さぁて、今日のボクの獲物はどの娘かな?
ファルス、いや工藤遥が、不敵な笑みを浮かべて周囲を見渡す。
そして、遠巻きにその姿を見つめる少女たちの中から一人の生贄を選び出した。
リリー、いや鞘師里保は、自分に向けられた遥の視線に気づき、ハッとした表情で後ずさる。
不敵な笑みはそのままに、ゆっくりと里保に近づく遥。
「いや! 来ないで!!」
遥に背を向けて必死の形相で駆け出す里保。
その様子に慌てることもなく、遥はゆっくりとその後を追った。
「逃げたって無駄さ。キミの存在はボクの掌の上にあるのだから」
広い屋敷の中とはいえ所詮は室内、徐々に遥に追いこまれていく里保。
慌てて躓きかけた隙を突かれて、一気に壁際まで追い詰められた。
窮地に追い込まれながらも強気な視線で睨みつけてくる里保に、
遥は上から見下して楽しげに鼻で笑う。
そんな一瞬の隙を狙って里保が壁際をすり抜けようとした、その時。
ドンッ!!!!
右手を壁に叩きつける遥。そして、思わず動きを止めた里保にグッと顔を近づける。
「ねえ……。ドキドキしたぁ?」
ねっとりした口調で問いかけた遥が、さらに里保の目を覗きこむ。
そして訪れる永遠にも感じられるほどの静寂……。
「ハアアァァァ、ドキドキしたよぉ!!」
悲鳴に近い声を上げてその場にしゃがみ込んだのは、問いかけた当人の遥の方だった。
そして里保も、上気した顔で壁に身体を預けて身悶える。
「イヒヒヒヒ、どぅーもやすしさんも顔まっかっかだ~!!」
「でもやっぱりどぅーがやると様になるっちゃね」
「ホントかっこよすぎてシビれますわ」
「あたしもあんな風にどぅーに壁ドンされたいんだろうね」
2人の様子をニヤニヤしながら眺めていた一同が、ここぞとばかりに一斉に囃し立てた。
「みんなは一体なにやってるの?」
さゆみが呆れ顔で春菜に尋ねる。
「これは譜久村さん考案の『壁ドン鬼』という遊びなんです。
基本は普通の鬼ごっこなんですけど、鬼の間はドSなイケメン風に振舞わないといけなくて、
相手を捕まえる時には、壁ドンして、気障な決め台詞を投げかけて、
そしてそのままの態勢で5秒間制止する、という手続きが必要になるんです」
「ふーん、よくもまあ変な遊びを考えつくものなの。
でもそうなると次はりほりほがする壁ドンを見られるわけね。それはそれで楽しみなの」
そんなさゆみの足元には、当然のように遥に壁ドンされた里保の姿を
盗撮した写真が散らばっており、今回もシャッターチャンスを逃すまいと
さゆみは指のファインダーを、新たに鬼役となりみんなを追いかけ回す里保に向けたのだった。
(おしまい)