「さみしい……」
さくらの口から突然零れ落ちた弱音に、スタジオの空気が固まった。
いや実際に固まっていたのは、亜佑美だけだったのかもしれない。
周りの状況も把握できなくなるほどに、亜佑美はさくらの思わぬ一言に動揺していた。
「……あ、違う、さむい!」
取り繕うように、照れ笑いとともに訂正するさくら。
う、うん?、、それは心の声か?
刹那、亜佑美とさくらの視線が交錯する。
反応していいものか一瞬空気を探る間があったけど、
結局亜佑美は、一番安易な選択をした。
「どうした小田~!?」
って、やっぱりそのテンション。
もしかしたら本当は、深刻な悩みを抱えているのかもしれない。
でも亜佑美はそれを真正面から受け止めることができなかった。
「頭の中で流れてた歌の歌詞に惑わされたみたいです」
頭で思って口に出したはずが予想外の言葉が出てしまうという、
リハーサル中に冷房の効いたスタジオでやってしまった言い間違い。
「確かに、そういうこともあるあるかも~」
と、みんなして和やかな空気に包まれたのだが。
ウソだ。あれは本心からの言葉だ。なのに、それを強引に誤魔化して言い訳してる。
亜佑美は直観的にそう感じ取っていた。
ただの言い間違いなだけなら、あんなに辛そうな表情で呟いたりはしない。
一体何がそんなにさみしいんだろう。
やっぱり鈴木香音卒業が尾を引いているのだろうか。
2人でよくカレーを食べに行ったり、相談に乗ってもらったりもしてたようだけど、
身近にいた頼れる存在を失った喪失感が、予想以上にさくらの心を蝕んでいるのだろうか。
実際のところどうなのかはわからない。
わからないなら本人に直接聞いてみればいいだけのことだけど、
もし聞いてみてもきっと困ったような笑顔ではぐらかされて終わるだけになりそうだ。
いや、これまで通りの対応ではなくもっと真剣にさくらの悩みと向き合う姿勢を見せれば、
さくらも本音を吐き出してくれるかもしれない。
でも……。
これまでずっと不仲キャラやイジリとしてしかさくらとまともに接してこなかった自分が、
いきなり真面目モードで相談に乗ろうだなんて、一体どんな顔をしてできるというのか。
気持ちがふと緩んだ瞬間につい零れてしまったさくらの心の悲鳴。
あんな辛そうなさくらの顔は見たくないと思いながらも、
それでも自分の中のつまらないプライドを捨てきれず逡巡を続ける亜佑美。
そんな自分に嫌気が差しながら、そして亜佑美は……。
……
……
……
……
……
「ああダメやダメや!」
そこではるなは、手にしたシャーペンを投げ捨てるとボヤキながら頭を抱えた。
この先の上手い展開がどうしても思いつかへん。
展開自体は思いつかんわけでもないんやけど、流れのままペンを進めると、
『結局さくらに何も声をかけられず、ただ唇を噛むことしかできなかった』
であっさり終了してまうという困った状況。
だいたいSSの妄想の中においてさえ、石田さんがヘタレすぎるのが悪いんや。
小田さんが見せた弱みを掬い上げてもっと積極的に押したらなあかんのに、
今の関係性を崩すことを恐れて結局何もできひんのやから。
そんな石田さんが一大決心をしてついに小田さんに手を差し伸べる瞬間が、
このSSの中での大きな盛り上がりになるんやろうけど、
そのきっかけが何になるのか、今のはるなには想像もつかへんわ。
ちなみに、今はるなが書いてるのは「カプノート」。
このノートに思いついたカプのSSを書き込んでおくと、
あの「デスノート」のようにそのエピソードが現実のものになる!!
……なんてことはまったくあらへん(苦笑)
唱えたらもしかしたらその願いが叶っちゃうこともあるかもしれへん、
いやでもやっぱりないかもしれへん、という「I WISH」の魔法。
(はるな命名。というか魔法としてちゃんと成立してるんか疑問ではあるんやけど)
この魔法を書き込んだ後の「カプノート」に毎日かけているんで、
いつかホンマに実現してもおかしくないかもなんてほんの少しだけ期待しつつ、
残念ながら今のところそんな気配はゼロ。
それにもめげずコツコツとカプSSを書き続けてきたはるなやけど、
書けない時はどないしようもあらへん。
ノートを閉じていつものように「I WISH」の魔法をかけると、
はるなはそのままベッドへと倒れ込んだ。
○
「さみしい……」
小田さんの口から突然零れ落ちた弱音に、石田さんの動きが凍り付いた。
いや石田さんだけやあらへん。その様子を見ていたはるなも一緒に固まっていた。
えっ!? これって……もしかして。
「……あ、違う、さむい!」
取り繕うように、照れ笑いとともに小田さんが訂正する。
刹那、石田さんと小田さんの視線が交錯する。
反応していいものか一瞬空気を探る間があったけど、
結局石田さんは、一番安易な選択をした。
「どうした小田~!?」
って、やっぱりそのテンション。
もしかしたら本当は、深刻な悩みを抱えているのかもしれない。
でも石田さんはそれを真正面から受け止めることができなかった。
「頭の中で流れてた歌の歌詞に惑わされたみたいです」
頭で思って口に出したはずが予想外の言葉が出てしまうという、
リハーサル中に冷房の効いたスタジオでやってしまった言い間違い。
「確かに、そういうこともあるあるかも~」
と、みんなして和やかな空気に包まれたのやけど。
いやこれって、はるなが昨夜「カプノート」に書いた展開そのまんまやん。
もしかしてホンマに「I WISH」の魔法の効果が表れた?
いやでも、ただの偶然って可能性も十分考えられるしなぁ。
どちらにしろ、目の前でええもんが見れたというのはあるから、
はるなにとってはラッキーな出来事ではあるんやけど。
でも、そんならいっそのこと……。
……
……
……
……
……
あんな辛そうなさくらの顔は見たくないと思いながらも、
それでも自分の中のつまらないプライドを捨てきれず逡巡を続ける亜佑美。
そんな自分に嫌気が差しながら、そして亜佑美は、ついに全ての迷いを捨て去った。
「そんなに無理して自分の心を偽らなくていいから」
さくらの側に歩み寄った亜佑美が優しく声をかける。
驚いた顔で反論しようとしたさくらをさえぎった亜佑美が、
流れるような動きで包み込むようにさくらを抱きしめた。
「でも、覚えておいてほしいんだ。
小田ちゃんの隣にはいつもあたしがいるから。
だから、さみしがる必要なんて全然ないんだからね」
「……はい」
亜佑美の温かい言葉にドッと感情が溢れ出したさくらは、
そのまま亜佑美の胸に顔を埋めて子供のように泣きじゃくる。
「あたしなんかじゃ、鈴木さんのように小田ちゃんの力にはなれないかもしれない。
でもあたしは、小田ちゃんのそんな辛そうな顔は見たくない。
だから、もっとあたしのことを頼ってほしい」
さくらを抱きしめる亜佑美の腕が、熱を帯びる。
「あたしに何もかもを委ねてほしい。
……って、あたしってば何を言ってるんだろ。
ううん、今さら言い繕っても仕方ないよね。こんな時にゴメンね。
でもあたしさ、ようやく気づいたんだ。
あたし、小田ちゃんのことが好き。小田ちゃんの全てを守りたい。
これからは絶対に小田ちゃんにさみしい思いなんかさせない。
だからもう、泣き止んで笑顔を見せてくれないかな」
突然の告白。
止まらない涙はそのままにさくらが顔を上げ、泣き笑いの表情を作る。
「はい、嬉しいです。
小田も、石田さんのことが好きです。……ずっとずっと前から」
見つめ合う2人。
そしてゆっくりと顔を寄せ、そっと唇を重ねた。
……
……
……
……
……
「ちょっとはーちん、何ぼさっと突っ立ってニヤニヤしてんの?」
あかねちんのツッコミに、はるなはようやく我に返る。
「ああいや、なんかいい光景やなって思って」
「はーちんはだーさくさん大好きだもんね」
「うんまあそうやね」
適当に誤魔化して、改めて自分の妄想を振り返る。
どうせなら、強引すぎる展開でもこれくらいの内容を「カプノート」に書いといたら、
もしかしてもしかしたらそれが実現したかもしれんのやなぁ。
そう考えると途中で諦めてペンを置いた昨日の自分に後悔も残るんやけど、
それにしたって今日のことがホンマに「I WISH」の魔法によって
もたらされたものかどうかもわからへんのやから、ほとんど机上の空論に近いんやけどね。
ともあれ、万が一があるかもしれへんとわかっただけでも、
「カプノート」を続けていく意義もあるというわけで、
これからも頑張ってカプSSを執筆していくで。
あ、もちろん「カプノート」だけじゃなく現実世界でも、
魔法を使ってだーさくさんの恋のキューピッド計画は続けていくんで、
こっちの方も変わらずに期待しといてや。
(おしまい)
※参考
予想外の裏切り(笑)石田亜佑美
http://ameblo.jp/morningmusume-10ki/entry-12188874838.html
昨日、今日とリハーサルしてたんですけど
冷房の効いたスタジオで、
踊ってたら暑いけどバレエくりすます
休憩しちゃうと少し冷えるね
ってとき、
急に小田さくらちゃんが
「さみしい……
……あ、違う、さむい!笑」って
う、うん?、、それは心の声か?笑
反応していいものか
一瞬空気探る間があったけど←
どうした小田~
って、 やっぱりそのテンション
頭の中で流れてた歌の歌詞に惑わされたみたいです、確かに、そういうこともあるあるかも~
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