魔法使いえりぽん ~伝説の魔法使いを求めて~

 

「ここまでか…。」 

里保は呟き、ダメージを受けた自身の体躯を見やる。 

既に、両手足に力は殆ど入らない。立っていることが奇跡といえるぐらいであった。 

「もう、終わり?執行局最強の魔道士も所詮はこんなもんなのね。」 

声の主をキッと睨みつける里保。だが、対抗する魔力も底を尽きつつあった。 


「ふふふ、まだそんな眼をできるのね。 


ムカつくなぁ、その眼。 
いっそ、あんたもあのお友達みたいに死んでしまうかい?」 


その一言が里保の耳に入るやいなや強烈な怒りが沸き起こる。 

「そ、それは、えりぽんのことかぁぁぁぁぁ!!」 


里保の体から急速に魔力が湧き起こる。 
そうだ、ウチはなったんだ!あの伝説の…


……ピピッ、ピピッ、ピピッ…… 

…ジリリリリ… 

けたたましい音で目を覚ました里保は自室に居ることを確認する。 

「うーん、昨日夜更かししてアニメなんか観てたからあんなへんてこな夢…」 


そこまで呟いたところで、里保はやっと時計のさしている刻に気づく。 

「うげっ、遅刻じゃ!」 

慌てて支度をし学校へと走り出す里保。 

(はぁー、またえりぽんに笑われる…。) 

 

「伝説の魔法使い?」 
さゆみは怪訝そうな顔で里保に聞き返す。 
その日の放課後、里保は真っ直ぐ道重家へと足を向けた。朝見た夢がどうにも気になる。 
なぜかさゆみであれば、自分の見た夢が何を意味しているのか知って居るのではと言う気がした。 


しかしさゆみは、 
「りほりほ、最近忙しいの?お休みとれてる? 
生田のパパに仕事押しつけられてるんじゃない?」 
とのことである。 


春菜にも尋ねようかと思ったがきっと、 
「あぁ!鞘師さんの夢のモデルはアレですね。 
○○が怒りをきっかけとして伝説の戦士に(以下省略)」 
なんて言いかねない。 

実際、春菜はその時確かにウズウズしながらコミックスの27巻を持っていた 
…気がする。 


そして、衣梨奈は衣梨奈で自身がやられたていたことに 
納得が行かないようであった。 
先ほどからしきりに 
「えりは弱くないとー、えりは弱くない」 
と叫んでいてうるさい。 

何ら解決しないまま里保は自宅へと戻ったのだった。

 


自宅に戻った里保を見てさゆみはフッと小さく笑う。 
それを見た衣梨奈と春菜は各々の意見を止め、不思議そうな顔をしてさゆみを見やる。 
「道重さん…、何独りでニヤニヤしてるんですか?」 

「…生田、ニヤニヤしてるって表現は誤解を招くのなの。 
さゆみはりほりほの言葉を思い出していたのよ。」 


「鞘師さんの?さっきのドラゴン(自粛)の話みたいなやつのことですか?」 

「そう。りほりほにはあぁ言ったけど、『伝説の魔法使い』っていたのよね。それこそさゆみとか吉澤さん 
保田さんにも有無を言わせないそんな実力の持ち主だったのよ。」 
さゆみは話ながら台所をチラリと見る。だが、2人は思わぬ事実に驚いてさゆみの仕草に気づかなかった。 
どこか懐かしそうなそれでいて楽しそうに思い起こすさゆみを2人はただ見つめていたのであった。 

「だけどね、かわいそうに不老長寿の魔法を覚えるのが少し遅くてね、ふふっ」


里保はその夜、再び夢を見た。 
身に浴びる様々な攻撃。態勢を立て直そうと大きく 
深呼吸をしてみるが肋骨が折れてしまったのだろうか 

激痛がはしる。 


「くっ…、何者ヤシこいつは…」 

里保は目の前にいる人物を睨みつける。里保の今までの任務の中でもこんなに苦戦したことはなかった。 

「お前は私には勝てん。何故なら…」 

相手は突き出した手に急速に魔力を込めながら里保へと告げる。 

「私はお前の…こ…のや…」


気付くと里保は自室のベッドの上で寝ていた。寝巻きは寝汗でじっとりと湿っている。 
その日を境に里保はしばしばその夢を見るようになった。 
いつも必ずやられてしまい、だが時々湧き出てくる魔力に高鳴りを覚えていた。 


夢を見ていていくつか気づいた点がある。 
その一つに強力な魔力の出現は怒りに、起因しているということ。 
まさに、アニメ通りなのは無視するとして現実ではどうなのか…。 


『はぁぁぁぁぁぁぁぁ!』 
凄まじい旋風が巻き起こる。 


(ブワッサァァァァ) 


部屋が……。 


となることはいくら里保といえども容易に想像できたので試そうかとも思ったが 
自室でやるわけにもいかない。 
さゆみの研究室を借りようかとも思ったが信じてもらえなかった手前頼みづらい。 
里保の苦悩と梅雨のジメジメは続く。


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次回予告 
たび重なる夢での戦いでついに里保は相手の正体に気付く。 

渾身の魔力をこめて放つ必殺技とは? 

そしてさゆみの語る『伝説の魔法使い』とは… 

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さて、夢で苦しむ里保に対して衣梨奈もまた困惑していた。 
何故か、コンロの火が付かない…。 

「えり…、壊したっちゃろか…。 
いかんいかん!道重さんが戻ってくる前になんとかせんとね。」 

衣梨奈はスッと目を閉じると魔力を集中させる。元のコンロのイメージは出来上がった。 
衣梨奈が指を振るうと魔法がかかり直るハズ……であった。 
なぜか衣梨奈の放った魔法はコンロに届く前に打ち消されてしまったのだった。 

「!?」 

なにが起きているのかは全く理解出来ない。 
ならばもう一度と魔法を放つと今度はバシュッと音を立て自分の魔法が戻ってきた。 


「なんとね?このコンロ…こんなこと今までなかったとね。」 
衣梨奈は困惑して今にも泣きたくなった。そこに、 

「ただいまー、生田ー。今日の、おやつで…ってあんた何やっての?」 

「み、道重さん!ゴメンナサイ! ……。
えり、コンロ壊しちゃったみたいなんです…」 

衣梨奈は帰宅したさゆみに対して開口一番に事実を告げ謝罪する。 
怒られるとばかり思っていたがさゆみは意外な反応を見せた。 

「壊れた?生田が?ムリムリ、さゆみだって本気出さないと壊せないものなのに。 
…あんた、なに作ろうとしたのよ?」 

「うーんと、今日バナナが安かったからバナナケーキでも…。」 

「あはははは。超ウケる」 

さゆみは衣梨奈の作ろうとしたものを聞くといきなり大声で笑い始めた。 
キョトンとする衣梨奈の前で笑い転げているさゆみ。 

その時 

『ちょっと、重ちゃん!笑い事やない、バナナなんて食べ物やないで!』 

妙に背筋が凍る迫力の声! 
声の主を探すとなんとコンロ…いやコンロの火がしゃべっている。 
まるでハ○ルだ! 

「だって、中澤さん。そんな姿でバナナなんて食べ物やないっていわれても」 

さゆみは人差し指の先で涙を拭いながらもコンロの火に話しかける。


「生田、この人はね、中澤さん。さゆみより年をとった人で~す。 
こんな年とってるけどさゆみに魔法のいろはを叩き込んでくれた偉大な魔法使いよ。」 


『重ちゃん』 
凄みのある声だ。 

散々笑っていたさゆみが突然ピシッと居住まいを正す。 

『ちょいちょい挟んでくる年齢の話はいらないでしょ? 
…ガミガミガミガミ…大体ね重ちゃんの魔力の… 
ガミガミ…ガミガミガミ…ガミガミ…』


さゆみと共に小1時間程説教を食らった衣梨奈は解放されるとフラフラしながら 

里保のとこ行ってきますと小さく呟きさゆみ邸を逃げるように飛び出たのであった。 

「ちょっと生田!逃げない…」 

『ちょっと重ちゃん、聞いてるの?』 

「はいっ!!」 

さゆみは内心長いなぁと思いながらも同時にこの光景を少し懐かしくも思っていた。 
お互いが本当に若い時に毎日のように繰り広げていた光景だ。 

自分のことをこの様に怒ってくれる存在はそもそもほとんど存在していない。 

(ありがとう、中澤さん…。でもながいよおぉぉぉぉぉ) 

さゆみの午後はこうして潰れていった。 

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最終更新:2014年07月13日 21:38