(33)246 『命の森』



しのつくような雨が降っていた。

ロスアンゼルスの市街地から遠く離れた深い森の近く、草の深い草原で、リゾナンターのリーダー、高橋愛は、雨に打たれながら空を見上げていた。
他のメンバーたちも、ある者は同じように空を見上げ、ある者は力なく草原に座り込んでいる。

市街が、遠く霧に煙るように見えている。かつての高層ビル街は既に崩壊し、鋸の歯のようなシルエットを浮かびあがらせていた。

『組織』と『超大国』の戦いは思わぬ方向へ進んだ。『組織』によって操られていたはずの『某独裁国家』の元首が、突然『超大国』へ核攻撃を仕掛けたのだ。

『組織』による“脅迫”によって操られていた元首は、実は死病に侵されていた。それを知った時、それまでは“命惜しさ”から『組織』に従っていた『彼』のなかで、何かが壊れた。
「どうせ死ぬんだ、道連れは多いほうが良い…。死ぬ前に、『超大国』のやつらにも、『組織』のやつらにも、眼に物見せてやる…!!」

『超大国』の主要都市を、核を抱えた大陸間弾道弾が襲った。軍、そしてリゾナンター、そして『組織』までもが阻止を試みたが、全てを阻止することはできなかった。


今、ロスアンゼルスは核ミサイルにより完全に崩壊し、放射能の雨が周囲に降り注いでいた。
暗い森に雨が降り続く。いつもならば「恵みの雨」とでも言えよう。しかしそれは文字通り「死の雨」だった。

森にはいつも、どれ程の“命の息吹”が…、“命の音”があふれていたのだろうか…?
命の無い森には、何の“音”も無かった。ただ、草を打つ雨の音だけが響いていた。

放射能をたっぷりと含んだ雨が、森を、リゾナンターたちを打つ。
細胞にまで食い込んだ放射能を除去する術は無い。リゾナンターたちにも、?死”が間近に迫ってきていた。
その後には、森の木々もまたゆっくりとした“死”を迎えるのだろう…。そして、完全なる“死の沈黙”がこの地を支配する…。

「…みんな、行くよ…!!」
突然、愛の言葉が沈黙を破る。

「あたしたちには、まだ為すべき事があるはず…!! …それが何かは、まだわからないけれど… 行きましょう、市街へ!!」

メンバーたちが顔を上げ、立ち上がる。
「…ハイ!!」
誰からとも無く、声が上がる。
愛がうなづく。

リゾナンターたちの眼には、新たな強い光が宿っていた。



最終更新:2014年01月18日 10:30