(36)560 『Have a good day!8~恐怖の館~』



――――PM 7:18 ミステリアスステージ“戦慄のスリラーマンション”入口前


最初に、雰囲気が出ないと面白くないから決行は夜にしよう、と言い出したのは誰だったか。
れいなだ。
待ち時間が長いと怖気づくから、客が出払うキャラクターの行進イベントの時間に入ろう、と言い出したのは誰だったか。
れいなだ。
どーせなら年齢制限があってこの遊園地で一番怖いと言わえdれてるお化け屋敷に行こう、と
言い出したのは誰だったか。
はいはい全部れいなですよ、れいなが悪いって言いたいんでしょ!

でも、れいなは絶対悪くない。
悪いのは、平気で味方を裏切るジュンジュンのほうだ。
あー傷ついた!れいなは本気で傷ついた!

「じゃ、まあ頑張って。私たちは出口の前で待ってるから。行進見たあとで」
「ちゃんと中を見てきて下さいよ~?どんなやったか聞きますからね~?」
「代われるもんなら代わってあげたいけど・・・『心臓の悪い方はご遠慮ください』だって!いや~残念っ!」
「大丈夫やって。入っちゃえば案外怖くないかもよ?あーしは絶対入りたくないけど」
「安心してくだサイ皆さん。骨は、リンリンが拾ってやりマス」
「生きて帰ッテきてね。帰ッテきたら一緒に花火見るだカラね。・・・約束だヨっ!」

見送りに来たみんなも、傷口に塩を塗るか人をイラつかせるかのようなことしか言わない。ムカつく。
      • あと、どーでもいいけど、愛佳も共犯だったってこと誰も気づいてなくない?


薄情者の六人に見守られて、れいなと小春とさゆはお化け屋敷の中に入った。
この建物の屋根の上にのってた怪物の像も相当悪趣味だと思ったけど、中身もそれに負けてない。

生温かい人工の風。
ズラリと並ぶ気持ち悪い人形の数々。
普通に開けただけで、そこらじゅうに反響する扉。
立体映像の幽霊たちがウヨウヨ踊ってるダンスホール。
頭の上のほうにものすごくリアルな蜘蛛の巣が張ってる、地下へ続く石段。

歩みを進めるたびに趣味の悪さを実感して、もう笑えるくらいだった。
ほら、今もれいなの膝が笑ってる。そんな急な段差でもないのに。

「れ、れいな?怖いなら、さっ、さゆみと手、つなごっか。震えちょるよ?」
「なっ・・訛りながらなん言うと!さゆこそ顔真っ青やん!ろう人形かと思った!」
「さゆみの色白はうま、生まれつきだもん」

ハハハ、さゆは意地っ張りだなぁ。しょうがないかられいなさんが手を貸してあげよう。

「・・・着きましたよ、地下」
「うわっ!びっくりした!!」


小春がぬっ、と現れてれいなたちの耳元で呟く。
入った直後はキャーキャーうるさかったのに、だんだんトーンが落ちてきて今ではすっかり低音ボイスだ。
猫かぶる余裕もなくなってきたとみた。

「小春、声出ないんですけど。金縛りってやつですかね?」

単なる叫びすぎやろ。
そんなことより、れいなはこっちのチャプチャプいってるやつのほうが気になる。


石段を降りきったれいなたちを待ち構えていたのは、
RPGやら宝探し映画やらに出てきそうな、怪しい雰囲気の地底湖だった。
そこには機械仕掛けの四人掛けトロッコが待機していて、そばに係員らしき
手術着姿のお姉さんも立っている。
これは、この怪しさ満点の湖をトロッコに乗って先へ進めってことですか?

「こちらへ、どうぞ」

あ、やっぱり?




トロッコを降りると、来た時と同じような石段がれいなたちを待っていた。



「目で見る恐怖と体で感じる恐怖のダブルパンチ」。
これがあのトロッコでの旅を表現する言葉だ。

明るいライトに照らされた所で“手術中なので解剖されてます”的なグロ人形に出会う視覚的恐怖と、
暗くて細くてクネクネした道をジェットコースターみたいなスピードで駆け抜ける体感的恐怖。
まっ、よーするに、怖いものをただ適当に詰め合わせただけの子供だまし。
こここ、こんなコンセプトも何もないお化け屋敷を怖がると思ったら、お、大間違いやけんね!

「それにしても怖かったですよね、あの右手」
「「えっ?」」

何気なさそうな小春の一言に、思わずハモるれいなとさゆ。

右手?
そんな人形、おったっけ?

「ほら、途中までトロッコの下のほうを掴んでた、あれですよ。手首から先しか
 水面に出てないんで、小春、その下に人形でもくっついてるのかと思ってました」


トロッコ?手首?なにそれ?
さゆに確認しようとして隣を見ると、さゆは地下に降りてきた時の数倍蒼白い顔で小春を見ていた。

「な、何言ってるの小春ちゃん。さゆみ、そんなの見てないよ・・・?」
「み、道重さんのほうこそ何言ってんですか!やめてくださいよ、そーゆーの!」
「さゆみは嘘なんかついてないよ!」
「小春だってそうですよ!」

え、ちょっと待って、どーゆーこと?

小春は変な右手を見たと言い張って、さゆはそんなの知らんと言い張る。
意見は真っ二つ。だけどれいながどっちかに味方することはできん。
その、つまり・・・・・・怖くて、ほとんど目ぇ閉じとったけん・・・


二人は一歩も引けず動けない。
相手の説を認めたら、自分のほうがおかしいと認めることになる。
れいなだって動けない。
ここで不用意なことを言えば、場が一気にこじれてしまうことになる。

静寂が、痛い。


「あの、ふた」
「ウオォォォーーー!!オイッ!オイッ!」

Σ从;` ロ´)<ひっ!?


突如、静寂を破る野太い雄叫びが地下いっぱいに響き渡った。
なんと言うか、普段は全然いやじゃないんだけど、全体的に暗くて静かで
常に恐怖と隣り合わせのこの状況で急に聞こえてほしくはない声。

声の出所を探してキョロキョロしてると、小春が目を見開いて固まっていることに気がついた。
小春はある一点を凝視している。
どこだ?湖の向こう?
れいなもそっちに視線を向ける。
すると、なんか奇妙なものが目に入った。

カラフルな服着てカラフルな棒持ってオイオイ叫びながら飛び跳ねてる・・・人形?
確かに生息地は暗転したところっぽいけど、こんな所にいるのはどう考えてもおかしくない?

「うわぁぁぁ!もういやだぁーーーーーーー!!」
「ちょ、小春!?」

人形の雰囲気に圧倒された小春は、泣き叫んでそのまま一人で地上へ繋がる石段を駆け上がっていく。

「小春、待って!たぶんあの人は悪い人じゃないっちゃよ!」

れいなの呼びかけも空しく、小春はあっという間に走り去っていった。
追いかけなきゃ、と足を一歩踏み出して、れいなは一瞬忘れかけてたもう一人の仲間の存在を思い出す。

「さゆ!」


さゆは、うずくまって泣いていた。
小春の話とカラフルさん(仮)の脅かしが余程ショックだったと見える。
どうしよう。早く小春を追いかけたいけど、さゆも放っておけない。

      • よし。とにかく今は、さゆを立たせるのが先だ。

「さゆ。さゆにはれいながついとるけん、心配いらんよ?
 お化けが寄ってきよっても、れいなが全部ぶっ飛ばしてやるけん!」
「うっ・・・く。・・・グス」

反応はない。結構優しく言ったつもりだったのに。
やばい。れいなも泣きたくなってきた。

「グス・・・ヒック・・・・・・誰、なの?」
「は?」

あれ?なんか、さゆの雰囲気変わった?
涙は止まったみたいだけど、目がやけに理性的になったというか。

まるで、人格が替わってしまったかのように。


「誰、なの?・・・・・・私の、かわいいさゆみを泣かせたのは、いったい、誰なのーーーっ!!」
「はぁー!?」

ゴゴゴという効果音を背景に仁王立ちするさゆ(?)。
その魂の叫びは、さっきのカラフルさんの雄叫びにも負けないくらいの迫力で地下を、
いや、もしかしたら、お化け屋敷全体をも震わせた。


さゆの叫びに呼応して足場が、トロッコが、お化け屋敷中のセットというセットが崩壊していく。
このままだと、れいなたちは。

「う、埋まるぅーー!!」

♪個性を出す、異性を奪取、普通をWASH、速攻でDASH♪
って、歌ってる場合じゃないっ!
早く逃げんとマジで死ぬ!生き埋めになって死ぬ!

それもこれも全部さゆとジュンジュンのせいだ。
さゆがれいなにちょっかいかけてこなければ。ジュンジュンがれいなを裏切ったりしなければ。
れいなは、お化け屋敷に入ったりなんかしなかったのに。


「お化け屋敷なんか、二度と来るもんかぁーーーーー!!!!」



余談。

あとで聞いた話によると、カラフルさんっていうのは、トロッコを降りてもなかなか
先に進まない客を驚かせて、さっさと地下から追い出すために仕掛けられた人形だったらしい。
そうでもしないと後ろの客がつかえてしまうから、とかなんとか。


ところで、小春の言ってた右手首ってなんだったんだろう。
あのあと詳しい人に聞いたりガイド本いっぱい読んだりしたんだけど、
それの真相だけはわからなくって・・・・・・



最終更新:2014年01月18日 13:14