猫たらし香音

 

私はこの街の情報屋。
磨きぬかれた隠密の魔法は、鞘師さんのようなごく一部の例外を除いて
ほとんどの魔道士に気づかれることもなく、ましてや一般人には
そこに猫がいたことすら認識もできないレベルのもの。
そう、そのはずでした。

「やっと見つけたよ、ずっと探してたんだからね」

いきなり声をかけられ驚いて振り向くと、そこにいたのは
鞘師さんと生田さんの友達の……確か鈴木さんでしたっけ。

「うん、間違いないこの黒猫。キミは里保ちゃんと一緒にいた子だよね」

そんな、気を抜いていたわけでもないのに今この瞬間に気づかれただけでなく、
密かに鞘師さんと接触していたことまで知られているだなんて、
一般人が見抜けるはずもないのにどうして!?

「そんな驚いた顔しないでよ。うちはさ、猫のことがホント大好きなんだ。
そのせいかは知らないけど、どこにどんな猫がいるかなんとなくわかっちゃうんだよね」

混乱する私を見ながら得意げな鈴木さん。
いや、百歩譲って普通の猫相手にそんなことが可能だとしても、
私の魔法による隠密行動まで見破るなんてありえるはずがない。
これは早々に退散すべき。私の魔道士としての勘が強い警告を発していました。

ところが。


鈴木さんの太陽のような笑みを浴びて、音を立てて崩れ去る警戒感。
あれ!?……おかしいよ……逃げなきゃいけないのに……どうして……?

「私の特技はもう一つあってね、どんな猫相手でもすぐに好かれることなんだ。
えりちゃんにその話をしたらさ、『それって魔法じゃない!?』だって。
フフフフ・・・、ホントにそうだったらすごいよね」

そう、これは確かに強い魔法の効力によるもの。
まさかこの世の中に猫相手にしか発動しない魔法があるだなんて、
情報屋にあるまじき知識不足が生んだ油断でした。

その場にしゃがみこんで手招きする鈴木さんに、なすすべもなく吸い寄せられる私。
このままじゃいけない。鈴木さんの視線が離れた瞬間に一気に逃げ去ろう。

私の最後の抵抗は、鈴木さんの手が私の頭をそっと撫でた瞬間、もろくも崩れ去りました。
頭を軽く触れられただけのはずなのに、脳天を揺さぶられるような強い衝撃。

「私の最後の特技が、この手。
うちが猫を撫でると、どんな子でもうちにメロメロになっちゃうんだ。
えりちゃんにこれも魔法なのかと聞いたら、
『それは香音ちゃんのフィンガーテクのせいじゃないの』だって。
それを聞いた聖ちゃんが『ハレンチなー』ってなぜか喜んでたけど、
キミにもこのフィンガーテク……いや、快感の魔法を味あわせてあげるから」

私に話しかけながらも、私の頭、首筋、耳元、頬、顎下そして背中と、
体中を優しく愛撫する鈴木さん。この湧き上がる快感が、
テクニックによるものか魔法によるものかさえもう考えることもできません。


「!!」

さらなる衝撃は、鈴木さんの手が私の尻尾の付け根に伸びた時でした。
トントントントン、と軽くそしてリズミカルに叩かれるその響きは
そのまま私の子宮の奥までダイレクトに伝わり、それとともに押し寄せる快感の波。
リズムに合わせて私の口から「あ、あ、あ、あ」と無意識に漏れるその声は、
はたして猫としてのものかそれとも私自身の声なのか。

もうダメ抑えきれない!
……という時に、鈴木さんの手がピタリと止まりました。

「なに、そんな恨めしそうな顔で見ないでよ。
実はさ、うちは猫が好きすぎるからか悪い癖があってね。
猫が誰か他の人と仲良さそうにしてるのを見ると、
その子を自分のものにしたくて我慢できなくなっちゃうんだ。
だからさ、キミもうちだけのものになってくれないかな。
もう、里保ちゃんにもえりちゃんにも会っちゃダメだよ。
その代わり、キミをこれまで体験したことのないところまで連れて行ってあげるから」

その言葉に、私はついに堕ちました。
鞘師さんのことも、生田さんのことも、道重さんのことさえもうどうでもいい。
だから、私のすべてをめちゃくちゃにしてください!!

「そう、わかってくれたんだね、嬉しいな。
じゃあ、お楽しみはこれからだよ」

(おしまい)

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最終更新:2014年02月10日 22:56