(あなたは秋から冬に季節が移っていくのを何を見て感じますか?)
(絵里なら窓から見える景色かな?一日一日経つごとに病室から見える木々の葉っぱが色づいていくから)
亀井は暫くの間ずっと入院している病室から外の景色を眺めていた。
病院生活も今日で1週間にもなる。体調は悪くはないが、けっして万全というわけではなかった。
いつもならお見舞いに来てくれるメンバーも忙しいらしく、この1週間だれも来てくれなかった。
それでも昨日メールが来て、ようやく道重が来てくれる。
「サユ、早く来ないかなぁ。こんなにいい天気なのにじっと病院にいないといけないなんて暇だよう。暇すぎて絵里、泣いちゃうかもぅ」
ガラガラッ
「でもそういって泣かないんでしょ。どっちかというと寝ちゃうんだよね。」
道重が笑顔で病室に入ってきた。
「んもー遅いよぅ」
「エヘヘ、ごめんね。はい、これ。駅前のケーキ屋さんのなんだよ」
そう言って、道重は後ろに隠していたケーキを絵里に差し出した。
「え?この前絵里が食べたいと言っていたあのお店?」
「絵里が食べたいって言ってたの思い出したの。一緒に食べよ」
「フフフ、ありがと。サユ」
気づけばご機嫌斜めだったのもスグに元通り。乙女心と秋の空となんとやら
亀井がケーキを食べていると、道重がカバンからDSを取りだした。
「ね~絵里。絵里もDS持ってるよね?」「ほへ?」
ショートケーキの苺を食べようとしていた亀井は不意に話しかけられて間抜けな返事をしてしまった。
「持ってるよ。どうしたの、サユ?」
「実はね。さゆみね、新しいゲーム買ったの。ジャン!」
道重はゲーム機の画面を見せた。そこには道重そっくりのキャラクターが映っていた。
「エリ、このゲーム知ってる?『トモダチコレクション』っていうんだよ」
「知ってるよ~Mii作って友達との生活を見て楽しむんだよね~うわ~サユそっくりだ」
「でしょでしょ。さゆみそっくりでしょ~自信作なんだよ!」
「大好物が『すき焼き』なのもそっくり~毎日食べてるもんね~」
「も~う、そこまで大好物じゃないから!」
二人で眼を合わせてしまうと笑みがこぼれてしまう。病室に笑い声が響いている。
「それでね。絵里も作ったんだよ。ほら、この子」そう言って道重は亀井にDSの画面を見せた
「ね!似てるでしょ!絵里のほんわかしているところが似てると思わない?」
「え~絵里ってこういう風に見えるの~もっと目は優しいよ~」
ちょっと眼が鋭かったようで亀井は満足できなかったようだ。ムスッとしてしまった。
「意外と難しいんだよ!作るのは!頑張ったんだから」
「じゃあ、許す!」
「あ、上から目線だ~」
「エヘヘ・・・でも凄いね~大好物がオレンジジュースなんてそっくり」
「それだけじゃないよ。ほら、ここ見て。絵里の親友はさゆみなんだよ」
「うわ~ゲームなのに現実と一緒なんだ~凄いね~」
「ねっ、凄いよね~やっぱり絵里とさゆみは運命的なんだよ」
「やめてよ~」
開いていた窓から季節に似合わない温かな風が吹いたような気がした
△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△
―どうしてここまで私のことをこの人は信じられるんだろう?
なんだかんだで思い出はできた。でもそのたび私は組織に報告しなくてはならない
―決して彼女のことを嫌いなわけではない。むしろ最近は大切に思えるし
―いつまで、スパイとしての『私』は維持できるのであろうか?いつまで正気でいられる?
「悪いの~ガキさん、新メニューの試食をしてもらって~」
高橋は秋用に新作のデザートを考えており、閉店後新垣に試食を頼んでいた。
「それで、どうやろう?新作『気まぐれプリン』今日の昼に、絵里とサユに食べてもらったら絶賛だったんだけど。」
「うん・・・まあまあかな。かぼちゃのプリンってよくあるからインパクトが強いメニューが多い『リゾナント』ではぼんやりしちゃうかもね」
「厳しいの~ガキさん。でも、ありがとう。よし、もう少し頑張ろうかな」
―何気ないあなたの表情や、仕草や、話し方で・・・私はあなたの心まで分かるようになっていた。
いつの間にか、私はあなたのことを誰よりも分かるようになっていた。
早速改良を重ねるためにキッチンに向かっていく高橋に向かって新垣が声をかけた
「愛ちゃん、今日はもうやめなよ。ほら、こんなに遅いんだし。明日でもいいじゃない」
「え~でも、何か出来そうな気がするんだよ。それに、今作りたいし~」
「『作りたいし~』じゃないの!ちょっとは私のことも気にかけてよ。明日も仕事なんだからね」
「・・・そうやね、ガキさんは明日は朝から早いんやったな・・・気付かんで悪かったの」
―少し注意しただけで子供のようにシュンとなる。あなたは優しい。優しすぎるほどに。
でも・・・その分辛い。辛すぎるの。
たまには気づいてほしいけど、しょうがないあなたは気づかないの
「あ!そや!ガキさん。見てほしいもんがあるんよ」
そう言って高橋はエプロンのポケットからDSを取りだした。
「見て!ほら、ガキさんやよ~」
「トモダチコレクション」の画面には高橋の作った『ガキさん』がシュウマイを食べていた。
「ガキさんの大好物みたいなの。これが。さすが浜っ子やね」
「ちょっと、なんでよりによってシュウマイなの?せめてフカヒレ食べさせてよね。ゲームの中くらい」
「え~だってフカヒレは高いんだよ~それにこんな時間にフカヒレなんてお腹に悪いから」
「ゲームでしょ。現実とごっちゃにしない!贅沢させなさい!」
―ゲームの中で私は何を考え、誰と遊んで、誰を守っているんだろう?本当にしたいことができてるの?
楽しく過ごせているの?
高橋はタッチペンでページを切り替えつつ、新垣に声をかけた
「このゲームはね。あっしにとっては現実と同じところがあるんよ。ほら」
そっと新垣にゲーム画面を見せた。
「愛ちゃん・・・」
「さすが、ガキさん~さすが、すぐに分かったん~」
「だって、髪型とか服とかそのマンマだし、愛ちゃんの雰囲気が出てるよ」
「れいなには『愛ちゃんはもっと笑顔が崩れてると~』って言われたけどね」
そこにはいつもの高橋と似ているキャラがWiiをしていた。笑顔が眩しく、セミロングの茶色の髪の毛が揺れている。
確かにいつもと比べると笑顔は崩れていない
「ほんでな、ガキさんは知らないと思うけど、このゲームは親友と恋人が作れるんよ。」
「へ~それで愛ちゃんの親友は誰なの?」
「誰だと思う?」
―ゲームの中くらいは私は愛ちゃんと心から話しあえる仲でありたい。
心を隠さなくてはならない普段の私はいないのだから・・・
「親友はね・・・レイナなの」
「田中っちか。同じ建物に住んでいるんだもんね。ここと似ているね」
―ゲームでも私は愛ちゃんと一緒に入れなかった。それが運命なのだろうか?
仲良しではあっても絶対に心の内を隠していなければいけないなんて、涙が出てきそうだよ
新垣の様子には一向に気づかず高橋はまた画面をタッチペンで動かしていた
「そして、この『あいちゃん』には恋人がいるんだよ!それがこの人!」
「にいがき リサ男」
「・・・愛ちゃん?これ」
「えへへ、ガキさん。男のキャラでも作っちゃった。相性によると恋人にしたら『運命的な二人』なんだよ」
「・・・バカ。なんで男のキャラにするのよ」
「だってレイナが親友になって、あっしもガキさんがいないといけないんだもん。
レイナも大好きだけど、あっしのそばにはみんないてほしいの。特にガキさんは絶対にいてよ」
「私をさ、男にしなくたって愛ちゃんのキャラをもう一人作ればいいじゃない。そしたらみんなと親友になれるから不公平は無くなると思うんだけど。」
「それはあかんよ。ガキさんだから言えるけど、あっしはi914なんて化け物扱いされてる。
そんな私でもガキさんは一人の人間として見てくれる。私は私を大切にしたいの」
「あっしはあっし。誰が何と言おうとそれは変わらない事実。そして、それは、ガキさんが教えてくれたことや。
それだけやない。ほかにも大事なことをたくさん教えてくれたんよ。」
「ゲームの中でも愛ちゃんは一人しかいないのが大事なのね。でも、私は・・・」
「ガキさんは一人じゃ足りないくらい大好き」
高橋は新垣にギュッと抱きついた
―私はみんなを裏切っているんだよ? スパイとしか生きられないんだよ。私は
ずっと仲間のような顔をして、あなたをずっと裏切り続けているんだよ?
どうして・・・どうして私を責めてくれないの?
―どうしてそんなに心地いい優しさで私を包み込むの?でも、たまにはこんな温かい場所もいいかもね。
「ガキさん、泣いてない?」
「泣いてもいいでしょ。私はあなたの恋人なんだから」
最終更新:2014年01月18日 11:51