独占欲


半年に一回のハロコン大阪公演。
この時だけ、お泊りで12期が4人部屋になる、年に2回だけ訪れる特別な日。
だから12期のみんなはこの日が来るのを特に楽しみにしているし、
それこそハイテンションになるのもよくわかるんだけど。

でも、あの日はなんだか、いつもと様子が違ったんだ。
そう……。私自身も含めて。


今日のライブの反省会も終わり部屋へと戻ると、
4人それぞれが自分のベッドに倒れ込み一日の予定が全て終了した喜びを表現する。
春水ちゃんも、いかにも疲れた様子でベッドに仰向けに大の字になっていた。

緊張がほどけるとライブの疲労も一気に襲ってくるものだし、
お疲れモードになる理由もよくわかる。
でも、春水ちゃんにとってはライブ以上に、
さっきのお風呂でのドタバタも大きかったんじゃないかなと思う。

私は順番決めジャンケンで勝利して一番最初にお風呂に入ることができたから
詳しいことは目にしていたわけじゃないけれど、4人で30分以内という制限時間内で
全員入り終わるというミッションをこなすために、まりあんぬとあかねちんの2人から
一緒にお風呂に入ろうと迫られて大変だったらしい。

今日だけじゃなく、この頃なんだかまりあんぬとあかねちんの2人が、
やけに積極的に春水ちゃんに絡んでるような気がするなぁ。

私もみんなと同じように、自分のベッドに寝っ転がりながらぼんやりと考える。

春水ちゃんがお風呂に入った後そんなに間をおかずに、
2人が一緒に入ろうと次々にお風呂場へと突撃していく姿を思い出して苦笑する。

それとともに。

『あんま遅かったら春水が乱入するんで覚悟しといてや』

春水ちゃんにお風呂乱入を示唆された時の動揺が突然蘇り、
思わずベッドの上で独り身悶えしてしまった。

これまで春水ちゃんと一緒にお風呂に入ったことはないけど、
別にそれくらいどうってことない程度のものだったはずなのに……。

動揺の理由はわかってる。
私の胸の奥底にギュッと押さえつけてる、春水ちゃんへの想いが暴れ出したからだ。

私にとってショックだったのは、こんなにも動揺してしまった自分自身にだった。
春水ちゃんにとってはただの冗談交じりの発破だったんだろうけど、
もし本当に春水ちゃんにお風呂乱入されてしまったら、私はもう自分の理性では
この胸の想いを止められなくなってしまうかもしれない。

そんな恐れが頭をよぎり、思わず脱衣所にカギをかけてしまうくらいの
動揺を見せてしまったことが、何よりのショックだった。


本当は、反省会から戻ったら4人でまったりとお喋りでもしたかったんだけど、
お疲れ状態のこの様子じゃちょっと無理そうで、このままなし崩し的に就寝となりそうだ。

でも、今の私にとってはその方が有難いかもしれない。
この不安定な気持ちのままじゃ、何をきっかけにまた
春水ちゃんへの想いが溢れ出してしまうかわからないから。

そんな私の願望は、もろくも崩れ去っていくことになった。


最初に動きを見せたのは、あかねちんだった。

ニヤニヤしながら春水ちゃんのベッドに乗り込むと、
膝立ちの状態で、春水ちゃんの身体をまたぐ格好となったあかねちん。

何をやってるんだろうと思ったら、そのままの体勢で倒れ掛かり、
ベッドに突いた右手を支えにして春水ちゃんに顔をグッと近づけて、
芝居がかった口調でこんなことを言い放った。

「ねぇ、ドキドキした!?」

そのセリフで私はようやく理解する。
今あかねちんがやってるのは、きっと『壁ドン!』。いやこの場合は『床ドン!』なのか。

「いきなりどうしたんや? あかねちんは」

あまりに冷静すぎる春水ちゃんのツッコミに、
あかねちんはすねたように抗議の声を上げながらベッドに横たわり、
春水ちゃんの左腕に腕枕の状態で身体を預けて抱き着いた。

それだけじゃない。

「あー! ずるいよあかねちん!! まりあもはーちんと一緒に寝る!!!!」

加減を知らない大声とともに、まりあんぬもまた春水ちゃんのベットに突撃してきて
そのままあかねちんの背中に張りつき、あかねちんごと春水ちゃんに抱き着く形となった。


普通のシングルベッドに3人でくっついて寝てる姿を、
いつもの私だったらきっと、微笑ましく眺めていられたと思う。

でも。
胸の奥の想いがまた騒めき始める。

ああ、この感情は……。
羨望だ。

こんな素直に春水ちゃんへの好意を表現できるあかねちんとまりあんぬが。
そして、春水ちゃんにくっついていられる2人が。

……たまらなく羨ましいんだ。

――羨ましいんなら、躊躇なんてせずあの輪の中に加わればいいじゃん。
――大丈夫、この流れに乗っかっちゃえば、変に思われたりしないって。
――ほらちょうど、春水ちゃんの右側が空いてるよ。

誘惑の声が、頭の中に響き渡る。
そこに重なるもう一つの声。

『絶対に自分の気持ちに嘘をつかないこと』

この言葉を、アドバイスとして飯窪さんに言われたのはいつのことだったっけ。
はっきりと思い出せないけど、そんな飯窪さんの声が最後のひと押しとなって、
胸の奥に閉じ込めていた想いが、この瞬間、完全に開放されてしまった。

私はもう、この気持ちに嘘をつけない。
今の私はこんなにも……春水ちゃんに抱き着きたいんだ。

熱に浮かされたようにふらふらと立ち上がった私は、
おもむろに春水ちゃんの右隣に身体を横たえ、そのまま腕枕の状態で抱き着いた。

春水ちゃんから伝わる温もりが、私の身体に、そして心に沁み込んでくる。
これまで春水ちゃんに抱き着いたことなんて数えきれないほどあるはずなのに、
今までとは全く違うこの感じ。

春水ちゃんに温もりに反応して、心の奥底から感情が一気に溢れ出す。

私はこんなにも、こんなにまで、春水ちゃんのことが好きだったのか。

切ないまでの感情の放出に、何故だか涙が出そうになるのを、必死でこらえる。
感情のままに、春水ちゃんの身体を強く掻き抱きそうになるのを、必死でこらえる。

私の身体を制御しようとする理性はもはや、そんな最低限のことしかできなくなっていた。

「……野中氏までドサクサに紛れて何しとんねん」

「いやぁ、なんかみんな楽しそうだったからさ」

できる限り平静を装ってはみたけれど、それがどこまで成功してるのかよくわからない。

顔を少し傾けてきた春水ちゃんと目が合う。
でも、すぐ近くにある私の顔を覗き込む形になった春水ちゃんは、
何か驚いたように、すぐに目線を逸らしてしまった。

もしかして……。春水ちゃんに私の想いが気づかれてしまったかも。

それでもいい。
今この瞬間をこのままでいられるのなら、別に知られたって構わない。

好きだという感情を放出するとともに、春水ちゃんに抱き着くことで得られた、
これまでに感じたことのないような幸せな気持ちに酔いしれていた私は、
もはや冷静な判断なんてできなくなっていた。

「もうええわ! みんな好きにせえや! 春水はもう寝るから!!」

投げやりな言葉とともに、春水ちゃんが目を閉じる。
そして、私も幸せに包まれたまま、ゆっくりと夢の世界に引き込まれていった。



「私はもう、この気持ちを抑えることができないから……。聞いてくれるかな。
私、春水ちゃんのことが……。本気で、本当に、好きなんだ」

全ての想いを込めた私の告白に、春水ちゃんは驚いたような顔をすると……。
そのまま目を逸らした。

「ゴメンな。春水はだーさくさんとか周りのイチャイチャを見るのは大好きなんやけど、
春水自身はそういう本気のヤツはどうしても無理なんや」

それ以上この場にはいたくないという風に、春水ちゃんが背中を向ける。

「スマンけどもう野中氏とは今まで通りに付き合うことはできひんから、
はーちぇるコンビも解散や。これからは必要以上に声とかかけへんといてな。ほな!」

後ろを振り返ることもなく、早足で歩き去っていく春水ちゃん。
私はどうにか追いすがろうとするけど、まったく距離を縮めることもできず、
春水ちゃんの背中がどんどんと小さくなっていく。

待って! 春水ちゃん待って!! お願いだから!! 
私の気持ちを受け止めてくれなんて絶対に言わないから!!
だから……行かないで春水ちゃん!!!!







一際強い胸の痛みに襲われて、私は目を覚ました。

春水ちゃんの温もりは……変わらずそこにあった。
私のすぐ隣で、春水ちゃんは静かに寝息を立てている。
そのことを認識して、私はようやく一つ息を吐くことができた。

寝入る前のあの幸せな感情は、今の夢で完全に吹き飛んでしまった。
血の気の引いた私の顔は、きっと春水ちゃんに負けないくらいに蒼白くなっているだろう。

まだ夜も明ける前の暗い室内。
あかねちんも変わらず春水ちゃんにくっついて寝てるけど、
その後ろにいたはずのまりあんぬは、どうやら自分のベッドに戻ったみたいだ。

寝る直前は浮かれまくって、春水ちゃんに私の想いを知られてもいいなんて
身の程知らずなことを思っていたけど、やっぱりダメだ。

夢の中のように、春水ちゃんはきっと、私のことを拒絶する。
春水ちゃんに嫌われることだけは、絶対に避けないと。
これからはもう、春水ちゃんへの想いと、きっぱり決別しないといけない。

私は暗闇の中で独り、悲壮な決意を固める。

でも……。

どんなに押さえつけようとしても、消し去ろうとしても、
今日のように何かをきっかけに気持ちが暴走してしまうことがあるかもしれない。
そうならないために、私は一体どうすればいいんだろう。


これ以上寝ようとする気にもならず、ゆっくりと身体を起こす。
薄暗い闇の中でも、春水ちゃんの抜けるような白さは、
まるで淡い光を放っているかのように存在を主張していた。

長く綺麗なまつ毛、スッと整った鼻筋、そして柔らかそうな唇。

この時の私はやっぱり普通ではなかったんだろう。
後から冷静に考えるとまずまともではありえない解決策が、
春水ちゃんの顔をぼんやりと眺めていた私の脳裏に閃いた。

春水ちゃんへの想いを、一つの思い出に変えるために。
私の初めてを、貰ってもらおう。

私のファーストキスを、春水ちゃんに捧げよう。

私の初めてを捧げ、そして春水ちゃんの「初めて」も貰う。
いや、実際にこれまで春水ちゃんが誰かとキスをしたことがあるかはわからないけど、
本当のところはどうあれ、春水ちゃんの「初めて」という「私の中での真実」があれば、
それだけで十分だ。
その思い出さえ胸に抱いていれば、私の想いもきっと一区切りを付けられる。


無茶苦茶と言ってもいいこの閃きを、押しとどめるものは何もなかった。
後はもう、実行に移すだけ。

寝入ったままの春水ちゃんに、ゆっくり顔を近づける。

私の初めてを……。
受け取って、春水ちゃん。

万感の想いを込めて、そっと唇を重ねた。



徐々に白み始める夜空。
私はそれを、窓際のソファに腰掛けてぼんやりと眺める。

あれから私は自分のベッドに戻って二度寝することもなく、
この場所でなんとなく外を眺めて過ごしていた。

自分でも不思議に思うほど、今の私は落ち着きを取り戻している。
これなら本当に、春水ちゃんへの想いは過去のいい思い出として、
今後はこれまで通りの仲のいい同期のままで春水ちゃんと接していけそうだ。


白んだ空が赤みを増していき、朝焼けの光が部屋の中にも差し込んでくる頃。
春水ちゃんがベッドから起き上がってきた。

振り向かなくても気配だけでそれがわかったけど、もしかして春水ちゃんの顔を見た途端に、
また想いが再燃してしまうんじゃないかというのがちょっとだけ怖くて、
あえて気づかない振りをして春水ちゃんが声をかけてくれるのを待つ。

……と思ったけど、何故だか春水ちゃんから声をかけてくる様子がない。
さすがに焦れてきて、表面的にはさり気なく振り返ってみたら、
春水ちゃんは呆然としたような不思議な表情で私の顔を見つめていた。

「あ、おはよう、春水ちゃん」

どうしたのか内心で首を傾げながらも何気なく挨拶をすると、
春水ちゃんは夢から覚めたかのように目をぱちくりさせて、やっと挨拶を返してきた。

「おはようさん。野中氏は起きるの早いなぁ」

「うん、ちょっと目が覚めちゃってね。そういう春水ちゃんは随分眠そうだね」

「そりゃそうや。あんなギュウギュウの中を安眠なんてできひんって。
昨日はみんなテンションおかしすぎやったやろ。
そのせいかは知らんけどなんや変な夢も見てもうたし、まともに寝れた気がせえへんわ」

うん、大丈夫だ。普通に会話もできてる。
これならもう余計な心配をする必要はなさそうだ。

束の間の安堵は、私の問いかけに対する春水ちゃんの答えであっさり破られた。

「変な夢って?」

「なんやわからんけど、夢の中で誰かにチューされた気がするんやけどな」

瞬間的に、あの時の唇の感触が鮮明に蘇り、一気に顔が紅潮する。
そんな私の動揺を知ってか知らずか、春水ちゃんはさらにこんな追い打ちをかけてきた。

「でもそのチューが、左の頬にされたんか、右の頬にされたんか……。
それがちゃんと思い出せへんのや。左の頬やったら左隣に寝てたあかねちん、
右の頬やったら右隣に寝てた野中氏がチューしてくれたってわかるんやけどな。
もしかして野中氏、寝てる春水にチューとかせえへんかった?」

悪戯っぽいその声はただの冗談なのか、
それとも私が春水ちゃんにこっそりキスしたことを、全て承知の上でからかっているのか。

私の混乱にさらに拍車をかけたのが、続いてベッドから起き出してきたまりあんぬの、
朝っぱらとは思えない元気な声だった。

「うーんよく寝た!!
あれぇ? 野中ちゃんなんかお顔がすごい真っ赤になってるけど、どうかしたの!?」

まりあんぬの声にあかねちんまで目を覚まして興味深げに食いついてくることとなり、
それからしばらくその場のドタバタはなかなか収まらなかった。



ただ一人、部屋に残った私は、あの時の騒動を思い出して苦笑する。
あそこで春水ちゃんが、

「春水がちょっとからかっただけで顔を真っ赤にさせるなんて、野中氏も純情やなぁ」

と、私のことを弄りながらもうまく取りなしてくれなければ、
きっとしばらく後を引きずることになっていただろう。

春水ちゃんがどこまでわかって言ってたのか、結局はっきりしないままだけど、
あの窮地に救いの手を差し伸べてくれたことには、ただただ感謝の気持ちで一杯だ。


早めに荷物をまとめて集合場所に向かおうと一度はみんなで部屋を出たのを、
ちょっと忘れ物をしたと嘘をついてまでわざわざこの場所に戻ってきたのは、
一人になって最後の心の整理をしたかったから。

あのドタバタはちょっと危なかったけど、でももう大丈夫。
春水ちゃんへの想いはこの部屋に置き去って、これからはまた普段通りの自分に戻るんだ。
……ファーストキスの思い出とともに。

大きく一つ頷いた私が、そろそろ集合場所に行こうとドアの方へ振り返ると、
何故だかそこには、先に行っていたはずのまりあんぬの姿が。

あれ、まりあんぬも何か忘れ物があったりしたのかな?

私が声をかけようとする直前、ニッコリと微笑んだまりあんぬの口から、
予想もしなかった一言が放たれた。


「野中ちゃんって、はーちんにチューしたんでしょ?」

まさかの指摘に、思わず私の動きが止まる。

「まりあさ、ホントは起きるちょっと前から目を覚ましてたんだよね。
はーちんからチューされたのかと聞かれてあんな動揺して顔を真っ赤にしてたってことは、
つまりは実際にチューしちゃってたってことでしょ?」

そうだったのか。でも、もしかしてキスした瞬間を見られたのかと焦ったけど、
さすがにそういうことはなかったみたいだ。
大丈夫、それなら十分誤魔化せる。

急いで否定しようとした私に先んじて、まりあんぬが更なる言葉を被せてきた。

「その気持ち、まりあもよ~くわかるんだ。
はーちんの寝顔を見てると、思わずチューしたくなっちゃうよねぇ」

えっ!?
それって……もしかして。

私の動揺を気にも留めず、まりあんぬが語り出す。

「まりあね、ドジっ子だから夜中にベッドから落ちて目を覚ましちゃったんだ。
だけど誰もそのことに気づいてくれないから、
自分のベッドに戻る前にしばらくはーちんの寝顔を眺めていたんだけど。
そうしたらだんだん我慢できなくなってね……」

嫌だ、その先の言葉は聞きたくない!!


「まりあ、はーちんにチューしちゃったんだ。
はーちんの唇ってとっても柔らかくって、すっごい幸せな気持ちになっちゃった」

まりあんぬの無邪気な声が、私の胸に大きな風穴を開ける。

私が、春水ちゃんの「初めて」を貰った。そのはずだったのに……。
たとえそれが「私の中だけの真実」であっても、その幻想さえ抱いていられたら、
春水ちゃんへの想いも、思い出としてうまく昇華できると信じていたのに……。

私の前に、まりあんぬに春水ちゃんの「初めて」を奪われたことを、知ってしまった。
これでもう、春水ちゃんへの想いを、思い出で終わらせることもできない。

心の底からこみ上げるこの気持ちは……。
そう、嫉妬だ。

春水ちゃんの「初めて」をまりあんぬに奪われた。
その悔しさが、私の心を、身体を、大きく震わせる。

それでもまだ、まりあんぬの攻勢は終わらなかった。

「野中ちゃんって、はーちんのこと本気で大好きなんだよね」

これまで誰からも指摘をされたことのないその言葉が、私の心に突き刺さる。

「な、なんで……」

「なんでって、そんなの野中ちゃんの様子を見てればすぐにわかるよ。
だってまりあもはーちんのことが本気で大大大好きだから」

気負いも衒いもなく、まりあんぬは自分の気持ちをはっきりと言い切った。


「まりあが野中ちゃんを追って戻ってきたのは、
野中ちゃんにまりあの気持ちを聞いてほしかったからなんだ。
野中ちゃんがはーちんのことを大好きなのはわかるけど、
でも、はーちんを大好きな気持ちは、まりあが誰より上の一等賞だから。
だから、まりあの方が先に、はーちんのことを絶対に振り向かせてみせる。
そのことを、野中ちゃんに伝えておきたかったの」

まりあんぬは本当にすごい。
まりあんぬがしてるのは、言うなればライバルへの宣戦布告。
それを力むでも見下すでもなく、いつも通りのどこまでも真っすぐな天真爛漫さで、
きっぱりと私に向かって宣言してみせたのだから。

「それじゃあまりあは先に行ってるね。
そろそろ他のメンバーも集合場所に集まってきてる頃だから、
野中ちゃんも早めに動いた方がいいかも。
あ、あと、今の話はあかねちんには内緒だからね。
もしあかねちんが知ったら、きっとズルいと拗ねて騒ぎが大きくなっちゃうから」

いかにもアイドル全開の魅力的な笑顔でウインクを一つすると、
呆然と立ちすくむ私のことを置いて、まりあんぬは部屋を出ていった。


終始堂々としていたまりあんぬに比べて、私のこの情けなさといったらどうだ。
結局まともな言葉一つ返すこともできず、まりあんぬに圧倒されていただけなのだから。

こんな私では、まりあんぬには到底かないっこないかもしれない。
でも……。

思い出として鍵をかけようとしていた春水ちゃんへの熱い想いが、
そして強烈なまでの独占欲が、まりあんぬによって煽られ一気に燃え上がる。

「まりあんぬには負けない。いや、まりあんぬだけじゃない。
春水ちゃんは他の誰にも渡さない。絶対に私だけのものにするんだ……」

そんな決意の言葉が、無意識の内に私の口から零れ落ちていた。


(おしまい)


色っぽい じれったい      What is LOVE? ~アナザーストーリー~

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最終更新:2016年11月06日 22:07