地底の果てのクリスマス

 

世間では今日はクリスマスらしい。
昔からクリスマスなんてまったく縁がない生活を送っていたけど、
今頃になってなんとも羨ましいような気持ちに襲われることがある。
それは、今となってはクリスマスが無縁どころか
あたしにとって完全に手に届かないものとなってしまっているからだろう。

「そりゃあこんな地底の果てに縛られてちゃねぇ・・・」

話相手のいない生活が長いと、つい独り言が多くなって困る。
こんな地底の果てに、しかも不死王相手にプレゼントを届けるサンタクロース。
そんなありえない取り合わせを想像して、思わず苦笑する。


シャン、シャン、シャン、シャン・・・

不意に、地底には全く似合わない鈴の音が遠くから響く。
何事かと地底の奥へと目を凝らすと、闇に包まれていた洞窟の天井が瞬き、
満天の夜空へと姿を変えた。

鈴の音とともに、夜空を駆ける赤鼻のトナカイが見る見るうちに近づいてくる。
ひかれるソリに乗っているのは間違いない、サンタの格好をしたアイツだった。


「はぁーい、良い子のみんな、リカサンタがプレゼントを持ってやってきたわよ!」

ドヤ顔で甲高いアニメ声を響かせるリカサンタ。

「ちょっとあんた、なにこんな大層な演出してんのよ」

「なにって、今年も一年地底の果てを守ってくれたよい子の不死王さんに
プレゼントを持ってきてあげたの!」

「プレゼントってなによ」

「プレゼントもちろん、あ・た・し! キャハ!!」

「いらない」

「ちょっと人に背を向けて即答だなんてひどくない!?
前々からケメちゃんが来い来いっていうからわざわざ顔を出してあげたんだよ!」

リカちゃんに背を向けたのは拒絶のためではなく、嬉しかったから。
それこそ泣きたいほど嬉しかったけど、もう泣き方も忘れてしまったあたしは、
その代わりに泣き笑いのとても見られたものじゃない表情になっているはず。
そんな情けない顔を視界から外すために、ついぶっきらぼうな返事になるしかなかった。

「どうせよしこも来てるんでしょ」

虚空に向かって声をかけると、闇の中から予想通りの姿が現れる。


「ケメちゃんメリークリスマス!
ちゃんとしたプレゼントも持ってきたから、これで機嫌を直してよ」

「芋焼酎と日本酒って、クリスマスなんだからシャンパンとか、
もう少しムードのあるものがあるんじゃないの?」

「このメンバーじゃムードもなにもないじゃない」

「今日はあたしがいるから、それだけでムードも満点でしょ。
・・・ってそこで2人とも無視するのはやめてよ!」

地底に響き渡る笑い声。
この場所がこんなにぎやかな喧騒に包まれるのはいつ以来だろう。

今後あたしが、イルミネーションに飾られクリスマスに沸き立つ街の姿を
目にすることはもうないかもしれない。

でも、今夜のこの地底はどんな街の灯りよりも綺麗な光を放っている。
それは魔法で作られた夜空のせいではない。
あたしにとって大切な2人が、最高の輝きを提供してくれているから。


3人でグラスを片手に顔を見合わせる。
今日はこれまでで最高の聖夜だ。
そして満面の笑みでグラスを傾けて唱和する。

「「「メリークリスマス!!」」」


(おしまい)

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最終更新:2014年02月10日 22:55