(35)585 『RE 救急救命室』



閉店後、店の後片付けを手伝ってくれた光井が高橋に話しかけてきた。
「高橋さん、今日ちょっと変な夢見たんですよ」
「どんな未来を予知したの?」
「いや・・・予知というか・・・」

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高橋は電話の前でうとうと睡魔と闘っていた。深夜を過ぎ、眠気がピークを迎えていた。
その時突然、電話のベルが鳴り響いた。

「はい、こちら救急隊リゾナントです」
(すいません、さっき階段でおじさんが一人転んで頭から血を出しているんですよ。救急車1台お願いします)

「一人ですね?場所は・・・はい、わかりました。すぐに向かいます」
高橋は瞬間移動でその現場に飛んだ。そして、おじさんの肩を抱え、再び瞬間移動した。

飛んだ先は『病院』。高橋のみが知っている秘密の病院『リゾナントクリニック』

黄色の光とともに高橋が新垣の後ろに現れた。
「うわ、愛ちゃん?何?急患なの?」
「ごめん、ガキさん。頼むわ~なんか階段から落ちて頭打ったらしいで~」
「おじさん、大丈夫?結構頭から血が出てるじゃない!早く手当てしないと」

新垣は心の中で亀井、道重、田中、久住の名前を呼んだ
(Drハート、Drハート、先生方お集まりください)

暫くして呼ばれた面々が集まった。
「はい、じゃあ、こちらの患者さんの治療お願いね。愛ちゃん、お疲れ、帰っていいよ」
「え~ガキさん、あっし暇なんよ~コーヒーとか一緒に飲もう」
「愛ちゃん、救急隊のお仕事は終わったかもしれないけど、医者の私達の仕事はこれからなんだよ。
 小春、とりあえず脳に異常ないか念写しておいて。あと、骨折の確認も」
「アイアイサー☆」


小春の念写で患者の脳の断層写真が撮られた。
「新垣さん、骨折は無いようですけど、頭の下に出血してるようですよ。」
「大変じゃない!はやく手術室に運んで。早く。田中っちサポートよろしく」

「じゃあ、亀は空気を送り込んで」
「は~い、おじさん、口あけるよ~ふんっ!」
亀井が風を操り患者の呼吸機能の補助をした。その横で新垣は小春に尋ねている

「小春、出血はどの辺なの?写真見せて」
「多分、頭のこの辺ですよ。ほら、ちょっと血で濡れているところです」
新垣は障害部に指をさして確認した。

「うん、ここだね。間違いないね。じゃあ、さゆみん、治しちゃって」
「さゆみに任せて!」
道重の手からピンクの色の光が放たれると傷口がみるみるうちに消えていく。
「さゆの能力はすごいな~どんな傷もスグに治っちゃうんだもん」
亀井が風を送りながら呑気に話していた

その時、けたたましい電子音とともに、付けていた心電図が異常な変化を伝えた。
「心臓停止、心臓停止、小春、電気ショック」
「はい!道重さん、ちょっと離れてください」
赤い電流が患者を貫いた。一瞬、バチっという音とともに跳ねたが心電図は正常に戻った。
「よかった~小春、ナイス!」
「イエィ!イエィ!」

治療が落ち着いたところで新垣は部屋の電話からリンリンに連絡を入れた。
「じゃあ、リンリン、患者さんの目が覚めるまでよろしくね」
「ハイ、バッチリです。体温下がラナイように温めておきます。」
リンリンはこの病院の空気環境、温度湿度の管理を任されているのだ。
「ファイヤー!水を蒸発させて湿度もバッチリ!インフル対策もバッチリで~す」


それからしばらく・・・
「あ、新垣さん、患者さん目が覚めはったようです」
「よかったダ。覚醒しているのカ?」
「おじさん、大丈夫?今日は何月何日?」
(・・・)
「ちょっと、まだ、ボゥっとしておるようですねえ」
「わかった、愛佳、ジュンジュンちょっと待ってて」
新垣は患者の精神にダイブした。

『おじさん、大丈夫?もう、傷は完全に治したから』
(・・・なんで助けたんだ?)
『え?なんでって』
(お前が誰か知らないけど、俺は昨日リストラされたんだ。20年以上も務めた会社をあっさりと・・・
 雀の涙ほどしかもらえなかった退職金全てを使って呑んだんだよ。それこそ死ぬつもりで呑んだんだよ。
 なんで、俺の意思を無視して助けたんだよ。このロクデナシが・・・)
『(駄目だ・・・このおじさんを退院させても、すぐに自殺しちゃうかもしれない)』

新垣は精神ダイブから帰ってきた。
「新垣さん、意識戻りましたね」
「・・・みっつぃ、ちょっとお願い。心を癒してあげて」
「今回はどうしたんですか?」
「おじさん、人生に悲観して、このままじゃ自殺しちゃうかもしれない…素直な輝きを戻してあげて」
「わかりました。愛佳の『心の浄化』に任せてください」


光井は精神を集中して紫色の光を溜めこんだ。しかし、突然患者が暴れ出した。
「新垣さん、すいません、集中出来まへん」
「ジュンジュン、患者さんを落ち着かせてあげて」
「わかったダ。トゥ!」

ジュンジュンが消毒剤を床に叩きつけた。その消毒剤が空気中に舞い散り視界が暫くの間ぼやける。
その隙に新垣は患者の注意をひく言葉を投げかけた
「おじさん、あっち見て、なんとびっくり!!」
視界が開かれると、そこには・・・

(・・・パンダだ)
ジュンジュンがパンダに獣化し、白衣のポケットに入れておいたバナナをむしゃむしゃと食べ出した。
(なんで、パンダがいるんだ??でも・・・かわいいなあ・・・)
ごろごろと床を転がって遊び(のフリ)をしているジュンジュンパンダ

ジュンジュンパンダに患者が見惚れているうちに光井の集中力は高まっていた。
「はい、OKです。では、心のケアしま~す。おじさん、腕握りますね~」
患者の腕を握った光井の手から紫色の光が飛び出し、患者の全身を包んだ。
と同時に患者はスヤスヤと寝息を立て始めた。

「これでおじさんは今の自分としっかり見つめることができるようになると思います」
「お疲れ様、みっつぃ。あ、ジュンジュン、もういいよ」
「新垣さん、仕事の報酬としてバナナクダサイ」


退院の日
(なんだか、あんなに悩んでいたことがバカみたいです。また仕事を見つけて頑張ろうと思います)
「頑張っておじさん」「無理しないようにね」「また怪我したらさゆみが治してあげるの」
「頑張ればいいことあるっちゃ」「ポジティブに生きましょう!!イェイ!イェイ!」
「ほら、パンダの写真ダ。これ見て元気出セ」「もう、体はバッチリです!」

「じゃあ、おじさんを元の場所に届けるよ。おじさん、あっしにつかまって」
(ありがとう、でも、ここはなんてところなんだ?胸に「Re」のバッヂがあるけど)
「ごめんなさい、それだけは教えられないの・・・でも、これだけ教えてあげる。
 ここは本当に困っている人を助ける病院。体の傷も心の傷も・・・」

高橋がおじさんを元いた場所に戻り、帰ろうとしたときに一言、おじさんは問いかけた
「「Re」って病院のロゴなのか?」
「それも秘密なの・・・ただ教えてあげる。「Re:」=「返信」ではないからね。帰ってこないようにしてね。」
そういって、高橋は颯爽と姿を消した

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「っていう夢でした」
「『救急病院リゾナント』!正義の味方の病院!あっしもお世話になりたいわ~」
「愛佳達には道重さんいますから必要ないですけどね・・・」
「でも、ナース服って憧れるわ~」
「ですよね~」
「・・・明日だけ、お店の営業時の衣装をナース服にしてみる?」
「・・・ええんちゃいますぅ?田中さんさえ、OKもらえば・・・」

次の日、なぜか売り上げがいつもの数倍に上がったとか、、、



最終更新:2014年01月18日 11:56