(37)195 『カレイドスコープ』



「…何、バカな事言ってんの?」

いつもヘラヘラ…ニコニコ笑ってはる久住さんが、
鋭い視線を愛佳にぶつけてきた。
まるで、初めて会ったばかりの頃みたいなヒリヒリとした空気が漂う。

「…久住さ、」
「みっつぃー、それ本気で言ってんなら最低だよ?」

遮られた言葉は、愛佳の胸の奥にしこりを作った。




これまで幾度となく困難にぶつかって、その度に仲間と力を合わせて乗り越えてきた。
それは紛れもない事実やし、その事実が更に愛佳達の絆を強く結び付けてきた。


でも、だからこそ、余計に。

時々、怖くなってしまうんや。


愛佳の見る『未来』の仲間達が、これ以上ないくらいにボロボロに倒されて…
リゾナンターが全滅してしまうような、そんな『未来』を見てしまったとしたら?


愛佳は耐えられるんやろか、その残酷な未来を…
愛佳はみんなに、ちゃんと伝えられるんやろか…。


『予知能力者は、神になれる』



…愛佳は、自分の事を神様やなんて思ったことは一回もない。
でも…みんなに残酷な未来を告げなければいけない日が来たとしたら?

愛佳は…大好きな、大切な仲間にとって…『死神』になってしまうんやないか…って…


「…不安になってしまうんです。
その事実を伝える愛佳を、皆さんがどんな風に見てきはるのか…」

『死神』として、その事実を伝えなければいけない日が来たとしたら。
仲間は、愛佳の事をどんな目で見つめてくるのか…




ヒリヒリとした空気、久住さんの鋭いまなざし。
堪えきれなくて、その目を見れなくて…
愛佳の視線は、ゆっくりと下がっていってしまう。

「…みっつぃー。」

久住さんの声、いつもと違う声。
…伺うように、恐る恐る顔をあげた。


『バチンッッ!!!』


…???


さっきまで鋭いまなざしをしていた久住さんが、ニヤリと笑っていた。
数瞬の間をおいて、両のほっぺがジンジンと痛みだした。

「…久住ひゃん、何ひはるんですか…」
「んー?みっつぃーはおバカさんだなーって」

ニヤニヤ笑いながら、両手で勢いよく挟んだ愛佳のほっぺをつまんでひっぱる久住さん。

「い、いひゃいれふ…」
「あのねぇみっつぃー?」
「…ひゃい?」


「みっつぃーがどんな未来を見ても、どんな未来が待ってても、小春はその未来に向かっていくよ。
だって、その未来にはみっつぃーがいるんでしょ?
みっつぃーを一人になんかしておけるわけないじゃん、大切な仲間なんだから。
小春だけじゃない、みーんなそう思ってるよ。
そんな分かりきった事、今更考えたってめんどくさいだけじゃん」


愛佳をまっすぐに見つめて、久住さんは愛佳のほっぺをむにーっと伸ばして笑った。
さっきのニヤリ笑いとはまた違う、子供みたいな無邪気な笑顔。

ほっぺがジンジンと痛くて、久住さんの笑顔が眩しくて。
胸の奥のしこりが、スーッと消えていって。


…あかん、なんか、泣きそう。

「あー!!みっつぃーごめんね?痛かった?だいじょぶ?ごめんねホントごめん!!!」

急にアタフタしだして、愛佳のほっぺをさすり出す久住さん。
なんだかおかしくて、今度は笑いそうになった。

「…痛いですよー、いくらなんでも加減てもんがありますやん」

ほんまは、ちょっとずつ痛みは引いてきてたけど。

「えー、みっつぃーがいけないんじゃん!
変なこと言い出すから悪いんだよー!!」

アタフタしてたと思ったら…。
この人の表情は、万華鏡みたいにコロコロと変わっていくなぁ。


「…未来は、変わっていくんですよね。万華鏡みたいに」

「そうだよ。小春とみっつぃーと、みんなで変えていくんだよ」

ふくれっ面してた久住さんは、愛佳の言葉にキラキラとした笑顔で頷いてくれはった。


「だからね、みっつぃー。
もう自分のことそんな風に考えちゃダメだよ?
みっつぃーがどんなに残酷な未来の中にいても、側に来るなって言われても小春がすぐ駆け付けるからね!!」




【君が見る 未来はいつも 美しい わけじゃない でも 君がいるなら】



最終更新:2014年01月18日 13:31