(30)546 『光の抗争-6-』



        ◇◇


 ずっと昔から、孤独の中で生きてきた。
 今でも、孤独だと思っていた。

 幼い自分を闇から救ってくれたのは、今では闇を統べる組織の総統。
 信頼していたパートナーは、自分とは違う目標を胸に秘め、気付いた時に自分がこの手にかけた。

 ずっと、ずっと。 一人ぼっちだった。

 生き残る為に、戦ってきた。
 闇も光も無い新世界を作る為に、今は戦っている。

 なのに、なんでだろう。
 この悲しみは。苦しみは。
 胸を少しずつ、締め上げる。


 ずっと、ずっと。 昔から、少しずつ、この胸の痛みが。


        ◆◆


 「っガキさん!!…ガキさん…!!」
 「…久し振りに、この力を使ったけど鈍ってはなかったみたいだね」
 「……っこの…」


力、とは。それは、光。


 「昔から、忌々しい力だった。唯一好きになれない能力が、光だったよ」


自身の手を見つめる後藤。
片や、苦しんでいる新垣の傍に寄り添っている高橋。


 「光が、一番嫌いだ。どんなことをしても、さも自分が一番だというように存在を見せつけるからね…」
 「…っなんでガキさんを傷付けたっ!!?」
 「安倍さん、安倍さんってうざいから……おとなしくさせようとしたのに。
  …それに、裏切り者なんかになっちのこと言われたくないし。かわいそうじゃん、なっちが」
 「…っお前…!!」


震える怒りを胸に、高橋はただ新垣の身体を抱くことしかできなかった。



憎悪をその瞳に浮かべ、歯を食いしばる。
けれど、新垣が前に銃を撃たれ倒れたことを思い出し、自分の不甲斐無さにも憤る。

変わらない。昔と何も変わらない、この状況が。
彼女の、高橋の心を少しずつ闇に堕としていく。

守ると誓ったはずだった。
大切な人をもう傷付けないように、彼女とこの腰に今でも付けているお守りに。

けれど


 「…そのまま死ぬしかないんだよ。新垣には何もできない、無能の裏切り者だからね」


言い返したい。けれど言葉が出ない。
なぜだろう、こんなにも憎いのに。彼女を侮辱するあいつに、言い返す言葉が出てこない。


 「泣いているのか悲しんでいるのか。どんなに縋っても、このままだと新垣は衰弱して死ぬだけだ」



話し続ける後藤の言葉なんて聞こえない。
それよりも、それよりも、それよりも。


 「……高橋、あと10秒だけあげるよ。10秒の内に立ったら、最後の決着をつけよう。もし、立たなかったら…」


弱々しい息を吐き出しながら、目の前で衰弱していく同期の姿が。


 「…君を、この手で殺してあげる」


頬を伝う涙も、歪んでいく視界も、震える手も。
すべてが、自分の不甲斐無さによって引き起こされた物ならば。

どうすればいいのだろうか。
どうすれば彼女の傷は無くなるのだろう。
どうすれば彼女は元気になってくれるのだろう。

どうすれば彼女は、笑顔を向けてくれるのだろうか?


 「……ねぇ…ガ、キさん…」

 「10」

 「…お、おきてよ…」

 「9」

 「こんなところで、寝てないで」

 「8」

 「…一緒に…帰ろうよ…」

 「7」

 「…みんな、がんばってるよ」

 「6」

 「帰って、…カフェモカ、作るからっ」

 「5」

 「楽しい話しながら…飲もうよ」

 「4」

 「…っれいなも、さゆも、えりも」

 「3」

 「小春も光井もジュンジュンリンリンも…!!」

 「2」

 「みんながんばってるんだから起きてよ!!」

 「1」

 「…あーしも…っ里沙ちゃん…」

 「0……終わりだね、高橋」


 「バイバイ。蒼き正義はもう、この世にはいらない」



ずっと傍にいてくれた彼女がいなくなるなら、私は。
自分の手を、彼女のまだ暖かい頬に触れさせて。
空間に響く銃声が聞こえた瞬間、私は目を閉じて、彼女の名前をもう一回だけ呟いた。


けれど、そこに響いた音は、銃声だけでなく、誰かの足音も。



 「……っ新垣ぃ!!目を覚ませぇっ!!!」


銃口から立ち上る煙が、先ほど聞こえてきた銃声の原因だと気付いた。
その銃を握り締め、憎悪だけではない複雑な表情を浮かべて立っていたのは。

昔、後藤と親しかった、高橋と新垣の先輩でもあった、けれども闇に身を投じた、吉澤ひとみであった。



最終更新:2014年01月17日 18:31