営業を終えた喫茶『リゾナント』の店内では、高橋愛、田中れいな、新垣里沙の3人がテレビを囲んでいた。今夜は、最近仲間に加わった、アイドルタレントでもある久住小春が、生放送の番組に登場するというのだ。
「今日は生やからね~!」「小春がテレビに出とるの見るのドキドキするっちゃ~!」
ワクワクしている様子の愛とれいなを見ながら、里沙は「その日はみんなで見てるよ!」と言われた時の、小春のなんとも言えない困ったような表情が気になっていた。
*** ***
それはお笑いタレントがパーソナリティを勤める、軽いノリのトーク番組だった。
無難に番組は進み、番組の目玉である、ゲストの友人が登場してゲストへの手紙を読む、というコーナーに差し掛かる。
「では、お友達の方、どうぞー!!」
そう言われて、小春は息を呑む。
…いままでは、こんな時、『念写』と『幻術』の力を駆使し、“理想のお友達”を登場させていた。しかし、『リゾナント』の仲間たちが見ているとわかっている今、それは『リゾナント』の皆をも欺く事になる…。
小春は『能力』を発動させる事が出来ず、ゲストの登場口をただ見据えていた。
「あれー?おかしいなー?ゲストの方―!?」
…その時…。
ギュンッ!!と登場口にまばゆい光が差し、二人の女の子が登場する。
「ぶーっ!!!」
『リゾナント』でテレビを見ていた里沙がカフェオレを盛大に吹き出す。
登場したのは、一瞬前まで里沙の横にいた愛と、たまたま愛の肩に手を触れていたれいなだった。
「あー良かった!!…でもお二人でしたっけ?…ま、いいか、お名前をどうぞ!!」
「え…?えー!?た、たかはひゃ…あいです」
「…やはりそこで噛むか…」
小春と里沙は、別な空間で同時に右手で顔を覆いつぶやいた。
「れいなもおるっちゃー!!サプライズゲストっちゃねー!!ガキさん見とー?」
「…おまえはもう少し驚け…」
小春と里沙は、別な空間でふたたび同時に右手で顔を覆いつぶやいた。
「…え、えー、じゃあさっそく『きらり』ちゃんへのお手紙を…」
「え!?…て、手紙!?…あひゃっ!?」
愛は慌てまくると、再びギュンッ!!と光になって消える。
「ぶーっ!!!」
『リゾナント』でテレビを見ていた里沙がふたたびカフェオレを盛大に吹き出す。
同時に、光と共に『リゾナント』に愛の姿が現れる。
「あああ愛ちゃん!!!ぜぜぜ全国区のテレビでアナタ!!!てててテレポートって!!!」
里沙が叫ぶ。
愛は気にとめる様子もなく、キッチンの奥へと走りこむ。
「ガキさ~ん!『あれ』先にあっちへ持ってくやよ~!」
その頃、番組ではれいながしゃべりまくっていた。
「いやー愛ちゃんはねー、喫茶『リゾナント』のマスターっちゃけどねー、昔は中国雑技団におったっちゃから、飛んだり消えたり、手品も得意っちゃよー!」
「そして『リゾナント』の看板娘がれいなっちゃ!!みんな来て見てねー!!」
そんなところへ、大きな箱を抱えた愛が、再び光と共に現れる。
『リゾナント』では、里沙がぐったりと椅子に沈み込んでいた。
「…もう…。こっちの身にもなってくれ…」
そして、愛が大きな箱のふたを開けると、それは『17才 誕生日おめでとう』と書かれた、大きなバースデーケーキだった。
「れいなと里沙ちゃんと、3人で作ったんやよー!!」
「おお!!これは素晴らしい!!そう、きらりちゃんは、今日が17才の誕生日なんですよねー!!」
やっとまともな展開になってきた、と司会の男が声を張り上げる。
「お手紙じゃないゲストというのは初めてでしたが、これも素敵な“お手紙”と言っていいんじゃないですか!?ねえ、きらりちゃん!!」
小春は涙を流していた。誕生日のサプライズ演出など、自分の『念写』と『幻術』で何回も繰り返していた。くだらない“お涙頂戴”の演出と馬鹿にしてもいた。
でも今…。顔を紅潮させ、キラキラと眼を輝かせた愛が見せてくれるケーキの文字が、涙でにじんでいた。
*** ***
本番終了後、愛とれいなは楽屋でしゅんとしていた。小春のマネージャーに怒られたのだった。
「今までのお友達はみんな立派な方だったのに、どうして今回は…」
ブツブツとマネージャーが文句を言いながら楽屋を出て行くと、愛が恐る恐る小春に声を掛ける。
「小春…。あーしらを、呼んでくれたんやろ?…あーしは、呼んでくれる人がいないと、知らない場所には“飛べ”ん…。…小春の…、強く呼ぶ声が聞こえたから、あーしは…」
「…そうですよ!!」
ずっと壁の方を見ていた小春が振り返ると、ニッコリと笑ってみせる。
「驚かそうと思って、急に呼んじゃいました!!…でも…、ありがとうございました!小春のほうがびっくりさせられちゃいました!!」
小春の眼には、まだ涙がにじんでいた。
「良かった―!うちらがぶち壊しにしたかと思って、心配したがし!」
「れいなも来たのが良かったっちゃね!愛ちゃん一人語りはヤバイっちゃからね!」
「そんなことはいいから!小春、さあ本番に行くやよ!」
「…本番…?本番はもう…?」
「パーティーの本番っちゃ!」
「他の皆もそろそろ集まっとる頃やよ!」
そして3人は『リゾナント』へと“飛んだ”。…大きなケーキの箱と共に。
…この時の小春の涙や、素の表情が視聴者の心を掴み、その後の人気爆発のきっかけとなり…、愛とれいながマネージャーから感謝される事になるのは、もう少し後の話となる…。
最終更新:2014年01月17日 18:09