「鞘師さん、勝負しましょうよ!海の近くとかハル無敵っすから、今なら絶対負けませんよ!」
「お、いいね。やろうか」
「ていうか、お二人ともここ『道重さんスポット』ですからね。勝負とかできないですからね」
「いやここでもやろうと思えば勝負もできるよ。例えばこんな方法とかね」
会話に割り込んできたさゆみがパチンと指を鳴らすと、
等間隔の円状に配置されたいくつもの丸椅子が出現した。
「これは……椅子取りゲームですね!」
「椅子取りゲーム?」「やろうやろう!」「じゃみんなで勝負するっちゃん!」
その様子に気づいたみんなが集まって、
魔法楽団の老人が奏でる軽快な音楽に合わせて急遽椅子取りゲームが始まる。
ハルもなんとなく嫌な予感がしながら、流れに逆らうことができずその輪に加わったが、
今回も丸椅子の数と参加人数が同じであることに気づけなかったのは痛恨のミスだった。
結果もたらされるあまりに不条理すぎる光景。ハルは思わず叫んだ。
「なんなの嫌だもう! なんですかもう」
そこに響き渡る無情の声。
「敗者、工藤遥」
再びハルは泣いた。
(おしまい)