香音ちゃんの大喧嘩

 

香音は校舎裏で人を待っていた。
久しぶりに今からケンカをする。
相手はまだ来ない。
フフ、と自嘲気味に笑いながらすしり、ずしりと四股を踏む。
それにしても、どうしてこんなことになったのだろう。
そう、それは三日前のことだった。


从*´◇`)
「聖ちゃんが男の人と歩いてたよ」
朝、いつものように早めに登校した香音の耳に不意に入ったその言葉。
信じられなかった。いや、信じたくなかった。
認められない。生田が相手ならともかく、どこぞの馬の骨なんかに。
そんなことのために私は・・・

「みんな、おはよぉ~」
そんな香音の気も知らずに低血圧で朝風呂を終えたしっとり聖がエロけだるそうに登校してきた。
モヤモヤしたまま普段通り接するほど香音は器用ではない。
さっそく聖の机に行き、問いただす。あくまで柔和にいこうと努めながら。
「聖ちゃん、なんか最近、ウチら以外に仲が良い人とかできたりしてない?」
それでもちょっと直接過ぎたかも、とは思ったが、若干攻撃的な言い方になるのは仕方なかったし、止める気もなかった。
「あっ、情報早いね香音ちゃん。そうだよぉ、おでん君っていうの」
うわさは本当だったのか。香音は頭がグラグラして意識が遠のいていくのを感じた。

287 名前:名無し募集中。。。@転載禁止[] 投稿日:2014/04/06(日) 23:51:35.46 0
从*´◇`)
「そう~。聖ちゃんも年頃だもんねぇ。でも意外。あの子はこっち側だと思ってたけど」
パリパリせんべいを食べながら道重が言う。
放課後。香音は気がつくと道重家に足を運んでいた。
とにかく自分でもよくわからないこの感情を吐き出す場所が欲しかったのだ。
「譜久村さんが?くっそ、ハルのシパパは練習代だったのかよ!」
香音がよくわからない文字列を発しながら工藤が怒っていたが、その悔しさは伝わった。
「でも、まだ仲がいいってだけやろ?」
この期に及んで能天気な生田の鈍さに腹が立つ。
あのねえ、このままじゃ聖をあんたに譲った私がバカみたいじゃない。


「で、相手は誰なんヤシ?」
ソファに置いてあるフワフワしたクッションが喋ったと思うと、それはヤシ子だった。
「うん。なんかオデン君とか聖が言ってたけど・・・」
「ハル、そいつ知ってるよ!」
「えっ」
工藤の言葉に香音は思わず声をあげた。
これは案外早く尻尾をつかめるかもしれない。
「でも、どぅーはつい最近この町に来たばかりじゃん」
妙なところで頭が働くマサキだったが、
「ほら、まーちゃん。昔、同じ学校にいたアイツだよ。
いつの間にか転向してたけど、ここに来てたんだ」
工藤のその言葉を聴いてあぁ、と思い出す。
「いたいた。魔道士じゃないのにどぅーをボコボコにしてた人」
「ボコボコは余計だよ」

 

「くどぅーより強いのか。でも魔法使いじゃないなら、私でも何とかなりそうだね」
香音の鼻息が若干荒くなる。
「え?まさか鈴木さん・・・」
「そのまさかだよくどぅー、やっちゃうしかないんだろうね」
「危険ですよ、それにオデンは・・・」
「私、素人同士のケンカなら結構強いんだよ?」
こうしちゃおれないと香音は道重家を出て裏山へ向かった。
山篭りの特訓をして万全の体調に仕上げてくるつもりのようだ。
マサキが工藤を見やる。
「どぅー。でもオデンは女の子だったよね?」


从*´◇`)
「どうぞ鈴木さん。私の情報網は本来、こんなことに使うものではないのですが・・・」
「恩に着るよはるなん。大丈夫、あとで脇腹を絶頂を向かえるほどに撫でてあげるから」
あれから二日が経っていた。
たった二日で冬眠から目覚めたクマを屠るほどにビルドアップした香音の姿がそこにあった。
そして、飯窪さんが持ってきたのはオデンの学校の連絡網。
いまから呼び出しをかけるのだ。
「それと、言いにくいんですが鈴木さん。オデン君は・・・その、女性です」
しかし香音は微動だにしなかった。
「冷静に考えたら想像はついていたんだろうね。聖ちゃんはアレだし。
でも、オデンの性別がどうだろうと私の戦う理由は変わらないの」
そう、今から行うケンカは聖の気持ちを生田へ、そして香音へ向けるための戦い。
そこに性別など関係あるはずがなかった。
飯窪さんがヒュウ♪と古いリアクションで感嘆した。

 

从*´◇`)
連絡網を貰って2時間が経っていた。
まいった。連絡網をいくら調べても「オデン」という名前がないのだ。
あだ名だったのか、しまった、と思ったが
今から聖やくどぅーに名前を聞きに行くのはカッコ悪すぎるし、
なにより止められてしまうのが怖かった。
「自分で探すしかない。オデンってあだ名になるには、何か理由があるはずだ」
そして香音は一人の名前を見つけ出した。


从*´◇`)
フフ、と四股を踏み終えた香音はやや高揚してきた気持ちを落ち着かせるように笑う。
まさか、連絡網を調べるのに一日かかるとはマイッタんだろうね。
香音はカバンから塩を取り出し、撒いた。
その時、ついに校舎裏に人影が現れた。
「昨日の変な電話、あなたですか?」
「そうだとも。遅いじゃないか、オデンとやら」
しかし、オデンと呼ばれた女の子はキョトンとして、言った。
「わたし、オデンじゃなくて、小田(オダ)ですけど」


从*´◇`)
「なるほど、小田をオデンと読んじゃったかぁ^^」
さゆみが爆笑している。香音は複雑そうだ。
「笑い話じゃないですよ。結局オデンはつかまらないし、
せっかく鍛えた体は無駄になっちゃうし・・・」
「その小田ってヤツ、どうなったんスか?」
「ムシャクシャしてたからソイツ相手にスカっとしようとしたらさ、
なんか妙にスカしたやつで、『今、録音してるんですけど。学生課に提出しますか?』とか言ってくんの」
「あはは、そりゃ疲れたろうねえ^^」
いつでもどこでも録音機を携帯してるのはさゆみだけでいい。
「そういえば香音ちゃん。今、ふくちゃんが来てるよ」
急なさゆみの言葉に香音はギョっとする。
「え!?会わせる顔がないですないです!っていうか、どこに?」
「生田の部屋。やっつー状態をなだめてるよ。みていく?」
さゆみがいたずらっぽく笑う。
ホッとしたようなやっぱり腹が立つような・・・香音は丁重にお断りして道重家をおいとましたのだった。

おしまい。

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最終更新:2014年04月19日 20:25