What is LOVE? ~アナザーストーリー~


「だーさくさんのキューピッドなんですねわたし」

5月3日、春ツアー北海道公演の2人MC。
これまでブログやラジオでしか話していなかったこの話題を
直接ファンのみんなの前で披露するという、はるなにとって記念すべき日となった。

「えっ? 石田さんと私の??」

「はい! はい!」

2人MCの相手役は小田さん。
ラジオでは石田さんの前で話していたことを思えば、
だーさくさん両方の前で話せるというのもある意味奇跡やね。

「わたしの、バースデー繋がりなんですがわたしの誕生日の日に、
石田さんが尾形に『おめでとう』という連絡をするはずが、
間違って小田さんに、『おめでとう』って送ったんですよ……」



日付が2月15日に替わり、17歳の誕生日を迎えるその数分前。
はるなは部屋のベッドに腰掛け、スマホを片手に精神を集中させていた。

この記念すべき誕生日に、道重さんの教えを実践する。
その決意とともに、はるなは慎重に呪文を唱えた。

すると、はるなの意識がスッと遠のき、次の瞬間スマホの中へと取り込まれ
はるなは電脳空間の住人と化していた。

魔法がちゃんと成功したことを喜びつつ、ここからが本番だと気を引き締める。
はるながやろうとしているのは、これからはるな宛に送られてくるはずの
石田さんからのバースデーメールを、小田さん宛へと書き換えるという『いたずら』。

せっかちなはるなは石田さんからのメールを待ちきれず、
意識を石田さんのスマホまで飛ばして画面越しに様子を観察することにしたんやけど。

そこではるなが目にしたのは、思いもよらない光景やった。


はるなが見た石田さんは、スマホの画面をジッと凝視してはった。
どうやらメールの文面はすでに打ち終えて、後はもう送るだけのようなんやけど、
何やら様子がおかしい。

何がって、表情があまりに真剣すぎるんや。

極端な言い方をすると、鬼気迫る表情に近い。
目は赤く充血し、ほっぺも真っ赤に染まりと、明らかに普通じゃあらへん。

しばらく視線を天井へ向けたかと思うと、大きく首を振ってまたスマホに目を落とす。
普段は見ることもないような不振な挙動を、はるなが首を傾げながら眺めていると、
一つ大きなため息をついた石田さんが、踏ん切りをつけたように送信ボタンを押した。

電脳空間でそのメールをさっそく受け止めるはるな。
まずは文面を確認してみる。

『誕生日おめでとう(ハート) 
17歳も白い肌が素敵だよ(ハート)
バースデーイベント頑張ってね(ハート)』

うん、間違いなくはるな宛のメールや。
なんでこのメールを送るのにそんなに悩んだりしてはったんやろ??

ともあれアドレスを小田さん宛に書き換えるという『いたずら』を、
さっそく実行しようとしたんやけど、そこでやっと異変に気付く。

はるなが書き換える前から、宛先がはるな宛やなく、小田さん宛になってるやん!!

え、これって石田さんがホンマに宛先を間違えたんやろか?
いやでも送る前にあんな悩んでいたメールの宛先を、間違えるとも考えづらいし。

ということは、この宛先間違いはもしかして……わざと??

いやまさかそんなはずが……とも思うんやけど、
確かにそれなら石田さんがあれだけ悩んでた理由も納得できる。

混乱したままメールを放すとともに、はるなの意識を2つに分け、
小田さんの元へと飛んでいく石田さんのメールに便乗してついていくことにした。

自室のベッドに寝っ転がり気分よくハナウタを歌っていた小田さんが、メールに気づく。
そしてその様子を、スマホの画面越しに観察するはるな。

送信者名が石田さんということにまず驚いた小田さんは、
メールの内容に眉を顰め、すぐに誤爆だと悟って苦笑した。

「石田さんってはーちんだったらこんなにハートを入れるんだ」

はるな宛の文面を読みながら、そんなことを呟く小田さん。

「あーこういう人だったっけ石田さん」

感心したような、半ば呆れたような口調で独り言を漏らす小田さんの表情は、
何とも言えずキラッキラに輝いてはって、楽しげな様子が溢れんばかりなんやけど、
ちょっとだけ怖さみたいなものも感じてしまったのは、はるなだけやろか。

なんというか、主導権を掴んだ肉食動物みたいな。
生殺与奪を握り、さてこれからどうやって料理してやろうかという
強者の余裕が漂っている……な~んて、妄想しすぎかもしれんけど。

この「誤爆メール」にどう返信するか少し悩んだ小田さんの選択は、『あ』の一言やった。
なるほど、すぐに指摘せず、相手に自覚させようと探りを入れる感じやね。

一方の石田さんは、「誤爆メール」を送信した後、一体小田さんからどんな反応があるか、
気持ちばかりが急いてジッと待っていることができず、
部屋の中を意味もなくグルグルとせわしなく歩き回ってはった。

スマホの着信音にすごい勢いで画面を覗き込んだ石田さんは、
予想外の『あ』の一言に頭を抱え、そのままベッドに倒れ込む。

ここで自然な反応ができるかどうかが勝負どころ。石田さんの腕が問われる場面や。

あまり悩む時間もかけられず、まずは、『え?笑』とのみ返信する石田さん。
まだ誤爆に気づいてないという意思表示やね。

そこで小田さんの返しをまた待つのかと思ったら、
石田さんが何かを閃いたように猫目を大きく見開いて突然立ち上がり、
勢いよく文字を入力すると気合とともに送信した。

『あ、小田やんワロタw』

いかにも普段の石田さんが口にしそうなその一言を読んで、
小田さんは思わず吹き出すと、ニヤつきながらツッコミを入れる。

『なんですかそれは! 石田さんが間違えたんでしょ!!w』

これはもう小田さんからナイスリアクションを引き出した石田さんの作戦勝ち、
というよりも執念の勝利ってヤツやね。

石田さんの努力の甲斐あって、それからは自然な流れで2人の会話のラリーが続いていく。
小田さんはもちろんのこと、始めの方は必死の形相で自然なメールを装ってはった石田さんも、
いつしか流れに身を任せてホンマ楽しそうに小田さんとの会話を満喫するようになっていた。

普段まずありえないような光景。
しかもはるなが『いたずら』によって作り上げようとしたものを、
石田さんが自分の意思で達成したという衝撃の事実に、はるなはもう感無量やった。

一人感動に浸るはるなをよそに、2人のやり取りもそろそろたけなわ、
収束に向かう気配が漂ってきていた。
このまま単発で終わらせてしまっては、はるなの女が廃るというもの。
今度こそはるなの腕の見せどころ……やとは思うんやけど。

『いい加減遅いし、そろそろ寝よっか』

『そうですね。石田さんが間違ってメールしてくれたおかげで、楽しい時間を過ごせました』

『こっちもそれなりに楽しませてもらったかな。
小田にメールするだなんて、もう二度とないだろうけど』

そこで終わらせず、顔を真っ赤にしながらも強い決意とともにもうひと押しする
石田さんの横顔が、はるなには痺れるほどにカッコよく見えた。

『・・・とか言いながらまたすぐ同じように誤爆メールを送ったりしてねw』

『じゃあまた石田さんからの誤送信を楽しみに待ってますねw
いやそれより、今度は私の方から石田さんに誤送信しますから』

打てば響くような小田さんの反応も、とっても素敵やと思う。


『誤送信しますからって、その時点で誤送信じゃないしw
こっちもその時に暇を持て余してたら、少しくらい相手してあげなくもないけどさ』

『よかった。じゃあ今日のようにお風呂待ちの暇な時でも間違えて送りますねw』

『まあ期待せずに待ってるよw じゃあそろそろ本当におやすみ』

『はいおやすみなさい、また明日』


胸の内に秘めていた想いがつい零れ落ちてしまう、
「溢れちゃう...BE IN LOVE」の魔法(はるな命名)。

その効力により、こんな楽しいメールのやり取りを単発で終わらせたくない、
という2人の気持ちが溢れだし、今後も事あるごとにメールしあうことを約束する。

……というのがはるなの皮算用やったんやけど、それがもろくも崩れ去っていた。

なぜって、はるながあえて魔法を使うまでもなく、
石田さんの強い意志によりはるなの目論見を楽々と実現させてしまったのやから。

誤爆メールの『いたずら』といい、メールのやり取りの継続といい、
はるなのやろうとしたことがことごとく石田さんに先を越されてしまったわけやけど、
だーさくさんの絆を実感できたはるなは、ただただ満足な気持ちで一杯やった。

まさか石田さんのこんなにも積極的な姿を目の当たりにできるとは思いもせんかったけど、
この様子なら、「だーさくさんのキューピッド」なんて言いながら、
はるなが何もせんでも二人の距離は十分に縮まっていきそうやね。







「でもはるながちょっと思うのは、石田さんはホントは仲良くなりたくて、
だけど普通じゃ送れないから、尾形の誕生日に間違えたフリしよう、みたいな」

はるなの推測(を装った事実)に、客席から歓声と笑いが上がる。
そして小田さんの反応も、納得のものやった。

「石田さんに怒られるよ!!」

小田さんのツッコミ通り、確かにはるながみんなの前で喋った内容は、
石田さんに怒られても仕方のないものかもしれへん。
でも石田さんが怒る理由は小田さんが想像してはるものとは違って、
「なんで尾形がそのことを知ってるのよ!」という驚きと焦りによるものやろうけど。

大切な秘密を、ファンのみんなの前で公表してもうてすみません石田さん。
でも聞いてた人達はみんな、その内容をはるなの軽口としか受け取らないはずやし、
事実を把握してるのはこの世の中で石田さんの他にはるな一人しかおらへんから、
そんな心配せえへんでもええと思いますよ。


ライブ終了後、後ろから肩を叩かれたはるなが振り向くと、
そこにいたのは般若の形相をした石田さん……ではなく、
意味深な笑みを浮かべた小田さんやった。

「あの2人MCの内容は、さすがにやりすぎだったと思うよ」

「すみません、ちょっと調子に乗りすぎました」

素直に頭を下げるはるなの後頭部に、小田さんの楽しげな声がぶつかった。

「いくら事実だからって……。
ううん、事実だからこそ口にしちゃいけないってことが、
世の中には存在するんだからさ」

……えっ!?
それって、もしかして……??

その言葉の意味をワンテンポ遅れて理解したはるなが慌てて頭を上げた時には、
小田さんはスキップでもしそうなくらいの上機嫌な足取りで、すでに歩き去ってはった。


ホンマすみません石田さん。
石田さんがメールを送り間違えたフリをしたという事実を把握してるのは、
石田さん以外ではてっきりはるな一人だけやとばかり思ってたんですけど……。

どうやらその認識は間違いで、この世の中にもう一人存在してるようです。


(おしまい)


※参考
MORNING MUSUME。’16 DVD Magazine Vol.88

https://www.youtube.com/watch?v=HcrdcCTJIPE#t=19s


独占欲     わたしがついてる。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2016年11月27日 21:40