(37)144 『想い人の黄昏は』



  さあ 今日も仮面を被って
  そして 自分を偽って
  そんな毎日の繰り返しでも

  仲間と一緒に過ごしている時だけは…



        ◇◆



仕事が思っている以上に時間がかかってしまった。
最初の予定では昼過ぎには終わると言われていたが、トラブルなどの関係で仕事が終わった頃にはいつのまにか夕方だった。
早く終われば早く仲間たちと会えたのに…
そう思いながらも過ぎたことは仕方が無い。これからお店へと向かうべく、仕事場の近くでタクシーを拾った。

 「…はぁー…」

今日はやけに疲れている気がした。
一瞬、このまま家に帰ろうかと思ったが、それよりも店へと行きたかった。
なぜか、仲間たちに無償に会いたかった。
けれどその想いを心には秘めても、口に出しては伝えられない。
素直に言える人が羨ましいと昔から思っていたが。こんな気難しい性格の人をよく相手してくれていると思う。

 「…寝よ」

お店に着くまで少しの間は寝ていよう。
そうして私はゆっくりと目を閉じ、眠る態勢に入った。


        **


まどろむ思考の中、ふと車が止まった気がした。
目をゆるりと開けたら、運転手が後ろを振り向いて着いたよと促していた。
私は垂れていた頭を上げ、鞄から財布を取り出して必要な分だけのお金を渡した。
お釣りはいらないと言って、私は鞄を掴むとすぐにタクシーを降りた。

着いた場所は、お店から少し離れた川沿いの道。
仕事場から直行で来る時には、いつもここで降りていた。

 「…ふわぁ~…」

大きなあくびをして、涙が浮かんでくる目に手を当てる。
そして鞄を握りなおし、歩き始めた。

涼しい風が、季節らしい風を運んでくる。空は夏よりも幾分か高い気がする。
真っ赤に染まった空は雲の白ささえも染めてしまうようだった。
とても鮮やかな朱色が、私の心に切なさを運んでくるような気がした。


        **


空はなおも朱色に染まり、この季節特有の心に響かせる何かが漂ってきそうだ。
もうすぐ、あの角を曲がればお店が見える。
そして扉を開けて、大きな声でただいまと言いたい。

どうにもこうにも、この時間帯は感情に訴えかけるものが多い気がする。
それらを振り払うかのように、私はお店へと黙々と歩みを進めた――――――



最終更新:2014年01月18日 13:22