わたしがついてる。 ~REVERSE~


「ブラシって、必要ですよね」

私は確かに、石田さんにそう伝えたはずだった。
私の言葉を受けて石田さんのリアクションがなんか変だなとは思ったけど、
その時点では特に深い意味とか考えたりしなかった。

それがまさか、石田さんがあんな聞き間違えをしていただなんて。
しかもその聞き間違えをファンのみんなの前で公言してしまうだなんて……。

「私って、必要ですよね」

石田さんの公言のせいで、私は何度もファンのみんなに気を遣われてしまい、
その度に、

「言ってないです言ってないです! 
『ブラシって必要ですよね』って言ったんです!笑
みんなに言っといてください!」

と苦笑いながら訂正をせざるを得なくなってしまった。


「石田さんがさっきのアナウンスですごい暴露してはりましたけど、
一体何があったんですか?」

どうにかその部の握手会も一段落し、
すぐにでも石田さんに抗議しに行かなくちゃと思っていた時、
ニヤニヤしながら声をかけてきたのが、はーちんだった。


また「だーさくさんのキューピッド」とかいう名目でからかいに来たんだなと
すぐにわかったけど、誤解を残したままだと余計に面倒なことになると思って、
はーちんにしっかりとただの聞き間違いだということを伝える。

「ああなるほど。小田さんとしてはそう伝えたつもりだったんですね」

「つもりじゃなくて、本当にちゃんとそう伝えてるから」

念押しした私に、はーちんが不思議そうな表情で訊ねてきた。

「でも小田さんは、石田さんが聞き間違えをファンのみんなに広めたせいで
いい迷惑してるはずなのに、何かやけに楽しそうですね」

「ええ、そうかな? いつも通り普通だと思うけど」

そう答えながらも、言われてみれば確かにそうだと我ながら内心で首を傾げる。
ファンのみんなへの訂正が大変だったのは事実だけど、
別にそんな嫌な想いとか腹立たしい想いとかしてないのは、
きっとファンのみんなが気を遣って暖かい言葉をかけてくれたからかな。

「石田さんが、『私って、必要ですよね』と聞き間違えたのはわかりましたけど、
石田さんはその聞き間違えに対して小田さんにどう答えを返したんですか?」

はーちんから質問を受けて、そこでようやく気づいた。
私が無意識の内に楽しげな気持ちとなっていた理由。
それは……。

嬉しかったんだ。

「私って、必要ですよね」という聞き間違えに対して、
石田さんが「そんなの当り前でしょうが」と言ってくれたことが。
石田さんが私のことを必要としてくれているという事実が。

だからこそ、嫌な想いとか腹立たしい想いとかそんなこと以上に、
今の私はこんなにも心が浮き立っているんだ。

ただそれはそれとして、やっぱり石田さんにはちゃんと抗議をしに行かないと。
そして次の部のアナウンスではみんなに石田さんの聞き間違いのことを伝えて、
石田さんにも私と同じ思いを味わってもらおう。


思わず先の想像に浸り込んでしまったけど、はーちんが興味深げな顔で
私のことをジッと見ているのにようやく気づいて我に返る。

はーちんに私が楽しそうな本当の理由を、
そして石田さんがかけてくれた言葉の内容を伝えたら、
一体どんな反応をするのかな??

ふとそんなことを考えながら、
私は満面の笑みではーちんの問いに答えた。

「石田さんが返してくれた答えはね……。
フフフフ、教えてあげないよ」


(おしまい)


わたしがついてる。     わたしがついてる。 ~TRUTH~

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最終更新:2016年12月31日 21:38