(33)814 (俺シリーズ11)



『G』が『SA』を一夜にして壊滅させた事により、闇の世界は再びダークネスの天下となった。
その後も『Z』『DRM』『F5』等のダークネスに敵対する組織が数多く結成されたが悉く『G』の活躍によって跡形もなく消滅したという。
更に当初懸念されていた『G』の“暴走”も少なく、ダークネス自体に害を及ぼす問題行動は殆ど起こさなかったらしい。
その背景には『G』についていた『教育係』の指導も大きかったという。

敵を殺す為だけにこの世に生を受けた『G』であったが、その『教育係』であった女にだけは心を開き、人間らしい一面を覗かせていたと聞く。
壊滅寸前だった組織を再び闇の世界の頂点に導いた原動力となった『G』。
まさに彼女はダークネスの『救世主』であり我が軍最強の戦士と呼んでも過言ではない。
その『G』が現在、リゾナンターの捕獲に出動したという。
つまりリゾナンターはもう我がダークネスの手中にあるも同然だ。
「『G』が出たんじゃオイラの出る幕はなさそうだね。ちぇ折角手柄を立ててオリメンに昇格できると思ってたのにさ。」

チビが口を尖らせてぼやいている。お前じゃ彼奴等に勝てないっつうの。
「でも一つ疑問があるわマルシェ。『G』の出撃が決まっていたのなら今日私達は何の為に集まったの?会議の意味ないじゃない。」
『聖母』から当然の疑問をぶつけられた白衣の女は突然照れた様な仕種を見せこう答えた。
「正直に白状しますと久しぶりに皆さんとお会いしたかったので、リゾナンターを口実にこの場を設けさせて頂きました。御陰様で有意義な時間を過ごさせて頂き感謝しています。そうだ、もし宜しかったらこの後カラオケにでも行きません?」


「ふざけるな!馬鹿馬鹿しい、もう二度とお前の口車には乗らないからな。」
イケメン女を皮きりに次々と席を立つ幹部達。皆が怒るのも無理はない。
この場の全員が白衣の女の我が儘に、只振り回されただけだったのだから。
開いた口が塞がらないとはこの事だが、まあいい。俺の場合、白衣の女への怒りよりも、この場から解放される喜びの方が勝っているからだ。
だが、一人だけ一向に席を立とうとしない女がいた。
「圭織どうしたの?帰らないの?」
『天使』が声を掛けても、全く動こうとしないインチキ女。顔面蒼白で、小刻みに震えている。

「どうされました飯田さん?どこか御加減でも?」
そのおっとりとした声を聞いた途端、インチキ女は立ち上がり鬼気迫る表情で白衣の女に迫る。
「貴方、何考えてるの?よりによって『G』をリゾナンターと接触させるなんて…。今すぐ撤退させなさい!」
突然声を荒げるインチキ女に戸惑う一同。
「キャハハ、心配いらないよカオリ。『G』が彼奴等に負ける訳ないじゃん。」
「アンタは黙ってて!リゾナンターに近づく事自体が災いを招くのが分からないの!?」

インチキ女が明らかに激昂している。こんなに大きな声が出せるんだと密かに感心しつつまた一悶着あるのかと思うと胃がキリキリしてきた…。
「落ち着きなさい圭織。リゾナンター捕獲はボスの命令よ。私達はそれに従う以外ないわ。」
聖母の言葉に少し落ち着きを取り戻すインチキ女。
そう言えば先程、白衣の女がボスの命令書を読み上げた時もインチキ女は着席したままであった。
リゾナンターを是が非でも手に入れたい白衣の女の行動は、インチキ女からすれば余程の愚行に思えるのであろう。


「心配ご無用ですよ飯田さん。それに『G』の事です。もう既に今頃リゾナンターを手土産に帰還し始めていると思いますよ。」
にこやかに話しかける白衣の女を睨み付けるインチキ女。その時…。
「失礼致します。皆様にご報告があります。」
突然、会議室の扉の向こう側から発せられた男の声。
それは、俺が聞き馴染みのあるあの声…。
「噂をすれば何とやら。どうやら吉報が届いたようですよ。お入りなさい。」
白衣の女に呼び掛けられると、声の主は扉を開ける事なく自身の能力である“瞬間移動”を使って俺達の前にその姿を見せた。

そう、俺が最もこの世で会いたくない嫌な男、あの“髭面の男”だ。
「ではMr.T、結果報告を。」
…何?Mr.Tだと…?此奴、コードネームまで持っていたのか…。
ダークネスでは俺達のような下っ端構成員には名前すら与えられないのだが、ある一定の階級の人間には組織からコードネームが与えられている。
畜生、俺の前ではヒラの構成員を装っていた癖に。やはりこの男、想像以上に曲者だ。
「では報告致します。『救世主・G』様、総帥の御命令によりリゾナンターの捕獲に出動されましたが監視員からの連絡によりますと、どうやら失敗に終わった模様です。」


!!!!!!!!
髭面の男の思いもよらぬ衝撃的なその報告に、幹部一同騒然となる。
「Mr.T、それは確かな情報なんでしょうね?」
「はい。何度も確認しましたが間違い御座いません。私も大変驚いております。」
「……………。」
冷静沈着な聖母ですら、動揺を隠せずにいる…。無理もない。
俺に至ってはあまりの衝撃に腰を抜かして立てない程だ…。
『R』や『A』が敗れた時も驚いたが、今回の『G』の敗北はその比ではない…。
「…それで『G』はどうなったの?リゾナンターに…殺された…の…?』

「否、左腕を無くされたようですが、御存命です。ですが、何処かに飛び立たれたまま、組織には未だに帰還なされず現在行方を捜索中です。」
取りあえず『G』が無事だと分かり、ほっと胸を撫で下ろす『天使』…。
それにしても、此まで数多くの強大な組織を容易く壊滅させてきた『G』を追い払うとは、リゾナンターは化け物揃いか…。
「キャハハハ、やったね!あの『G』でも手に負えなかったリゾナンターを捕獲できたら今度こそオイラのオリメン昇格間違いなし!!」
「言っておくけど早い者勝ちだからなやぐっつぁん。獲物は先に私が貰うぜ。」

『G』の安否を気遣う『天使』とは対照的に、相変わらずこの二人は血気盛んなようだ。
その一方で冷たい視線を交わし合う二人の女。
「…これでもまだリゾナンターに関わるつもり?」
「勿論、ボスの命令は絶対です。御承知でしょうがボスの意に従わぬ者は、例え飯田さんでも処分は免れませんのでそのおつもりで。」
「勝手にするがいいわ、もう貴方達の様な低レベルの人間には付き合いきれないから!」
白衣の女を突き刺すような視線で見下ろしながら語気を強めて言い放つと、インチキ女は会議室を後にした。
これから先、一体どうなるのか…。
不穏な空気を残したまま、俺の果てしなく長い1日は漸く幕を閉じた。



最終更新:2014年01月18日 11:37