◇◇
ずっと昔から、孤独の中で生きてきた。
今でも、孤独だと思っていた。
幼い自分を闇から救ってくれたのは、今では闇を統べる組織の総統。
信頼していたパートナーは、自分とは違う目標を胸に秘め、気付いた時に自分がこの手にかけた。
ずっと、ずっと。 一人ぼっちだった。
生き残る為に、戦ってきた。
闇も光も無い新世界を作る為に、今は戦っている。
なのに、なんでだろう。
この悲しみは。苦しみは。
胸を少しずつ、締め上げる。
ずっと、ずっと。 昔から、少しずつ、この胸の痛みが。
◆◆
「っガキさん!!…ガキさん…!!」
「…久し振りに、この力を使ったけど鈍ってはなかったみたいだね」
「……っこの…」
力、とは。それは、光。
「昔から、忌々しい力だった。唯一好きになれない能力が、光だったよ」
自身の手を見つめる後藤。
片や、苦しんでいる新垣の傍に寄り添っている高橋。
「光が、一番嫌いだ。どんなことをしても、さも自分が一番だというように存在を見せつけるからね…」
「…っなんでガキさんを傷付けたっ!!?」
「安倍さん、安倍さんってうざいから……おとなしくさせようとしたのに。
…それに、裏切り者なんかになっちのこと言われたくないし。かわいそうじゃん、なっちが」
「…っお前…!!」
震える怒りを胸に、高橋はただ新垣の身体を抱くことしかできなかった。
憎悪をその瞳に浮かべ、歯を食いしばる。
けれど、新垣が前に銃を撃たれ倒れたことを思い出し、自分の不甲斐無さにも憤る。
変わらない。昔と何も変わらない、この状況が。
彼女の、高橋の心を少しずつ闇に堕としていく。
守ると誓ったはずだった。
大切な人をもう傷付けないように、彼女とこの腰に今でも付けているお守りに。
けれど
「…そのまま死ぬしかないんだよ。新垣には何もできない、無能の裏切り者だからね」
言い返したい。けれど言葉が出ない。
なぜだろう、こんなにも憎いのに。彼女を侮辱するあいつに、言い返す言葉が出てこない。
「泣いているのか悲しんでいるのか。どんなに縋っても、このままだと新垣は衰弱して死ぬだけだ」
話し続ける後藤の言葉なんて聞こえない。
それよりも、それよりも、それよりも。
「……高橋、あと10秒だけあげるよ。10秒の内に立ったら、最後の決着をつけよう。もし、立たなかったら…」
弱々しい息を吐き出しながら、目の前で衰弱していく同期の姿が。
「…君を、この手で殺してあげる」
頬を伝う涙も、歪んでいく視界も、震える手も。
すべてが、自分の不甲斐無さによって引き起こされた物ならば。
どうすればいいのだろうか。
どうすれば彼女の傷は無くなるのだろう。
どうすれば彼女は元気になってくれるのだろう。
どうすれば彼女は、笑顔を向けてくれるのだろうか?
「……ねぇ…ガ、キさん…」
「10」
「…お、おきてよ…」
「9」
「こんなところで、寝てないで」
「8」
「…一緒に…帰ろうよ…」
「7」
「…みんな、がんばってるよ」
「6」
「帰って、…カフェモカ、作るからっ」
「5」
「楽しい話しながら…飲もうよ」
「4」
「…っれいなも、さゆも、えりも」
「3」
「小春も光井もジュンジュンリンリンも…!!」
「2」
「みんながんばってるんだから起きてよ!!」
「1」
「…あーしも…っ里沙ちゃん…」
「0……終わりだね、高橋」
「バイバイ。蒼き正義はもう、この世にはいらない」
ずっと傍にいてくれた彼女がいなくなるなら、私は。
自分の手を、彼女のまだ暖かい頬に触れさせて。
空間に響く銃声が聞こえた瞬間、私は目を閉じて、彼女の名前をもう一回だけ呟いた。
けれど、そこに響いた音は、銃声だけでなく、誰かの足音も。
「……っ新垣ぃ!!目を覚ませぇっ!!!」
銃口から立ち上る煙が、先ほど聞こえてきた銃声の原因だと気付いた。
その銃を握り締め、憎悪だけではない複雑な表情を浮かべて立っていたのは。
昔、後藤と親しかった、高橋と新垣の先輩でもあった、けれども闇に身を投じた、吉澤ひとみであった。
最終更新:2014年01月17日 18:31