ケース「あゆみずき」

 

聖に掛けられた毛布を慎重に捲る。
さゆみが脱がしたのだろう。その胴部に走る痛々しい赤い傷に目が行く前に、
必然的にあまりにも豊かな双丘に惹きつけられる。

大きくそしてとろけそうな肉感にも関わらず、重力に負けることなく
綺麗な形状を保ち続けるその胸は、とても自分と同い年のものとは思えない。

亜佑美は、恐る恐る聖の胸に手を這わせた。
この上なく柔らかくかつハリのあるこの感触を、一体何に例えればいいのか。
マシュマロ? いや・・・

「肉まんの肉感!」

会心のダジャレに思わず吹き出す亜佑美。
それに抗議するように、聖の表情が一瞬苦痛に歪んだ。

「ご、ごめん……」

亜佑美は飛び退いて、誰に言うともなく呟いた。

いつか自分も、こんな素敵な胸の持ち主になれるだろうか。
2年前、いや1年前まではまだ希望を持っていた。
しかし今となっては、それが儚い夢でしかないことに気づいてしまっていた。

もう、どうすればいいのか分からない。
本当に、自分は理想の胸も手に入れられない、能なしの魔道士なんだと思い知る。

亜佑美は暫し呆然と、聖の胸を見つめていた。


不意に思い出す。人の願望を形にする禁断の魔法。
これまで失敗を繰り返し、諦めかけていたその魔法にもう一回だけ挑戦してみよう。

もう一度聖の側に立ち、その胸に触れる。今度は己の願望を魔力として放出しながら。

深と静まり返った部屋で、亜佑美は一心に聖の胸を揉み続けた。
窓の外はもうとっくに真っ暗で、時間の感覚も分からない。
断続的ないやらしい吐息の繰り返しが、亜佑美の心をかき乱した。

やがて微かな変化が訪れる。
聖の胸に渦巻いていた媚力が、願望の込められた亜佑美の手に流れ始めた。
そしてそのまま腕を伝い、亜佑美の胸まで流れを呼び込む。

「お願い!」

その声に呼応するかのように、亜佑美のTシャツに大きな膨らみが出現した。

ついに禁断の魔法に成功したんだ! 理想の胸を手に入れたんだ!
憧れのバインバインが現実のものとなったんだ!

思わずその場に飛び上がると、華麗なターンを決める亜佑美。
そして、重力に耐えきれずTシャツの隙間からボトリと落ちる2つの大きな肉まん。

「!!」

亜佑美はその場にへたり込み、呆然と肉まんを見つめる。
まさか完璧すぎるダジャレが仇となって本当に肉まんを出現させてしまうなんて・・・。

涙ながらに肉まんにかじりついた亜佑美は、それでも2つとも綺麗に平らげて満足すると、
聖にすがりつくように横たわり、程なく穏やかな寝息を立てたのだった。

(おしまい)

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最終更新:2014年02月10日 23:01