(36)092 『6等星』



「都会でもこんなに星が綺麗に見えるんや~やっぱここに来てよかったね~リンリン!」
「ハイ、そうですね。光井さん。すっごく空が透き通ってマス!」

某日、流星群が見られるという情報を得た光井はみんなに一緒に行こうと声をかけた。
しかしほとんどのメンバーの都合が合わずリンリンと2人で見ることになった。
そんなわけで二人は数本の電車を乗り継いで少し遠くの田舎に来ていた。
しっかりものの光井が近くの宿場を予約して、今は外に出て二人で野原に寝転がって空を見上げていた。

「ちょっと都心から離れただけやのに、鈴虫の声とか聞こえるこんな田舎に来れるなんて知らへんかった」
「リンリンも知りませんでした。こんなに澄んだ空気久々に吸いました。スースー」
「ちょっと、リンリン、吸いすぎやって。空気じゃお腹膨らまないよ」
光井はリンリンにカバンから飴を数個手渡した。
「ありがとうございマス!」

リンリンはその中の1つの封を開けて口に含んで言った。
「せっかくこんなに綺麗なのですから、皆さんと来たかったですネ!」
「ほんまやわ~大人は大変ってほんま思うわ~うちら、まだ子供でよかったね~」
「ハハハ、久住さんも子供ですけどお仕事ばかりで大変デスネ!」
澄み切った星空のもとで二人の声は静寂の中で虫の声をかき消すように響いた。

「テレビによると今日はたくさん流れ星が見えるらしいで」
「本当ですか!リンリン、たくさんお願い事シマス」
「愛佳だって、お願いしたいことたくさんあるんやで。あ、ほら流れた!」

星が流れたと同時に二人は起き上がり、会話をぴたっと止め、静かに手を組んで心の中で願いを唱えた

「・・・リンリンお願いできた?」そっと光井が質問した。
「バッチリです!完全に言えましたよ!光井さんはどうですか?」
「愛佳もバッチリ言えたで!完璧やで!・・・なぁ、何お願いしたん?」
「エー、秘密デス。口にしたら叶わないって高橋さん言ってまシタ」
リンリンは光井に背を向けて、これ以上質問されないように構えた。


「え~ええやん~愛佳とリンリンの仲やで~それに、今日はまだまだお星様来るから同じことお願いすればええやんか~」
「じゃあ、光井さんが先に言ったらリンリンも言いますよ」
「ええよ~愛佳、言うから次はリンリンが言うんやで~」

リンリンと向かい合って光井は自分の願い事を話した
「愛佳は『もっと強くなりたい』ってお願いしたんや。
 ほら、愛佳って能力としては『予知』しかないやろ。念動力もあらへんから愛佳故人としての戦闘能力はあらへんし。
 せやから少なくとも自分のことは自分で守れるくらいになりたいんや。」
「リンリンは光井さん、十分に強いと思いますよ。確かニ最前線では戦えませんけど、いつもサポートしてくれて助かりますヨ」
「ありがとう・・・リンリン・・・優しいね。リンリンは何をお願いしたの?」

「リンリンはデスネ、『みなさんが元気でいられるように』ってお願いしました」
「え?それでいいの?リンリン自身のことじゃなくてええの?」
リンリンは一瞬キョトンとした表情になった。しかしすぐに笑顔になって答えた
「ハイ!これがいいんです!リンリンはみなさんが元気でいればそれが幸せデス」
ポケットから先ほど光井からもらった飴を取り出し、また一つ口に含んだ

光井が正面からリンリンの目をじっと見つめた。
「??どうしました?光井さん。リンリンの顔に何か付いてますか?」
「・・・前から思ってたんやけど、リンリンはそれで満足なん?」
「満足ってどういうことデスか?」
「リンリンは愛佳と違って強力な攻撃系の能力の使い手やし、能力がなくたって田中さんと渡り合うだけの体術を持ってるやん。
 『万千吏』の総帥の娘やから、いわゆる『エリート』なんやし・・・
 それなのに、いつも後方支援みたいな役割やろ。愛佳がもしリンリンの立場やったらもっと前戦にいきたいと思うんやけど
 不満やないの?もっと前に出て高橋さんと一緒に戦いたいと思ったりせえへんの?」
光井の質問にリンリンの笑顔が引っ込み、暫くの間、二人の間を沈黙が包んだ


「・・・光井さん、方位磁針の無い時代に人はどうやって旅を続けていたか知ってますカ?」
唐突にリンリンが関係ない話をしはじめたので光井はとまどってしまった
「え?方位磁針の無い時?え~と、確か・・・北極星を頼りにしたって習った気がするわ。それがどうかしたの?リンリン?」
「光井さん、正解デス!北極星は一番明るい星ではないですけど、季節に関わらず同じ場所にありマス。
 ダカラ北極星は北の目印でした!旅人にとって頼りになるお星様で、進むべき方向を教えてくれます!」
「いろいろ知ってるね、リンリンは」
「進むべき道を示しているので仲間の中で高橋さんみたいってリンリンは思いマス」
「あ~言ってみればそうかもしれへん」

「デハつづいての問題です。ジャジャン、一番明るい星はなんでしょう?
「え?愛佳、星のことは詳しくないから、わからんわ…」
「正解はオオイヌ座のシリウスでした!冬の南の空に見えるので・・・ほら、あの白い星デス」
「あ~あれがシリウスっていうんや。見たことはあるけど名前はしらんかったわ~」
「一番明るくて輝くお星様は、久住サンみたいですね!」
「うん、あの明るさは久住さんや。圧倒的な存在感…」

いつのまにかリンリンの話のペースに入っていることに気がついた光井は流れを戻そうと話しかけた
「じゃあ、リンリンはどの星なん?あの明るい星?」
「リンリンはですね~あれです!」
そう言ってリンリンは北の空を指差した
「え?どれ?リンリン、どこらへんなん?北極星から何個くらい下の星?」
「えーとですね、5個くらいですかね・・・」
「1,2、3,4,5、あの赤っぽい星か~」
「あ~光井さん、違います。それじゃないです。それからあっちにもありますよ」
そう言ってリンリンは南の空を指差した
「シリウスの上にある5番目の星デス。」
「今、あっちっていうたやんか!今度はこっち?えーと、1,2,3,4,5、あの緑色の星?」
「それからオリオン座の右上にもありマス!」


「ちょっとリンリン、からかわないで!なんでリンリンがそんなにたくさんおるん?はぐらかさないで説明してよ」
「ハグラカス???どういう意味ですか?」
「えーと、分かりやすく説明してってこと!」
「あーハイハイ、日本語難しいですネ」

「最初にリンリンがあれって指差したのは光井さんが数えた2番目と3番目の間にある星デス」
「え?星なんてないよ」
「光井サン!しっかり目を凝らして見てください!」
そう言われて目を細めてみた光井は微かに光を放つ星の存在を認めた
「・・・ぼんやりとやけど見えたわ」
「次にリンリンが指したのは1番と2番の星の間デス」
そこには先ほど光井がかろうじて見つけた星と同じくらいの明るさしか持たない星が存在した。

「光井サン、夜空にはどのくらいのお星様がアルか知ってますカ?」
「う~ん・・・1000くらい?」
「ブブー、正解は十二万です。でも、その中で肉眼で見える星は9000個くらいデス
 それでは、光井さんは何個くらい星座を知ってますか?」
「牡羊座、牡牛座・・・小犬座だから20くらいしか知らへん」
「中国には星座は233種類ありマスよ。でも、その星座に入れない星もたくさんあるデス。
 光井さん、星座に入らなくてもお星様はいるんですよ。
 大きいお星様が輝く横に暗いお星様は影で頑張って光っているんデス」
「リンリンは明るく光らなくてええの?」

「モチロン光りたいですヨ。きっと光井さん、勘違いしてると思います。あの星とあの星のどっちが明るいか知ってますか?」
そう言ってリンリンは同じくらいの大きさ、明るさの星を2つ指差した
「どっちも同じくらいに見えるけど・・・右の方?」
「答えは左デス!明るさは同じくらいに見えますが左の方がズット遠くにあるデスよ!
 同じ大きさ、明るさにあっても本当の明るさはワカラナイんです」

「もしかしたら一番明るい星はシリウスじゃないかもしれないデス。遠すぎて見えないだけなのかもしれないです」
「なるほどね・・・リンリンもしっかり考えているんや・・・」


「それからもうひとつ理由がありますヨ!」
リンリンはポケットから飴を取り出して、また一つ口に含んだ。

「リンリンが指差したお星様の明るさは6等星ってイイマス。ギリギリ見えるかどうかの明るさナンデス。」
「確かに、こんな空気の澄んだところやないとみえへんかも・・・」
「そしてその6等星の星は明るい星の周りにたくさんアリマス。この星空の多くの輝く星の周りにいるんです。
 だからあの北極星の横にも、シリウスの横にも、オリオン座の近くにもあります!
 リンリンと違って、高橋さんとか久住さんは大きくて光る星です。リンリンはそんなみなさんの近くにずっとイタイんです。
 離れた場所で明るく光っているよりは、暗くても近い場所にいた方がリンリンは嬉しいデスから!」
「リンリン・・・」

「なんか愛佳恥ずかしいわ・・・自分のことばかりお願いしてて・・・
 愛佳、ちょっとは周りのことを見てみようかな。。。
      • リンリン、今のリンリンはどこにおるん?」
「今はあそこです!」
光井はリンリンが指差した方向を指さして言った
「リンリンがあそこなら、愛佳はその横におるあの星になるわ。もっとみんなを守っていけるように・・・
 リンリンがみんなを見守っているなら愛佳はそのリンリンをしっかり見ていたい
 自分だけ強くなっても意味なんてないんや・・・強さって深いんやな・・・」
最後の言葉は自分自身にしか聞こえない声で言った

光井がリンリンの方に目を向けるとリンリンが背伸びをして夜空をしっかり見ようとしていた。
「リンリン、何してるん?」
「え?どれですか?見えません・・・光井さんの星が暗くて見えません。灯りがあれば見えそうですけど
 あ、ソウダ!」
ポケットからリンリンは飴玉を取り出して、掌に包み空に掲げた。
「ファイヤー!・・・あ、一瞬見えました」
「リンリン・・・ムードぶち壊しや~」



最終更新:2014年01月18日 12:10