(35)516 『オトナな私からオトナのプレゼント』



やっと終わった…。
今日は一日中病院にいた気がする。
血を抜かれたり、心電図を取られたり、もうこれ以上調べることはないんじゃないかってぐらい検査をした。

「はー…もう疲れたよー…」

一人寂しくぼやきながら、私はダラダラとバスに乗り込んだ。

よりによって今日が検査日だなんて。
流れる景色を見ながら、もう何度も思ったことを思う。
そろそろリゾナントにみんなが集まり出す頃だろう。
ガキさんの誕生日パーティーを開く為に、愛ちゃんが6時には店を閉めると言っていた。
自分の誕生日でさえ、きっちり店を開けていたのに。
まぁ、そこが愛ちゃんらしいんだけど。

そんなガキさんの誕生日パーティーの日と検査日が被ってしまうだなんて。
今から行っても開始には間に合わないだろう。
どうせ遅刻するなら、どんなに遅れても一緒だ。
もう絵里の中に「急ぐ」という選択肢はなかった。

いつも降りるバス停では無い所で降りて、近くのデパートへ。
実はまだプレゼントを買ってない。
もう決めてはあるんだけどね。
あとはオシャレに包装してもらうだけだ。
ずっと前から決めていたそれを手に取って、レジへと向かった。

「この瞬間がドキドキなんだよねぇ…」

身分証明書を出す準備をしていたにも関わらず、買い物はあっさり終わった。
年齢確認されなかったことに、絵里もオトナに見られてるんだなぁと実感してニヤニヤしてしまう。


「今から行きまーすっ」

バスを待っている間に愛ちゃんに電話をしたら、向こうから楽しそうな声が聞こえた。
またジュンジュンと小春はケンカしてるみたいだ。
宥めるみっつぃーの声が聞こえた。
リンリンの寒いギャグと、それを聞き流すさゆとれーなの声も。
自分の誕生日パーティーなのに、場を取り仕切っているガキさんの声も。

『絵里の分もちゃんと残してあるから、早くおいで』
「はーぁい!」

もうすぐみんなに会えると思うと、それだけでまたニヤニヤしてしまう。
携帯をカバンにしまっている間にバスがやってきた。
自然と緩んでいた口元を引き締めないまま、急いでバスに飛び乗る。

プレゼントが割れないように、胸に抱えながら座った。
見慣れた景色はどんどんリゾナントに近付いていく。
いつものようにボタンを押して、バスを降りた。

「あーお腹すいたよー」

すっかり暗くなった夜道を、少しだけ早足で歩く。
早くご飯が食べたい。
早くプレゼントを渡したい。
早くみんなに会いたい。
それだけを考えながら、少しだけ早足で歩いた。

―カランカラン


「遅くなりましたぁー!」
「おそーい!!」

口々に文句を言われ、正直みんな何を言っているのかわからない。

「もぉー、みんなそんなに絵里に会いたかったんですかぁー?」

だから、とりあえずこう言ってみた。
たぶんそんなに間違ってはいないはず。
うん、たぶん。
一瞬静かになった気がするけど、たぶん気のせいだ。
うん、たぶん。

「ほら、絵里も座って」
「はーい」

空いていたさゆの隣に座ると、奥から料理を持って愛ちゃんがやってきた。

「オムライスだ!」
「そうだよ。ガキさんのリクエスト」

愛ちゃんは嬉しそうにそう言って笑った。

「ガキさんナイスセンス!ナイッセンス!」
「でしょー?」
「ガキさんナイッセンッ!」
「わかった、わかった!ありがとねー」

だって、愛ちゃんが嬉しそうだもん。
絵里もオムライス好きだし。
まさに一石二鳥!一挙両得!


オムライスをお腹いっぱい食べて、みんなでワイワイやっていたら
愛ちゃんとれーなが片付けをし始めた。
ガキさんが手伝おうとしたら二人に止められていた。
だから絵里も手伝うのはやめた。

「ガーキさん」
「ん?」

テーブル席に座っていたガキさんに近付いて、絵里はプレゼントを差し出した。

「誕生日プレゼントです」
「お!なになに!変なものじゃないだろうね?」
「違いますぅー!開けてみて下さいよ!」

ガキさんは丁寧に包装を外して、中からプレゼントを取り出した。

「おぉー!梅酒!!」
「おいしそうじゃないですか?」
「うん、いいねぇー」
「飲みましょう!」
「飲もう!」

愛ちゃんからグラスをもらって、二人で乾杯の準備。

「何に乾杯します?」
「え、私の誕生日じゃないの?」
「いや!ここはじゃあ…絵里が買ってきたお酒に!」
「いやいやいやいや」

どうしようか悩んでいたら、「そこはリゾナントにやろ」とれーなが口を挟んできた。


「仕方ないなぁ。じゃあそれでいっか」
「もうそれでいいから早く飲もうよ」
「ガキさんはせっかちだなぁー!はい、じゃあみんなにかんぱーい!」
「かんぱーい!!」

ガキさんがグラスに口をつけるのを確認してから、絵里も口をつけた。
こういうとこはね!やっぱり主役が先だよね!!

「おいしいねぇ!」
「うーん、やっぱり絵里の目に狂いはなかった!」

あぁ~なんだかぽわぽわしてきた。
なんか楽しいぞぅー。

「ありがとねー」
「いえいえー」
「なんか幸せだなー、私」
「幸せですかぁー」
「うん」

ガキさんは嬉しそうにみんなを見ている。
ガキさんが幸せなら絵里も幸せですぅーへへへ。



「みんなに誕生日祝ってもらえて、こうやってカメとお酒も飲めてさー」
「うんうん」
「ずっと、これから先もこうやって出来たらいいなぁ」
「うんうん…そうだよねぇー…うんうん…」
「毎年、誰かの誕生日にはパーティー開いてさぁー」
「あーうんうん、いいと思いますよー…ガキさんナイッセンですよー…」

うーん…なんか眠くなってきたぞー…。
ガキさぁん…。

「カメ聞いてる?」
「あ、そーだ、ガキはん」
「何よ」

もう…ちょっと絵里…寝ますね。
今日は病院でいろいろ頑張ってきたんでー。

「何、カメ寝るのぉー?」
「うーん…」
「カメぇー?」
「…たんじょーびおめでとぉございますぅ」
「…ありがと」

では、おやすみなさい。
ガキさんの幸せは絵里の幸せ。
だから、ガキさんが幸せになりますように。

ノノ*´ー`)<…zzZ



最終更新:2014年01月18日 11:54