(35)939 モーニング戦隊リゾナンターR 第5話 「力の意味」



湖の岸辺に倒れ伏す愛。
吐く息が荒い。
リンリンの発火攻撃は辛うじて回避できたが受けたダメージは肉体的にも精神的にも大きかった。
別世界のリゾナンターに拒絶されたことで、改めてこの旅の目的を意識する。
全てを破壊して自分の世界を救う。
そのためには先程出会った二人も倒さなければならないのか、暗然とする愛。


「愛佳サン。 さっき来タ高橋サンは偽物デス。 もう一歩の所デ逃げラレマシタ。
 ココは危険デス。 修行は一旦中止シテ戻りマショウ。 また日ヲ改めマショウ。」
「簡単なことやったんや。 水に秘められた大きな力、無限の英知。 解き放ったらいいんや。 こんな風に」

湖面から走る一筋の水流が近くの木々をなぎ倒す。

「愛佳サン…」

「な、凄いやろ。 これだけやないで、こんなことも出来るんや」

無数の水滴が空中を漂い、水鳥の周囲にまとわりつく。
侵入された水で呼吸器を満たされた水鳥は、息が出来ず悶え苦しむ。

「愛佳サン!!」

声を荒立てるリンリン。

「なんやそんな怖い声で」
「愛佳サンは、私の知っテル愛佳サンはこんなことをスル人じゃナカッタ。 
 罪もナイ生き物を苦シメたりする人じゃナカッタよ。それにあの倒レタ木にだってタクサンの命がっ!!」

愛佳を厳しい眼差しで睨みつけるリンリン。 

「アナタは誰?」
「光井愛佳やん。 リンリンの仲間の」

…違う、私じゃない。今話してるのは私じゃない。声は私の口から出てるけど、私の言葉じゃない。なんでこんなことになったんやろ。
…一番最初はあの女の人、カ・オ・リという人と夢の中で話した時から始まったんやっけ。いや違う、もっと前。私が力を望んだ時から始まったんや。
…あの時、戦闘で危なかったところをリンリンに助けて貰ったときからや。

「モウ一度聞きマス。 アナタは誰デスか? 何のためにこんなことをスルのデスカ?」

…攻撃パターンが不規則すぎて、動きを予測しきれなかった敵に攻撃さたところをリンリンに助けて貰った。
…私の為にリンリンは怪我してしまった。 
…私が謝ったら、リンリンは「愛佳サンが謝ルようなことジャじゃないデスヨ。愛佳サンが居ルから私も頑張レマス」とニッコリと笑った。
…その時からや、敵を倒せる力を欲しいって思ったんわ。そしていつかその力で仲間を守りたいって。


「出て行ケ。 愛佳サンから出テイケ」

―やれやれまるで悪霊呼ばわりだな。

「ようやく出てキマシタか。 アナタは一体誰ナノデスか?」

―蓄積された情報、意識の集合体

「何デスカ、それって」

―水の精霊と云った方が通りはいいのかもな
―龍神、水妖と呼ぶ者もいる
―何ならスタンドと呼んでもいいぞ、最近の流行ならガイアの意志とでも呼ぶか

「アナタが何でアッテも、何処の誰でも構わナイ。今すぐ愛佳サンの身体から出てイッテ貰いマス」

―それは困る。 どういうわけかこの娘は私と馴染むのだ
―強大な力を使う術を知りながらその力を具象化するデバイスを所持しなかった私
―力を渇望しながら引き出す術を知らなかったこの娘の身体とはな

「心は、愛佳サンの心は?」

―心、この脆弱な娘の心などどうなろうと構わん

「アナタにそんなことを言ウ権利がアルのデスカ」


―お前は川や池に小石を投げたことがあるだろう、これまでの人生で一度も投げたことがないとは言わせない
―お前が何気なく投じた小石が、水中の生物の生の営みを一瞬にして破壊する暴力であることをお前は自覚しているか
―同じだ、お前たちが石を水面に投げ込むのと、私がこの娘を通じて、力を行使するのは同じだ

「確かにワタシ達は知らナイ間に誰かのことを傷ツケテいるのかもしれナイ。 
 デモだからといって誰かがワタシやワタシの仲間を理不尽な理由で傷つけヨウトするならワタシは抗ウ。 ワタシの力はその為にアル」

―ならば抗ってみせよ

湖の表面は逆巻き、愛佳の身体を浚っていく。まるで愛佳は水面に立っているように映る。
高圧の水流がリンリンを襲うが、発火能力で水蒸気と化し防ぐ。

―ふん、お前は炎を操るのか、面白い

全然面白くなんかナイデス

―その小さな炎で私の力を止めれるかな

一本だった水流が何本にも分かれてリンリンを狙うが、尽く防ぐリンリン。

―見事だ、だがお前は大事なことを忘れていないか
―お前はその炎で私の力を打ち破っていると思ってるかもしれないが、姿を換えているだけだ
―先程の水鳥がどうなったかお前はもう忘れたのか
―そう、水流の槍はお前の口を塞ぐ水蒸気の轡となった


愛の差し出した手を握るリンリン、二人の心と心が繋がった。
そして愛佳もそれに応える。
二人は光の粒子となって湖水の上空に跳躍する。
目標は愛佳の予測した水守の本体ともいうべき存在。
自群の誕生と消滅を二進法に変換することで、膨大な情報と意識を保存してきた淡水プランクトンの出現水域。

「あの色の濃いところや」
「高橋サン、高いデス」
「あひゃぁーっ、景気づけにいいやろ。 行けーーーっ!!」
「昇華ーーーーーッ!!!」

平穏を取り戻した湖畔、抱き合って無事を喜び合う愛佳とリンリン。
やがて二人は愛のことを捜し、「高橋さん」と呼びかける。
自分の役目が終わったことを知った愛は心の中で別れを告げ、ゆっくりと水を掻いていく。
「今日はよく水に落ちる日だったな」と呟きながら。
そんな愛を見つめる謎の存在、その手には鋼鉄製のヨーヨーが…




次回予告 第6話「新垣里沙の憂鬱な日常」

正体不明の敵の襲撃を受けた愛が逃げ込んだのは「スパイの憂鬱」の世界。
そこで愛が出会った哀れなスパイガール新垣里沙は、ダークネスの濃い面々と傍若無人なリゾナンターの板ばさみに遭って
憂鬱な日常を送っていた。
さばけた口調の里沙に愛は自分の旅の目的を漏らしてしまう。
「全てを壊す? じゃあ手始めにリゾナンターをやっつけちゃってよ。 あたしダークネスに戻りたいんだ」

全てを繋ぎ、世界を笑え



最終更新:2014年01月18日 12:08