(25)055 タイトルなし(「Take off is now!」リゾナント作)



「え゛ぇ゛っ?ガキさんが?」

少々間の抜けた驚きの声を上げる愛。
今日は久し振りに二人それぞれの時間を過ごそうと、喫茶リゾナントを昼のみの営業にし、2時半頃には既にCLOSEDのプレートが掛けられていた
こんな風の強い日は家に居るに限るやよ、と愛は宝塚のDVDを片っ端から見まくり
ちょうどマラソンが終わってみんな帰りよる頃やから上りの電車は空いとう、とれいなは都心へショッピング

しかし案の定強風の煽りを受けて、電車の遅れに巻き込まれる。ようやく目的の街に着き地下街を歩いていると

「ガキさん!?」

乗り換えの人の波の中に里沙がいたのだという。思わず後を追ったが、そのまま別の路線の改札へ入って行ってしまったそうだ

「人違いやないの?」
「絶対ガキさんやったっちゃん、よく着よる服やったし間違いなかと」
「でも、○○線ってガキさん家ともお店とも全然違う方向やよ」
「そこやけん、別に買い物するような所もないし…」
「そういやガキさん、最近リゾナントに来るのが少ないがし」

―――もしかして…―――


翌日、リゾナントに来た里沙にれいながそれとなく聞いてみる。愛が聞いてしまうと、とてもじゃないがそれとなくではなくなってしまうので。

「ガキさん、明日も来れると?」
「あーゴメン、明日は用事あるんだー。でも珍しいね、田中っちがそんな事聞くなんて。何かするの?」
「いや、なんとなくよ、なんとなく」
「ふぅ~ん」

その翌日のリゾナントもまた、昼のみの営業。

「愛ちゃん、なんかその格好怪しくないと?」
「何言っとんの、ガキさんにあーしやってわからんようにするにはこんぐらいせんと」

玄関から出てきた二人は、お互いの持つ服を交換して着ていた。
シックにまとめたれいなに対し、原色バリバリでしかもマスクとサングラスを装着している愛は、明らかに目立つ上にどう見ても変だ。
それで「こういう服で街を歩いてみたかったんよ、アッヒャー」とウキウキしているのを見ると、れいなにはこれ以上何か言う気にはなれなかった

二人は先日れいなが里沙を見た、地下街の乗り換え口に到着していた

「この前見たのって何時頃や?」
「あん時は電車が遅れとったけん、もう少し後やと思うけど…」
「あっ、おった!」
「シーッ!」

大声を出した愛を慌てて物陰に押し込むれいな。しかし、愛が指差す先を見るとそこには、今まさに里沙が改札へ入っていくところだった
二人は里沙を追い、乗った電車を確認すると離れた扉から二人も乗り込む
そして何駅目かで里沙が降りたのを見た二人も続いて降りる。そこは、高級住宅街で知られる地域だった


里沙はある家の前で立ち止まる。二人は停まっていた車の陰に隠れながら様子を窺う

ピンポーン
(はーい、どなた?)
「こんにちは~、里沙です」
(あらいらっしゃい、どうぞ~)

門を開けて家の中に入ってゆく里沙。

「女の人の声…って事は、もう相手の家族も公認の仲…!それやのに…あーし達には!」
「あ、愛ちゃん!落ち着くと!落ち着くっちゃよ!」

今にも走り出していきそうな愛をなだめるれいな。

数分後――

(れいな、もう少し上げて!全然見えん!)
(これ以上は無理っちゃよ、それにれなのが小さいのになんで愛ちゃんが上と?)
(うるさいがし!早よう!ほら!)
(あっ!ちょっ!愛ちゃん!)

「ああぁ~っ!!」

大きな声と音に気付いた里沙が門を開けると、そこには愛とれいなが横たわっていた

「なぁ~にやってんの、二人とも?」
「あっ、ぐ、偶然っちゃね、ガキさん…」
「偶然な訳ないでしょ~がぁ!」
「ほやっ!ガキさんッ!素直に白状するやよ!」
「はあ?」


先週の事、ダークネスの襲撃に巻き込まれていた女性を里沙が助け出して、それ以来親密な関係なのだという。
里沙の事を「妹に雰囲気がよく似ている」と、側にいて可愛がっていたいらしい。
だがその妹はというと、数年前に亡くなってしまい、今はこの家に女性1人で住んでいるという。
そして女性も自身に重い病を患っており、近日のうちに母親が住むアメリカに渡って手術を受けるのだという。

「ほやったんかぁ~」
「ね?彼氏が出来て隠れてデートしてるとか、んなわけないでしょーがぁ~」
「いやぁ、あーしも決め付けてたわけじゃなかったんやけど」
「はあ?最初に彼氏や言い出したのは愛ちゃんやっちゃろ?」

三人があーだこーだ言い合う様子を、女性は笑顔で見ていた

「みんな仲が良さそうで良いわね。里沙ちゃんもだけど、愛ちゃんもれいなちゃんも、こうしていると妹がいっぱいいるみたい。今日はたくさん妹が出来て嬉しいわ、来てくれてありがとう」

また来ます、と言って三人は女性の家を後にした


「…愛ちゃん、何か気付いてたんでしょ?」
「わかっとった?」
「えっ、なん?なん?」
「あん人の妹さん、病気で亡くなったて言っとったけど、それは嘘や」
「嘘?」
「妹さんは、ある日突然失踪して、何日か後に意識不明の状態で見つかった。入院しても意識が戻らないまま衰弱して息を引き取った…」
「そんなんじゃ、本当の事は話したくないっちゃろね…」
「それだけやない…。何であーしらの事を妹に雰囲気が似とるって言ったと思う?」
「えっ、それってまさか…」
「妹さんは能力者やった。あーしらみたいに大きな力じゃなかったけど。それにあの人も自分で気付いてないくらい弱いものだけど、やっぱり能力者なんや。」
「やっぱりそうなんだ…」
「あーしらが“共鳴”って言ってるのを、あの人は“雰囲気が似てる”ぐらいにしか捉えられんけど…」
「そしたら、妹さんの失踪って…!」
「ダークネスの仕業やよ。ここからは推測の域を出んけど、妹さんはダークネスに捕まって能力を強くする実験にかけられた。ほやけど実験は失敗、意識不明になった妹さんはゴミのように捨てられた…」
「そんな…」
「やけど、あの人の妹さんの失踪に関する記憶からダークネスの気配を感じるのは確かや。それに…」
「それに?」
「あの人自身にもダークネスの手が及ぶかもしれん。アメリカに行くまでの間に、何か仕掛けてくるはずや」
「私たちが守ってあげないと!」
「れな達のお姉ちゃんをお守りするっちゃ!」


数週間後、女性がアメリカへと発つ日。三人は女性の家を訪れていた

「荷物これだけでいいんですか?」
「うん、あまり大きくて重いものは持てないからね。向こうに着くまで必要な物以外は全部送ってあるの」
「途中までですけど私達が送ってあげますよ」
「あっ、タクシー来たっちゃ!」

手を挙げたれいなの横にピタリと停まるタクシー。

ゾクッ
―――この気配は…?―――

後部座席の扉が開き、乗り込む一同。

「○○駅までお願いします」
「かしこまりました。」

聞き覚えのある声に、一斉に運転手をみる3人。ドアが閉まり走り出したタクシーの中、帽子を取った運転手が後ろを振り向く


「皆さん、お久しぶり。あっ、こちらの方ははじめましてでしたね」
「マルシェ…!」

その瞬間、座席から特殊なベルトが飛び出し、4人は座席に固定された

「なんこれ!?動けん!」
「あーしらをどうする気や!?お姉さんは無関係や!放せって!」
「そうもいきませんよ。むしろ私の今日の目的はあなたなんです。皆さんは立会人に過ぎません」

状況が掴めず、訳のわからない展開にただ怯える事しか出来ない女性。マルシェは更に続ける

「組織の過去データを調べていたら興味深いものがありましてね、あなたの妹さんなの。
でも実験中に意識下に侵入される事を拒んだしせいで実験は失敗、廃人同然になっちゃった」

やめて

「その後結局死んじゃったみたいだけど。でもこのまま消えてしまうには惜しい力だわ。
それであなたからデータを採取しようと思ってね、そちらのお三人さんはお気づきかと思いますけど、あなたがた姉妹は普通の人と違う力を持っています。その力の使いようでは、世界を思いのままにする事も可能よ」

もうやめて

「あなたは病気の手術の為にアメリカに行こうとしてるけど、あなたの病気は日本でも治す事は出来るはずよ。
だけどわざわざアメリカに行くなんて、このまま日本にいたら待ち受けているしがらみやトラウマから逃げる為なんでしょう?」

「やめれってぇー!!!」

声を荒げる愛

「しがらみもトラウマも、みんなお前らのせいやろがぁ!!」


「あらら、そこまで熱くなれるなんて、共鳴の為せるものなのかしら。今の私にはわからないわね…」

ピー ピー ピー

「はいこちらマルシェ。あらミティ、どうしました?そちらは順調?…は?何勝手な事言ってるんですか?
一人でそんな事を、上層部がどうするか分かって…。えっ?お前の気まぐれには付き合えない?ちょっと、気まぐれはどっち…」

ブツッ ツー ツー ツー

「…私、急用が出来ました。皆さん、今日は運が良かったですわね。それでは、ごきげんよ~う」

往年のドタバタアニメよろしく、運転席から座席ごと空へ飛び出すマルシェ
自動運転のまま、身動きの取れない一同を乗せて走り続けるタクシー。怒りの向け所を失い、モヤモヤしていた3人もハッと我に返る


「ちょっ、これどうにかしないとぉー!」
「でもこれ全然取れん!」
「それより車止めんと!」

その瞬間、後部座席にいた愛が運転席へと一瞬にして移動する。足元のペダルを思いっ切り踏み込む愛。加速を増す車…

「ちょっとぉー!愛ちゃんそれアクセルだからぁ!」
「ほやって、あーし免許持っとらんもん!」
「は!?それやのにリゾナンカー運転してたと!?」
「あれはゴーカートやからやよ…って、何を言わすんやぁー!」
「いーいからぁ~!早く別のやつ踏んでぇ~!!」

歯の浮くような急ブレーキ音をさせて、ようやく停車したタクシー。一人一人のベルトを切断して解放する愛。
里沙とれいなはすぐに降車して伸びをしたりするが、女性は座ったままだ


「ガキさん…」
「うん、分かってる」

女性の精神へと飛び込む里沙。

今日の出来事は悪い夢、全て忘れて
女として夢を抱いて
一人のあなたはもう素敵に輝いてる
羽があるのに使わないのは悲しいもんね
何も怖くは無いわ、自由よ
逃げなんかじゃない、新しい自分になる為の旅立ち

俯いていた女性が顔を上げる

「…私、一体…?」
「大丈夫ですか?運転手さん、救急車で運ばれちゃったよ」
「二日酔いでお客を乗せるなんて、ありえんと」
「別のタクシー拾って行くがし」

 * * * * * * * * * *

成田空港行き特急を見送る3人。赤いテールライトが地下ホームから遠ざかって行く。

―――過去は過去、現在は現在
もううんざり、許さない―――


久しぶりの快晴の空の下、春風が吹き込む病室の窓枠に腕を掛ける少女

「あ、飛行機雲」

ベッドに腰掛けたもう一人の少女も

「あ、飛行機雲」
「もう、さゆみが先に見つけたの!」
「ウヘヘヘ。あ~あ、絵里も早く飛行機みたいに駆け回りたいなぁ~


最終更新:2014年01月17日 14:09