(35)083 『暁の空に孤影の姿』



  孤独に生きる少女は 声を聞いた

  それはか細く 静かに 遠くの方で


  まるで 昔の自分のように 悲しみを湛えて



        ◇◆



朝早い4時頃に起き、支度を手早く整える。
自主練習として走り込みをする為に、まだ少しだけ覚めない頭の為に冷たい水をコップ一杯にして一気に飲む。
一瞬で覚醒する頭に目が覚め、私は同居人の彼女を起こさないように、静かに一階へと降りた。
そして、扉の取っ手に手をかけ、ゆっくりと扉を開けて外へと出た。

 「…はぁー…さすがに朝は冷えるっちゃねー…」

肌寒い季節になり、朝早く起きた時は少し寒く感じる。
当然外に出れば室内よりも冷たい空気が刺してくるようで、それでもめげずに深呼吸をした。
そしてその場で軽く体操をして、私は走り始めた。



        **


トレーニングコースを半分ぐらい過ぎた頃、私は川沿いの土手を走っていた。
朝日が差し込もうとしている川は、段々と波で揺れてキラキラと反射し始める。
しかし、まだ完全には朝日は出ておらず、空も含めて周辺はまだ青白い。

途中、速度を緩めて私は歩き始めた。
いつものように早足で歩きながら、ゴール地点である店を目指す。

 「…っん?」

歩き始めて数分経った頃、頭をかすめたのは声とも言えぬようなか細い声。
何を言っているのかも分からず、ぼそっと一瞬だけ頭の中に飛んできたその声に、私は思わず足を止めた。
しかし、その後周囲を見渡しても何かあるわけでもなく、私は何だったのかと少し考え始める。

 「…分からん」

確かに、先ほど何か聴こえた気がした。
けれども、その声がどこから聴こえてきたのか、居所は掴めることもなく、疑問点は宙に浮かんだままだった。



        **


何故か気になった。
しかし、何も手がかりなど声以外にあるはずなく、私は諦めて先ほどのことを頭から振り切るように走り始めた。

息が白く、定期的に吐きだされる。
前だけを見つめて、徐々に明るくなっていく空を横目に、私はただ黙々と走った。


悲しみを感じた声を振り払い、白い息を吐き続けて私は店を目指して走った――――――



最終更新:2014年01月18日 11:48