「…何、バカな事言ってんの?」
いつもヘラヘラ…ニコニコ笑ってはる久住さんが、
鋭い視線を愛佳にぶつけてきた。
まるで、初めて会ったばかりの頃みたいなヒリヒリとした空気が漂う。
「…久住さ、」
「みっつぃー、それ本気で言ってんなら最低だよ?」
遮られた言葉は、愛佳の胸の奥にしこりを作った。
これまで幾度となく困難にぶつかって、その度に仲間と力を合わせて乗り越えてきた。
それは紛れもない事実やし、その事実が更に愛佳達の絆を強く結び付けてきた。
でも、だからこそ、余計に。
時々、怖くなってしまうんや。
愛佳の見る『未来』の仲間達が、これ以上ないくらいにボロボロに倒されて…
リゾナンターが全滅してしまうような、そんな『未来』を見てしまったとしたら?
愛佳は耐えられるんやろか、その残酷な未来を…
愛佳はみんなに、ちゃんと伝えられるんやろか…。
『予知能力者は、神になれる』
…愛佳は、自分の事を神様やなんて思ったことは一回もない。
でも…みんなに残酷な未来を告げなければいけない日が来たとしたら?
愛佳は…大好きな、大切な仲間にとって…『死神』になってしまうんやないか…って…
「…不安になってしまうんです。
その事実を伝える愛佳を、皆さんがどんな風に見てきはるのか…」
『死神』として、その事実を伝えなければいけない日が来たとしたら。
仲間は、愛佳の事をどんな目で見つめてくるのか…
ヒリヒリとした空気、久住さんの鋭いまなざし。
堪えきれなくて、その目を見れなくて…
愛佳の視線は、ゆっくりと下がっていってしまう。
「…みっつぃー。」
久住さんの声、いつもと違う声。
…伺うように、恐る恐る顔をあげた。
『バチンッッ!!!』
…???
さっきまで鋭いまなざしをしていた久住さんが、ニヤリと笑っていた。
数瞬の間をおいて、両のほっぺがジンジンと痛みだした。
「…久住ひゃん、何ひはるんですか…」
「んー?みっつぃーはおバカさんだなーって」
ニヤニヤ笑いながら、両手で勢いよく挟んだ愛佳のほっぺをつまんでひっぱる久住さん。
「い、いひゃいれふ…」
「あのねぇみっつぃー?」
「…ひゃい?」
「みっつぃーがどんな未来を見ても、どんな未来が待ってても、小春はその未来に向かっていくよ。
だって、その未来にはみっつぃーがいるんでしょ?
みっつぃーを一人になんかしておけるわけないじゃん、大切な仲間なんだから。
小春だけじゃない、みーんなそう思ってるよ。
そんな分かりきった事、今更考えたってめんどくさいだけじゃん」
愛佳をまっすぐに見つめて、久住さんは愛佳のほっぺをむにーっと伸ばして笑った。
さっきのニヤリ笑いとはまた違う、子供みたいな無邪気な笑顔。
ほっぺがジンジンと痛くて、久住さんの笑顔が眩しくて。
胸の奥のしこりが、スーッと消えていって。
…あかん、なんか、泣きそう。
「あー!!みっつぃーごめんね?痛かった?だいじょぶ?ごめんねホントごめん!!!」
急にアタフタしだして、愛佳のほっぺをさすり出す久住さん。
なんだかおかしくて、今度は笑いそうになった。
「…痛いですよー、いくらなんでも加減てもんがありますやん」
ほんまは、ちょっとずつ痛みは引いてきてたけど。
「えー、みっつぃーがいけないんじゃん!
変なこと言い出すから悪いんだよー!!」
アタフタしてたと思ったら…。
この人の表情は、万華鏡みたいにコロコロと変わっていくなぁ。
「…未来は、変わっていくんですよね。万華鏡みたいに」
「そうだよ。小春とみっつぃーと、みんなで変えていくんだよ」
ふくれっ面してた久住さんは、愛佳の言葉にキラキラとした笑顔で頷いてくれはった。
「だからね、みっつぃー。
もう自分のことそんな風に考えちゃダメだよ?
みっつぃーがどんなに残酷な未来の中にいても、側に来るなって言われても小春がすぐ駆け付けるからね!!」
【君が見る 未来はいつも 美しい わけじゃない でも 君がいるなら】
最終更新:2014年01月18日 13:31