(34)192 『茜空の下で唸る獣と人間』



  赤い太陽を背に 浮き上がる大きな影

  その影から 得体の知れない咆哮が響き渡る


  低く 唸るような 恐ろしい声で――――



        ◇◆


茜空の下、私は一人で家へと帰っている途中だった。
…先ほどの強襲が無ければ、もうすでに家へ着いている頃のはずだけれども。

 「…早く帰る。シャワーあびたい」

喫茶リゾナントからの帰り道で、思わぬ強襲に遭ってしまい戦う羽目になった。
一人で簡単に倒すことはできたが、すぐにでも家へ帰ったほうが良いと思い帰路を急いでいる。

身体が汗でベトついていた。
微かに残る血の臭いが、風に吹かれて全て飛んでしまえば良いのにと思う。


もうすぐで夜になるこの時間帯は、危険な間だと強く注意されていた。
真夜中よりも敵の数は少ないが、一人で相手をするには面倒な数が来るから。
多くの闇が、私たちを捕えて殺しに来るから。

 「真っ赤ダ…」

ふと、進めていた足を止めた。

見上げた先は、茜色した空。
身体に迸る血のように、斬られて流す血のように。
真っ赤な色をして、先ほどの光景が思い出された。



        **


どこか、哀愁を漂わせるこの季節。
胸が締め付けられて、心が切なくなるような少しの時間。

私は獣になり、闇を斬り裂き、噛み砕いた――――

頭を横に振り、先ほどの戦いはすでに終わったことだと納得させ、止めていた足を再び動かした。
そして茜空を背に、遠くまで伸びる黒い影には目もくれず、自分の家へと足を進めた。

歩いている途中、人間に成りすます私の影が、声を荒げる獣のような形をしている気がした――――――



最終更新:2014年01月18日 11:42