・・・
・・・
まだ、私は消えていない
何だ?
>目標、停止
道重さえみが右手を掲げたまま固まっている
「やめてお姉ちゃん!なんで先生にこんな酷いことするの!?」
道重・・・さゆみ?
「さゆみ、彼女は貴方を傷付けた魔女の仲間ですよ?」
「あの人は絵里を助ける力を・・・信じる力を教えてくれたの!」
「大方生け捕りにして実験材料にでもするつもりでしょう。騙されてはいけませんよ」
「そうなのかも知れない・・・でも、あの人からは人を・・・
誰かを助けたいっていう気持ちを感じたの!『共鳴』したさゆみにはわかるの!」
>目標、道重さゆみに人格転換
>目標、道重さえみに人格転換
>目標、道重さゆみに人格転換
>目標・・・
目まぐるしく、さゆみ-さえみと切り替わっている
これは何だ・・・葛藤?なのか?
助けたい気持ち・・・?
>システムに異常発生
「みんな・・・みんな嘘っぱちやよぉ!みんな消えてしまえばいいんやよ!」
「愛ちゃん・・・」
>システム回復
くっ、まただ・・・こんなときに
「さゆみ、やめなさい!」
「嫌なの!あの人ともきっとわかりあえるの!わかりあう前に居なくなっちゃうなんて、そんなの嫌なの!」
解り合うだって?
私は私のことすら解らないのに
そんな私と解り合おうと?
「さゆみ!いい加減にしなさい!私は貴方を守る為に・・・」
「お姉ちゃんのわからず屋!お姉ちゃんなんか大嫌い!」
「!!」
しばしの沈黙・・・そして
「キィャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
全存在を否定された『さえみ』の悲鳴とも咆哮とも判らない声が病室に響く
『さゆみ』を守る為の副人格、恐らくそれが『さえみ』であっただろう
その『さえみ』がアイデンティティの危機に陥っている
暴走し始めた破壊エネルギーの奔流が『さえみ』の周囲のあらゆる物を崩壊させていく
このままでは亀井絵里も危ない
下手をすれば病院自体も『消滅』しかねないだろう
みんな、消えてしまう
>システムに異常発生
みんな消えてしまう
あの時と同じ
助けなければ、私が!
>システムプロテクト解除
>System「M」起動
>動力をSystem「M」に切替
>胸部、展開
私の胸が開き、封印されていた私の真の動力源が露になる
M理論に基づいて造られた縮退炉・・・
光をも飲み込む暗黒の力を源とする
-マイクロブラックホールエンジン-
私の胸の小さな暗闇に、暴走した『さえみ』の放出する破壊エネルギーが
全て吸収されていく
>システム回復
静寂
ん?・・・私は?
いつの間にか、私はメンテナンス用カプセルの中に横たわっていた
私は・・・回収されたのか?
亀井絵里は?道重さえみは?現在時刻は?
20090304 23:57
ミッションからかなりの時間が経っている
>現時刻から48時間以内の通信記録を本部ホストより検索
20090303 15:53
>回収班、到着
>停止した『A』並びに昏睡中の亀井絵里、道重さゆみを発見
>『A』を回収、亀井絵里、道重さゆみを拘束。S区ラボに搬送
>ミッション完了
ミッションは・・・一応成功したらしい
しかし、さえみが暴走した以降のメモリーが飛んでしまっている
一体、何があった・・・?
でも何だろう、この満足感は
ん?
そういえばミッション終了したのに私は思考している・・・
何かが、変わったのか?
S区ラボ、研究室のウィンドウからメンテナンスカプセル内の『A』を見詰める人影
「えぇ、遂に彼女のプロテクトが解けてしまったようです。再プロテクトの方法?
わかりませんねぇ、何せ17年前の記録も残っていませんから。
例のエンジンにしても何が何やらさっぱりでして・・・私が受け継いだのは
ナノマシンの研究だけで・・・はいはい、可能な限りの処置はしましたので
今後ミッションを継続させる分には問題ありませんよ。」
(・・・これは面白くなってきましたよ)
通信を切るとDr.マルシェはニヤリ、と微笑んだ。
最終更新:2014年01月17日 14:19