ついにこの時が訪れた!
ハルは、目の前に対峙する里保を眼光鋭く睨みつけた。
一方の里保はまったく余裕の表情を崩さず、心なしか楽しげですらある。
それがまたハルの癇に障った。
こいつはまーちゃんのことを傷つけたにっくき相手。
いやそれ以上に自分自身許せないのは、その時こいつと勝負を交わし負けていることだ。
その後、大魔女さゆみの仲介によりいつの間にか仲直りしたみたいになっているが、
あの悔しさをハルは片時も忘れたことはなく、
いつか必ずリベンジを! と、密かに牙を研いでいたのだ。
そして今、捲土重来の絶好の機会を前に、ハルは気持ちの高揚を抑えきれなかった。
両者が、まるで示し合わせたかのようにゆっくりと動き出す。
1対1の勝負では、格下の者が格上の者の周りを回るという話もあるそうだが、
今回は2人とも同じように、一定の距離を置いて時計回りに綺麗な円を描いていた。
まるでメロディに合わせてステップを踏むかように軽やかな動きを見せる里保。
それに対しハルは、明らかに気負いすぎて力の入った様子ながら、
決して視線を逸らすことなく一瞬の隙を狙っていた。
息が止まるような緊迫感が続く、その刹那。
不意に、時間が止まる。空気が凍りつく。
そして、一切の音が消え、辺りは静寂に包まれた。
「今だ!!」
そのチャンスを逃すことなく一気に飛びかかるハル。
そして、丸椅子に体ごと掴みかかると、そのまま引き寄せ尻の下に組み伏せた。
「やったー! ハルの勝ちだ!!」
呆然と立ち尽くすその姿を想像しながら、ドヤ顔で里保の方を見やるハル。
しかしそこには、ハルと同様に丸椅子に腰掛けた里保がいた。
張り裂けんばかりの太ももをギュッと引き寄せ、
困ったようにハルに笑いかける。
あまりに不条理すぎる光景に、ハルは思わず叫んだ。
「なんなの嫌だもう! なんですかもう」
そこに響き渡る無情の声。
「優勝、鞘師里保」
ハルは泣いた。
(おしまい)