――――PM 8:21 アニマルステージ アスレチックフィールド
はいはーい、こちらリンリンでーす!
私たち9人は今、動物園内のアスレチック広場にある巨大滑り台の上に来ていまーす!
ひと気もないし明かりもないしで、ちょっと怖いかもでーす!
えっ?なんでそんな所にいるのかって?
いい質問だ、ボブ。
それはね・・・花火を見るためなのだっ!
「どうやぁガキぃ!まだなんか文句あんのかぁー?」
「言葉遣い、わるっ!・・・アハハ。まあ、たまにはいいんじゃない?こういうのも」
今日は富士京DEZUNIE動物公園半年に一度の花火day。
よそのお客さんもこちらの予想以上にそれを楽しみにしていたようで、
私たちが動き始めた時にはもう花火を見るのにいい場所が残っていなかった。
それなら、と愛ちゃんがみんなを連れてきてくれたのがこのアスレチック広場である。
昼間あちこちテレポートした際に、見晴らしがいいこの場所を覚えていたらしい。さすがリーダー。
本日二度目となる動物園への忍び込みに難色を示していた新垣さんも、
ここから見える景色を目の当たりにして考えを改めてくれた。
それもそのはず。この滑り台の上からは、花火の打ち上げ場所である遊園地の
湖に浮かぶ小島がはっきりと見えるのだ。
“やっぱり戻ろう”なんて、いくら新垣さんでも言えやしまい。フフフ。
もちろん他の仲間たちも、不法侵入なんておかまいなしに、はしゃいでいる。
場所を変えようという気はまったくないようだ。
「ねぇ、あの光ってるのってメリーゴーラウンドじゃない?・・・あっ!あれお化け屋敷だよね、れいな!」
「アーアー、なんも見えんし、なんも聞こえーん。お化け屋敷なんて知らんとよー」
「右に同じっすー。さーて!気を取り直して小春がなんか一曲歌っちゃうぞー!え~っと曲は・・・」
「久住サンの歌、いらない。みんな『ウワー』なるだカラ。代わりに、ジュンジュンが、歌いますっ」
「待って二人とも!ここは先輩を立てるべきじゃないうんそうだよねってなわけで、さゆみ、行きま~す!」
「先輩後輩とか、かんけーなくないっすか~?愛佳に歌わせてくださいよー」
いつもと同じ、普段通りの喧騒。
私はこの喧騒を眺めている時間が好きだった。
無邪気にはしゃぐみんなを見ていると、互いに心を許し合っているのが伝わってきて、ほっとする。
この先何があっても私たちが仲間でいられる未来を、今の私たちの姿に感じることができるから、かもしれない。
「こらぁリンリン!にやにやしてへんで手伝わんかい!愛佳一人じゃこの人数、ツッコミきれんわ!」
光井さんの怒ったような、でもちょっと楽しんでいるような声が、一歩引いてみんなを見ていた私を呼んだ。
きっと、私も輪に加わるようにと言いたいのだろう。
そうだね光井さん。私だけが傍観者でいる必要はない。
私はみんなが騒いでるのを見るのが好きだけど、それと同じくらい
自分がみんなと騒いでいるのも好きなんだから。
「にやにやしてマシたか」
「しとったで~。こぉーんな感じ」
光井さんは思いきり口角を上げ、両手の人差し指を使って自分の目尻を下げてみせる。
- ちょっとオーバーな気がするですよ光井さん。私、そこまで変な顔してないと思うだ。
まあ、そこはいちいち突っ込まないでおこう。
「それはきっと、未来のこと考えてたからですネー。光井サンにも視えるデショ?
私たちガ何歳なっても、こーして仲の良い仲間たちでいラれる未来デース!」
「視えへん視えへん。そんなもん愛佳には、ぜーんぜん視えへん」
「エーッ!」
そ、そんな・・・!
予知能力のある光井さんには、私たちの幸福な未来が視えていると思ったのに。
未来を信じているのは私だけなんだろうか。
決して色褪せることのない未来を。
信じているのは。
「あんなぁリンリン。未来は、何が起きるかわからへんから未来なんやで?
起きることが決まってたら、それは未来ちゃうやん」
な、といたずらっぽくウインクして、光井さんは鮮やかに笑った。
未来は、起きることがわからないから未来であって
何が起きるかわかっているなら、未来じゃない?
日本語の言葉の意味を完全に理解できた自信はないけれど、光井さんの表情のおかげで
私に何を伝えようとしてくれたのかは、わかる気がした。
例えば、これから何日が過ぎても今日という一日の記憶を忘れることがないように
この先の未来に何が待ち受けていようと、私たちは変わらない、色褪せない。
私たち9人がいつまでも強い絆で結ばれた仲間であり続けること。
それは“未来”ではなく、“不変の事実”なのだ。
「あー!始まったー!」
花火が打ち上がる。
煌びやかな花火たちが、夜の世界に彩りを添える。
どこか、私たちに似ていると思った。
夜を昼に変えるほどの輝きは放てないが、世界を一瞬で自分の色に染めてしまえる夜の華。
一人だけでは寂しいから、仲間と一緒に賑やかな音を立てて打ち上がる。
ほら、あの競い合うように空を駆け上る二つの花火なんて、久住さんとジュンジュンにそっくりだ。
「うわー・・・きれー・・・・・・」
「すごいね・・・音もぴったり・・・」
私も花火になりたいな。
夜空を彩ってみんなに幸せをプレゼントする、そんな花火になりたいな。
「・・・おや、リンリン。キミはいったい何をしているんだい?」
「かる~く屈伸して滑り台のふちに足をかけて・・・なんだか空を飛ぼうとしているように見えるね」
「つーかその無駄にはりきってる顔、あーしすっごいデジャヴなんやけど」
「リンリンは、花火になりまス!チョっくら世界を染めてきまス!」
「まぁたワケのわかんないこと言って!誰か、リンリン止めるの手伝って!」
「え~?小春は今真剣に花火見てるんでダメですぅー」
「あー・・・れいなもちょっと。ほら、れいなってこう見えて結構ひ弱やけん」
「シツケは新垣サンの仕事。だいじょぶ、新垣サンならできる」
「あのぉ~、そんなことより、なんや下のほうに人影が・・・」
「誰だっ!そこにいるのは!!」
花火の音に混じって聞こえる怒声。
昼間、動物園に忍び込んだ時と同じ。
愛ちゃん、私もデジャヴです。
「・・・やべっ!逃げるぞみんなぁー!!」
捕まるのを恐れて本気で逃げる高橋愛さん。
度重なるトラブルに頭を抱える新垣里沙さん。
いまいち事態が掴めていない亀井絵里さん。
驚いてはいるけどとりあえず逃げる道重さゆみさん。
反撃の機会を窺う田中れいなさん。
とにかくハイトーンで騒ぐ久住小春さん。
うまく撒く方法はないか考える光井愛佳さん。
実はこの状況を楽しんでるジュンジュン。
そして私、リンリン。
私たち9人を待ってる未来は、楽しいものばかりではないかもしれない。
泣きたいことも、目を背けたくなることもあるだろう。
だけど、私は忘れない。
今日ここで見た花火の鮮やかさを。
私の記憶を彩る思い出たちを。
今日は、いつも以上に素敵な一日でした。
明日からもまた、今日以上に素敵な日になるといいな。
最終更新:2014年01月18日 13:31