『奪う』という行為はね、えりぽんが思っているよりずっと危険が伴うんだよ。
強大な魔力であればあるほど、たとえ奪っても簡単に吸収などできやしない。
それどころか、逆に奪った者の生命力を吸い取ってその身体を乗っ取ろうとする。
ウチの部屋にあるバジルがいつの間にかカイワレ化したのも、
暴走する魔力の影響を受けて生命力を吸われてしまったからなんだ。
それだけじゃない。魔道士によっては奪われると同時に、
その魔力を相手への呪いと変じる手段を取っていることもある。
遥かなる地底より手を伸ばし、地獄へと引きずり込もうとする魍魎の群れ。
真っ平らな道を普通に歩いていただけなのにウチがなぜかよくコケるのは、
それを躱すのに精一杯になっているから。
そして何より恐ろしいのが睡魔の呪い。
その呪いは、常に強い睡魔をもたらし、ひとたび眠りに落ちると
そのまま永遠に目を覚ますことなくついには死に至らしめるという凶悪なもの。
もちろんウチはそんな呪いになんか負けない。
毎日毎夜その呪いと戦い、そして最後には打ち破って目を覚ますんだ。
ただ、呪いとの戦いに勝つためにはどうしても長い時間が必要で、
だから時間通りに目を覚ますことは、今のウチにはなにより難しいんだよね。
「……なんて話を、今日里保が遅刻した時こっそり教えてくれたんですけど、本当ですかこれ?」
「うーん、さゆみは今まで一度もそんな経験したことないけどねぇ。
でもりほりほがそう言うんならそうなんじゃないの、りほりほの中ではね」
「えーと、つまりはただの遅刻の言い訳ってことでいいですかね」
「ちゃんと人の言葉の裏を読めるようになったとは、成長したね生田も」
「エヘヘへ……、里保が素直じゃないのはよくわかってるんで」
…
…
…
奪われると同時にその魔力を呪いに変える力を持つような魔道士なんて、
世界広しといえどもそんなに多くはいないんだけどね。
年齢の割に色々経験してるとは思っていたけど、
そこまでの修羅場をくぐってきてたとはりほりほもやるねぇ。
これまでは可愛いりほりほを眺めてるだけで十分楽しんできたけど、
そんな話を聞くとついつまみ食いしてみたくなっちゃうから困るねこれは。
「……道重さん! どうしました急にニヤニヤしながら黙り込んじゃって」
「ああ、ごめんごめん。りほりほのことを考えていたらつい、ね」
(おしまい)