「新垣さん、お誕生日――おめでとうございます」
何となく照れながらそう言うわたしに返ってきた新垣里沙の笑顔は――当たり前だけれど――あの日のままだった。
かつて、里沙が自分たちを裏切り続けていたと知ったとき、わたしは突然足元に穴があいたような気持ちになった。
人を信じることの意味がようやく分かりかけてきたわたしを、再び孤独の絶望に引きずり込もうとする、暗く深い穴が。
優しい言葉も、温かい笑顔も、里沙がわたしに向けていたすべては偽りだったのか。
何もかも、わたしたちに近づいて情報を得るためのただの芝居だったのか。
みんなが…小春がいるから自分は孤独じゃないと言っていたのは嘘だったのか―――
絶対に許せないと思った。
…だけど、気がつくとわたしは立ち上がっていた。
「行こう。新垣さんを助けに」
そう言うために。
里沙は、いつもわたしを優しく包み込んでくれていた。
素直になれなかったわたしを温かく見守ってくれていた。
裏切りの事実を知って尚、里沙のその優しさや温かさが偽りであったとはどうしても思えなかった。
いや、目の前にいるときは信じ切ることができなかったのに、何故かいなくなって初めてそれに気付けた。
――今も同じだ。
いなくなって初めて分かったことがたくさんある。
常に愛を陰で支えていた里沙が感じていたであろう重圧と責任もその一つだった。
だけど、「今さら分かっても遅い」わけじゃない。
里沙が自分にお守りを託したのは、きっとそれをわたしに伝えるためだったのだろうから。
「何があっても愛佳をしっかり支えてあげて」
何より、目の前の里沙の笑顔がそう言っている。
「言われなくても分かってますよ、小春は新垣さんの相方なんだから」
「いつから私の相方になったのよ」
間髪を入れないそのツッコミに、わたしも素早く言葉を返す。
「生まれたときからだよ!」
“わたしと同い年の里沙”にニヤリと笑いかけ、わたしはその呆れたような表情に背を向けた。
里沙に“会う”のはこれが最初で最後にするだろう。
だけど、その笑顔は…その温かい心は、念写なんて用いなくてもずっとこの胸の中にある。
里沙の願った青空の下、これからも―――ずっと。
最終更新:2014年01月18日 11:54