リアル☆リトル☆ガール


「どんな自己紹介がいいかなぁ。
やっぱりみんなの印象に残るようなインパクトが強いものにしたいけど……」

ブツブツと独り言を呟きながら、夕闇の中をたった一人で帰路に就く夏月姫(なつめ)。
その表情は真剣そのものでありながら、未来への希望に満ち溢れていた。

いよいよ明日、夏月姫は夢への第一歩を踏み出す。

魔道士協会の新期入会式。
夏月姫にとってはもちろん、魔道士協会への入会が夢の到達点ではない。
憧れの執行魔道士となるべく、これから研鑽を積み重ねていくこととなるのだ。

鞘師里保という年若きエースが現れてからより顕著になったのだが、
執行魔道士になりたい数多くの若者が毎年魔道士協会の門戸を叩くようになっていた。

もちろんその中で、実際に執行局の入局試験に合格し
執行魔道士として実戦の場で活躍できる者はほんの一握りしかいないのだが、
当然のように夏月姫はその中の一人に選ばれる未来を露ほども疑っていない。
いかにも子供らしい前向きさと、純粋さと、そして無謀を兼ね備えていた。


「好きな食べ物のことを話してみるのはどうだろう?
辛子明太子と軟骨からあげが好きです!!
うん、これなら他の子と違って目立つことができそう。
でも、もうひと押し何かできないかな……」

入会式の自己紹介の内容を、必死になって考える夏月姫。
だが、あまりに夢中になりすぎて、いつもと違う人通りのほとんどない裏道に
足を踏み入れてしまっていたことに、意識を向けることができなかった。


「私の好きな食べ物は、辛子明太子と軟骨からあげです。ナンコツナンコツ!
うん、これならみんなの注目を独り占めできそう!!」

その瞬間。

突然、夏月姫の周辺が深い闇に包まれる。
そして、背後から襲い来る痺れそうなほどの圧倒的な魔力。

「こ、これは……」

夏月姫が操り人形のようにぎこちなく振り向くと……。

「ひぃっ!!」

そこにいたのは、怪しげな人物だった。
漆黒のローブを身に纏い、顔には黒光りのする仮面を着用し、錫杖を手にしている。
そして全身から放たれる魔力は、夏月姫がこれまで感じたことのないレベルのもの。
おそらく同じ魔道士だろうが、この人物に比べたら自分など虫けら同然だろう。

「こ、殺される……」

本能的にまず頭に浮かんだが、もうまともに自衛することすらできない。
震えが全身を駆け巡るのもまったく気づかず、蛇に睨まれた蛙のように
呆然とこの人物のことを見つめることしかできなかった。


「さっきの言葉……もう一度言ってみなさいよ」

「へっ? あ……はい。
私の好きな食べ物は、辛子明太子と軟骨からあげです。ナンコツナンコツ!」

思考もほとんど停止した状態で、言われた通り震え声で繰り返す夏月姫。
その声に応じるように、怪人の魔力が更なる濃度を増し、夏月姫の全身を包み込んだ。

このまま私は、魔力に溶かされて死んでしまうんだ……。

夏月姫がぼんやりと自らの死の覚悟した、まさにその時だった。

「うーん、なかなか良い線いってるんだけどね、もうちょっと弱いのよね。
もっと恥ずかしさを完全に振り切って可愛さ全開でやりきらないと。
いい、見てなさい本家本物の姿ってやつを。
ナンコツです!ナンコツです!」

バチコーン!!!!

「いい加減にしなさいケメちゃん!!!」

堰を切ったように饒舌に喋り始める怪人と、まるでタイミングを計ったかのように
後ろから突然現れ出てハリセンで思いっきりツッコミを入れるアニメ声の美女。


「痛った~い!! ちょっといきなり何するのよ梨華ちゃん!!」

「何するのじゃないわよ! そんな格好でいきなり人前に現れて、
幼気なこの娘がどんな怖い思いをしてるかわかってんの!!!」

目の前で繰り広げられるドタバタ劇にまったくついていけず、
他人事のように眺めるしかない夏月姫。
そんな様子に気づいた梨華と呼ばれた美女が、苦笑いで優しく声をかける。

「ごめんなさいね、ケメちゃんが怖い思いをさせちゃって。
でもね、決して悪気があってやったことじゃないから、それだけはわかってあげてね。
どうやらあなたの自己紹介を聞いて、
『自分の後継者ができた!!』と舞い上がっちゃったみたいで。
ケメちゃんのうたばんでの活躍なんて覚えてる人間どれだけいるんだって話だし、
それに後継者どころか見た目の可愛さから何から全然違うっていうのにねぇ」

「可愛さから何から昔のあたしにそっくりじゃないの」

「馬鹿なこと言ってないで、これ以上迷惑をかける前に早く帰るわよ」

「わかったわよもう。それじゃあ色々驚かせちゃってごめんなさいね。
明日の自己紹介頑張ってね、今後の活躍に期待してるから」

そのまま闇に溶けてあっという間に姿を消す2人。
結局一言も口を挟めなかった夏月姫は、その後もしばらく
時を忘れたようにその場に立ち尽くしていた。


そして翌日、夏月姫は……。

魔道士協会の入会式での自己紹介において、
ケメコ仕込みの「ナンコツ!ナンコツ!」を披露し、
大いにみんなの支持を得たという。


(おしまい)


※参考
アーティスト>ハロプロ研修生>プロフィール>中山夏月姫

http://www.helloproject.com/helloprokenshusei/profile/natsume_nakayama/


好きな食べ物で「辛子明太子と軟骨からあげです。軟骨!軟骨!」と答えた中山さん
軟骨からあげとか大人っぽいのにとまことさんが言うと
「そんなこともないと思いますけど」と中山さん
最後に「軟骨!軟骨!」は持ちネタにするの?と聞かれ、もう一回やってみせる中山さん

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最終更新:2017年05月13日 21:15