えりぽんとさゆみん ~その2~

 

生田が家にやって来てから、さゆみは性格が以前より明るくなった
生田は物怖じせず年上でも年下でも少々強引なくらい馴れ馴れしく相手のテリトリーに入ってくる
さゆみはそんな生田のペースに巻き込まれてテンション上げ子になった
どこか影の亡霊を引きずり引っ込み思案だったさゆみにとっては生田のように引っ張ってくれるタイプの人が良かったのかも
以前よりも心から笑い笑顔になることが増えている、さゆみ自身もそのことを自覚していた
さゆみは生田の魅力に救われている、人との出会いによって人は変わるんだ
長年生きてきたさゆみもまだ人から改めて教わることばかり

ただ、空気が読めないところがたまに傷だ
ふざけてちょっかいかけてくることもたくさんある
だがそんな生田をさゆみは可愛いと思い、親しくなるにつれ生田への愛情は強まっていく
でも誤解しないでほしい生田への愛は恋愛感情ではない絶対違うんだから・・・恋心なんかでは・・・

「(黙っていればイケメンなのに・・・)」

さゆみは珍しく真顔で魔道書を探す生田を横目で見ながらそんなことを思う
道重邸の書斎というより実質的にはもう図書室な部屋の中で生田と2人きり
さゆみと生田は数多くの本棚から目当ての魔道書を探しているの、でもお目当ての魔道書がまだ見つからない
蔵書がたくさんあるおかげで探している本が簡単に見つけられないことはよくあることなの

「あれー?どこにあるのかしら・・・」

「全然見つかりませんねー」

高い本棚に梯子をかけ登ったり降りたりを繰り返し探すけど全然見つからない
全ての蔵書の内、まだ三分の一も捜索が終わっていない
このまま探すのを辞めて諦めようかなとも思う、このままでは1日かけても終わらない日が暮れてしまう

「あぁー、疲れたなの生田後でさゆみの肩揉んで」


さゆみはぶっきらぼうに、そう命令して生田を見ると
生田はじっとさゆみを見つめていた

「な・・・何よ?」

さゆみは自分を見つめる生田の意図が分からず尋ねると生田はこう言った

「いぇ・・・今日の道重さんチンチクリンで可愛いなと思いまして」

「何よそれっ?」

さゆみは笑った
そりゃ、さゆみは童顔だとよく言われるわ実年齢よりも幼く見られることもよくある
だからってチンチクリンとは何よ?
馬鹿にしているのかしら?
生田は悪びれる様子は無くニコニコしている、きっと悪気は無いのだろうけどもっとさゆみをお姉さんとして接してほしいわ

今日はこの列の本棚を探したら終わりにしよう
見つかっても見つからなくてもこれで最後にしようキリがないの
さゆみはそう思って梯子を移動させて本棚にかけ一段一段と梯子を登っていく
一番上段の棚まで登り本を探していたら

「(あった!あれなの!!)」

さゆみはついに探していた魔道書を見つけることができた
ただ一つ問題がある、今のさゆみの梯子の位置からではその魔道書までちょっと遠い
今の位置から右側にその魔道書があるのだが手を伸ばしてギリギリなところに入っている
だけど一旦下まで降りて梯子をそこの位置まで移動させるのも面倒くさくて
さゆみは梯子から片腕を思いっきり伸ばしその魔道書を取ろうとした

「(後もう少しなの・・・)」


伸ばした手は目当ての魔道書まで手がかかり
今、棚から引き出そうとしたところで
さゆみを乗せた梯子が伸ばした手の方向へと横に滑るように倒れた
そう気づいた瞬間さゆみはヒヤッとした

「わわわわわゎゎっ!!!!!」

バランスを崩して倒れる梯子から、さゆみは両指を本棚に手をかけて踏ん張ろうとしたが
かけた両指も本棚から滑り、さゆみは落ちていく

「危ないっ!!」

さゆみは落ちていき固い床に激突すると落ちていく一瞬の中そう思っていたら
自分を抱きとめる生田の身体の柔らかい感触に包まれていた

「キャッ!!」

「痛っ!!」

そのまま生田をクッションする形で、さゆみは生田を下敷きにしてしまう

「あ痛たたた・・・道重さん大丈夫ですか」

生田の声が聞こえて、さゆみが怖くてつぶっていた瞳を開けると自分は生田に抱き締められる形で生田の腕の中にいて
見上げると自分を見つめる凛々しい生田の顔が至近距離でそこにはあった
その顔を見た瞬間、不覚にもさゆみは胸がドキッと高鳴ってしまった

しばらく、さゆみはドキドキしながら生田と見つめ合った
怖かったけど生田の腕に抱きとめられて少しの安心感と蕩けるようなうっとりとした気分
この感覚の正体をさゆみは昔から知っていた、だけど素直にそれを認めることがプライドが邪魔してすぐにはできない


そうして見つめ合っていたがさゆみも生田もハッとして顔を逸らす

「うぅん、さゆみはもう大丈夫だから」

さゆみはそう言い、生田から離れる・・・

「(何、今の気分?何か変な感じになっちゃった・・・)」

生田もさゆみと同じように気恥ずかしそうに、うろたえているように見える
もしかして生田も自分と同じ気分なの?
このさゆみがへなちょこな生田に惚れるわけないわ、今のはただの気が動転していただけ・・・
これは恋じゃない単なる吊り橋効果よ・・・
さゆみはそう自分に言い聞かせ、自分の気持ちを否定して納得しようとしたが
この胸のドキドキは収まらない

「待ってください道重さん」

「何っ!?」

呼びかけられて生田の方を見たら
いきなり生田がさゆみの両肩を手で掴んでお互いの顔と顔が向き合うように強引に引き寄せられた

「(何っ!?何なの!?まさか・・・)」

「道重さん動かないでください」

生田の美しい顔を見て目と目が合うと、さゆみは身体から力が抜けていく
この状況下さゆみは確実に生田に魅せられている
思考がとろけるような懐かしく甘い恋の感覚を久しぶり思い出す
思いがけない愛を味わい、さゆみはこのまま生田とキスしてもいいと思えてきた


よくあるようなベタなドラマのような展開
生田とこういう関係になるのも悪くないかも・・・
生田の片手が、さゆみの頬や髪をなぞり
その心地良さに、さゆみは意を決して瞳を閉じて唇を突き出し生田を待った
それから次に生田が発した言葉は、さゆみの予想外のものだった

「道重さん取れましたよ」

「えっ?」

瞳を開けると生田が手で摘んでいる赤い糸くずを、さゆみに見せてくる

「髪の毛に付いてましたよ、さっき落ちたときに付いたんですね」

何かと思えば生田はさゆみの髪の毛に付いた糸くずを取ってくれようとしただけだったのだ
それなのに、さゆみは・・・勘違いしていた恥ずかしさとガッカリ感で顔が熱くなり頬が赤くなる

「まったく大魔導士のくせして道重さんもドジですね」

生田が小馬鹿にしたように笑顔になったから、さゆみはムカついてきた

「(何よ!1人で勝手に盛り上がってたさゆみが馬鹿みたいじゃない!!)」

さゆみは生田の背中に跳びつき首に腕を回して軽く羽交い絞めにする

「いきなり何するちゃっ!?」

「もう生田の馬鹿ぁー!!」

その姿ははたから見れば仲良い者同士がじゃれ合っている微笑ましい光景だった

終わり

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最終更新:2014年02月04日 19:30