申し訳ないなぁ。
なんかまーちゃんの言ってることが正論過ぎて何も言えない」


客席からの笑い声を聞きながら、はるなは一人感無量となっていた。

デビューからしばらくのまーどぅーセット売りがデフォだった時代はともかく、
工藤さんを前にしての、佐藤さんからここまではっきりとした相方宣言なんて、
これまでまともに聞いたことあったかいなと悩むほどのレアすぎるものやし、
それ以上の衝撃が、「誰かを切りな」発言。

「誰かを切れ」ということは、当然のことながら
佐藤さん自身はその切られる候補には含まれていないわけで、
つまり佐藤さんが名前を挙げた有象無象の工藤さんの取り巻き(?)よりも、
自分は完全に格上の存在だとナチュラルにそして当たり前のように宣言しているということ。
まーどぅーこそNo.1コンビだという佐藤さんの強い意識が根底にしっかりと感じられる、
まーどぅーヲタにとってはまさに感涙モノのエピソードやと思う。


「ちょっとはーちん、なにぼんやりしてんの? 早く着替えないと遅れちゃうよ」

そんなことを考えながら一人悦に入っているところを、
あかねちんから不審げな声を受けて我に返る。
あかんあかん、まーどぅーMCにかまけすぎて、自分自身のことが疎かになるところやった。

実はこのMC中、魔法でステージ撮影のビデオカメラ内に意識の半分を入り込ませていて、
そのおかげでカメラ越しに2人のMCをじっくりと堪能させてもろうてたんやけど、
まだ魔法に慣れていないだけに分けた意識をうまく両立できてなかったみたいや。

まだまだ修行が足らんなぁと反省しながら、
あかねちんには適当にごまかして急いで着替えを進める。


そんなことをしている内に、ステージ上では工藤さんが不利な流れを変えようと
加入当時の話にうまく誘導していた。

カプネタがあっさり終了したのは残念やけど、
お約束のまーどぅー喧嘩話もファンにとっては大好物のごちそうやね。

「もう5年ぐらい一緒にいてわかったことは、まーちゃんが
『もうどぅーなんて嫌い、大っ嫌い』とか『もう無視するもん』とか
言ってるうちはいいんですよ。言わなくなったらさあ大変なんですよ」

工藤さんの説明に、客席から笑いと納得の声が上がる。


はるなも工藤さんの説明でようやくはっきりした。佐藤さんと工藤さんって、
例えるなら嫉妬深い彼女と浮気性の彼氏のお似合いカップルなんやなと。

フラフラと色んな女性にちょっかいをかける彼氏に
いつも文句を言いながら、最後には許してしまう彼女。
ついつい浮気を繰り返しながらも、彼女の逆鱗に触れてしまうところまでは
決して踏み込まぬように、うまく間合いを測って遊ぶ彼氏。

2人とも内心ではお互いがかけがえのない最愛の相手だとわかっているから、
喧嘩を繰り返しながらも最終的にはちゃんと元の鞘に収まる
「喧嘩するほど仲がいい」を地で行くベストカップル。
「うる星やつら」ばりのドタバタではあるけど、理想のカプの形の一つじゃないかと思う。


独り納得しながら、せっかくなんで最後のダメ押しをしてみようと思い立ち、
密かに精神を集中させる。
カメラ越しでさらに対象まで距離もあるというかなり難易度が高い環境やけど、
佐藤さんにうまく影響を与えることができるやろか。

はるなのかけた魔法の成果かどうかはわからへんけど、
次の佐藤さんの思わぬ一言で客席にどよめきが起こった。


「もう最近ねぇ、まーどぅーの時代はもう終わったかなぁと思って」

佐藤さんの口から飛び出したまさかのまーどぅー終了発言に、
客席から大きなエーイングが巻き起こる。
そしてはるなも、エーイングしたい気持ちはみんなと同じやった。

「いや違う違う! なんかもう最近なんか、
まーどぅーがまーさくになったみたいな感じなんだよ」

佐藤さんの説明に今度は客席から「あー」という納得の声が上がり、
それに対して工藤さんが「どっちなのみんな!!」とツッコミを入れた。

実ははるなが使ったのは念写の魔法で、佐藤さんの脳裏に一瞬だけ
小田さんと佐藤さんがイチャつくシーンを写し出すことに成功していた。
まーさくの存在を喚起しカプネタを掘り下げてもらおうという意図はあったものの、
まさかここまで飛びぬけた方向に突っ走ってしまうとは、
佐藤さんの破壊力をちょっと読み違えてたみたいや。

「でもでもぉ、『まーさくで嬉しいよ~』っていう人もいれば、
『まーどぅーで嬉しいよ~』っていう人もいるよ」

「じゃあここでせっかくだから多数決をとってみますか」

まーどぅー終了宣言を受けても動じない工藤さんから、
これまた予想外の多数決提案が飛び出し、一気に怒涛の展開へと突入していく。


「えっ怖~い!! じゃあ優樹、多かった方にするね」

よもやの少数カプ切り捨て宣言に騒めく客席。

「それってずるーい! まーちゃん選択肢ある! こっちないのに」

「きゃははは! でもあるよ!!
あゆみんとぉ、はがねちんとぉ、ふくぬらさんとぉ、生田さん、あんたいすぎなんだってマジで!!」

佐藤さんの見事なツッコミに客席が爆笑に包まれる。
最初の方で挙げてた名前と、後半2人は別の名前になってるところがまた最高やね。
いしどぅーと、はがどぅーと、ふくどぅーと、BL……おっと、
BLは生鞘スレのみで通じるローカルな名称やったわ。

「いやいやいや、みんなと仲いいことはいいじゃないですか」

「じゃあそれはそれでいいや、とりあえず多数決しようね。さあ考えて~??」

工藤さんの弁明を軽くいなして、ついに運命の多数決タイムが始まった。


「まとまりました? 考えは。
じゃあ先にまーちゃんが聞きたいほう聞きな」

「いいよ。……まーさくがいい人~!!!!」

声を張り上げる佐藤さんに応えて、それなりの歓声が上がる。
それに続いたのが工藤さんやった。

「じゃあまーどぅがいい人~!!!!」

客席全体を覆う割れんばかりの大歓声。
まーどぅーとまーさくの認知度の違いと、何よりまーどぅーMCということで
空気を読むファンが多いことを考えれば当然の結果やろうし、
それがわかっていたからこそ工藤さんもちゃんと計算の上で
多数決なんて言い出したんやろうね。

にも関わらず、なんでそうなるの!? とばかりに
ビックリした表情を全開にするのが佐藤さんの佐藤さんたる所以なわけで。

「なんでそんな顔するんだよ!」

「えっ!?」

「自分で言ったんじゃん!」

「確かに言ったけど……」

「じゃあ今後はね、まーどぅーで仲良くやりましょうよ」

右手を差し出して握手を求める工藤さん。
ここが大団円のクライマックスシーンや。


ところが佐藤さんは、一瞬考えると、なんと右手は出さずに
右ひじを突き出して工藤さんの右手にちょこんとのっけてみせた。

あまりにミラクルすぎる対応に、会場は大歓声と笑い声に包まれる。

「ツンデレね、まーちゃんのツンデレですこれは」

「違うわ!」

こうしてほっこりとした暖かい気持ちとともに、まーどぅーMCは綺麗に幕を閉じた。


いやぁホントに素晴らしいMCやった。特にラスト一連の流れは奇跡的やね。
時代はまーさくという問題提起から多数決提案、多かった方にすると
一気にハードルを上げてのまーどぅー圧勝、そして最後の握手でツンデレ炸裂。
こんな脚本、狙っても絶対にできへんわ。
はるなもいつかこんな風に読者を魅き付ける内容の小説を書けるように、
今日のまーどぅーMCをしっかり参考にさせてもらわんと。

まーどぅーMCのおかげで会場もこれ以上にないほど暖まったし、
それをじっくり鑑賞させてもらったはるなの心も存分に癒されたし、
幸せな気持ちを胸にここからのライブも頑張るで!!


ちなみにこれは後日談になるんやけど、このまーどぅーMC後、
公演中に工藤さんと佐藤さんのイチャつく姿を見ることが明らかに増えた気がする。
それを観察しているはるなも幸せのおすそ分けをたくさんもらえて、
Win-Winの関係というのはまさにこのことを言うんやろうな。



初日の公演も全て終了し心地よい疲れに身を任せていると、
小田さんが通路の片隅で独り水分補給をしてる姿を見かけた。

「まーさく、終了しちゃいましたね」

精一杯寂しげな演技で話しかけたけど、ニヤついてしまう表情をどうしても抑えきれへん。
そして小田さんも笑いながら答えてくれた。

「そうだね。残念だけどまーどぅーコンビに多数決で勝てるはずもないし、
それに佐藤さんのことだからきっと、多かった方にするなんて言いながら、
今日のことはすっかり忘れて今まで通り接してくれるとは思うけど」

さすが小田さん、よくわかってるし達観してはるわ。

でも大丈夫。たとえまーさくは一番の存在になれなくても、
小田さんにはよりふさわしい最高のパートナーが近くにいてはりますから。
はるなも微力ながら、だーさくさんの恋のキューピットとして
二の矢の準備をしてるんで、楽しみに待っていてくださいね。

「どうかした? なんかすごい満面の笑みになってるけど」

「いや別になんでもないです。
ただこの頃ワクワクすることが多くて、充実した毎日を送れているなぁと思って。
これも全部、小田さんやそしてメンバーみんなのおかげですから。フフフフフ」


(おしまい)

 

What is LOVE?(だーさく編)         インスピレーション!(だーさく編2)

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2016年06月17日 12:55