(34)336 『Have a good day!6~リアル・スマイル~』



――――PM 13:41 ファイティングステージ


集合時間に遅れてきた三人をたっぷり注意してから昼食をとったら、もうだいぶ時間が過ぎていた。
移動時間と待ち時間短縮のために、お昼はわざわざピザにしたっていうのに。
あーあ、キャラクターがお出迎えしてくれるようなレストランに行きたかったなあ。
予約と予算の関係で、元々無理だったけどさー。

この無念さは、エイリアンでも倒して晴らそう。
そう思って、私はみんなをファイティングステージへ連れてきた。

このエリアは、屋内のゲームアトラクションが中心になっている。
そのほとんどがシューティングゲームみたいな個人得点を競うアトラクションだ。
激し過ぎずゆる過ぎずで、食後に遊ぶにはちょうどいいだろう。
私も午前中いろいろ振り回されて、ちょっと疲れてるところだし。

・・・それにしても、なんでさゆみんは、あんなにはしゃいでたんだろう。
遊園地に着いたばかりの時はそれほどでもなかった気がするんだけど。



「じゃあさ、勝負しよ、さゆみとれいなで。このゲームで勝ったほうが貧乳キャラね」
「よぉし乗った!・・・って、ちょ、待って!今、“勝ったほう”って言ったと!?ねえ!!」

「リンリン、ひまだかラ私とぶっちゃけトークし・・・・・・ん。やッパ、リンリンは
 めんどくさいからヤメた」
「エー!なんデですかー!ワタシめんどくさくないヨー!」

着いた途端に各自好きなところに散っちゃって、みんな居場所が少しずつ離れてしまった。
なのに、仲間たちの声がはっきり聞こえる。

にぎやかな動作音や演出音に負けてないってことは、声が大きいんだろうなぁ。
これ以上周りの人に迷惑かけませんように。

「ん?」

なんか視線が気になって横を見ると、愛ちゃんと目が合った。

「へへっ」
「・・・なによ愛ちゃん。人の顔見て笑うとか、失礼なんじゃないの?」

目が合うなり変な顔をして笑う愛ちゃん。
その顔は、私をからかっているようにも、何かに喜んでいるようにも見えた。

「だって、笑ってたから」
「え?」
「ガキさんが、ちゃんと笑えてたから」

それが嬉しくて、と、愛ちゃんはまた照れくさそうに微笑む。


不意打ちだった。

自分でも気づかなかったことを、まさか愛ちゃんに指摘されるとは。
普段はすっごくボケボケしてるくせに、こういう場面だけはしっかり見てるんだから。
まったく。かなわないなぁ、この人には。

「・・・笑うつもりじゃ、なかったんだけどね」

―――きっと、愛ちゃんが目撃した私の笑みは

「そっかぁ。よかった!」
「よかった?何が?」

特に面白いことがあったのでもなく。
演技やかけひきをしているのでもなく。

「だって、なんも意識せずに出た笑顔なんでしょ?それって本物じゃん」

ただみんなのことを考えてただけで出た、無意識の笑み。
自己嫌悪や疎外感なんて入る余地のないそれは、
本当の意味でみんなの仲間になれたからこそできること。


―――本物の、笑顔。



「愛ちゃん」
「んー?」
「あのさ、あ」
「それってやっぱ絵里のおかげですよねっ!」
「はい?」

愛ちゃんに向き合ったところで、突然割り込んでくる能天気な声。
まあ、いわゆる亀井絵里なわけですけど。

「カメ、なんであんたが出てくんの」
「やだなあガキさん、絵里はいつだってミステリアスガールなんですよ?」
「それ、答えになってないから」

話に入ってくるのは構わない。
だけど物事にはタイミングってもんがあるでしょーが。
だいたい、おかげってなんだ、おかげって。

「ガキさんがね、絵里にお礼を言いたいんじゃないかなと思ったんですよ」
「はい?」
「だって、ガキさんがガキさんとして笑えるようになったのは絵里のおかげじゃないですか。
 ちょーキャワワ~な“絵里ちゃんスマイル”に癒されちゃったんでしょ?」

・・・・・・絶句。
頼むからカメ、どうやったらそんなに自意識過剰になれるのか教えてくれ。



確かに、お礼を言いたい気持ちにはなったけど。
愛ちゃんに対してだけじゃなく、みんなに対してそう思ったんだけど。
そりゃ、カメののーてんきさに救われたことだってないわけじゃないけど。
けど!
それを本人に直接言うのはムリ!だって絶対調子のるから!

「素直になろーぜ、ガキさん」
「もう充分なってるから!ていうか、さっきからなんなの、そのテンション!」
「アヒャヒャヒャ!観念しろやぁ、ガキぃ」
「なんや楽しそうですね。愛佳たちもまぜてくださいよ~」
「なになに~?なんか面白いことでもありましたぁ~?」
「やめて絵里!今日ガキさんをいじめるのはさゆみの仕事なの!さゆみのいじめる分も残しておいて!」
「さゆっ!れいなはまだ決着ついたとは思うとらんけんね!第二ラウンドやるっちゃ!」
「新垣さぁん、この遊園地、クレープあるて後ろの人言ってタ。バナナクレープもありマスか?」
「新垣サン、この遊園地、海賊いるって後ろの人言ってマシた!麦わら帽子の船長にも会えますカ!?」

結局またいつものペース。
さっきまでのシリアスな気分はどこへやら。
こんな風に振り回されてばっかじゃ、感傷に浸る暇もありゃしない。



だから、私は笑顔でいられる。
泣いている時間も悩んでる時間も、この子たちが全部吹き飛ばしてくれるから。

今日言えなかった気持ちは、いつか必ず伝えよう。
みんなに“ちゃんと”笑顔をそえて。
もちろんその時は、照れてごまかすことのないように。


―――ありがとう、みんな。



最終更新:2014年01月18日 11:46