小春がしばらくリゾナンターをお休みすることになった。
お休みって言っても、定期的に集まって何かをしていたわけじゃないんだけど。
仕事が忙しくなるから、しばらくリゾナントに来れなくなるらしい。
「年末も忙しそうだねぇ、小春は」
「はい…」
それを伝えに、今日はリゾナントへ来たらしい。
そして、ここに来れるのも今年は今日が最後なんだって。
忙しいんだろうな、きらりちゃんは。
「じゃあきらりちゃんがいっぱい見られるんだね」
「そうですね。結構特番には呼ばれてますから」
「おぉ!言うねぇー!」
「実は小春、人気者なんですよ」
「それ自分で言う?」
小春が芸能人だということを、たまに忘れそうになる。
テレビで見かけても、そこにいるのは小春じゃなくてきらりちゃんだし。
小春ときらりちゃんが同一人物だって言われても、いまいちピンと来ない。
「そうかー。じゃあ次に会うのは来年かー」
「はい」
「そうかー。寂しいね」
「寂しいですね」
そう言って小春は静かに笑った。
未だに小春が何を考えているのかわからない時がある。
絵里もよく言われるけど、小春程じゃないと思う。
「ちょっとだけでも、来れないの?」
「うーん…遠くに撮影に行くこともありますからねぇ」
「そうなんだ」
なんでもないような顔してるけど、本当はどう思ってるんだろう。
小春と仲の良いみっつぃーや愛ちゃんなら、わかるのかな。
どんなに会話しても、絵里にはわかる気がしなかった。
どれだけテレビを見ても、きっと小春の考えてることはわからないと思う。
でも、小春のことは知りたいと思う。
ずっと見ていたいと思う。
「テレビ見るね」
「はい!録画の準備もお願いします」
「そこまでしないし」
「えー!なんでですか、して下さいよ!」
「いやだよー」
録画してもたぶん見ないし。
というか、たぶん録画するの忘れるし。
テレビ見るのでさえ忘れそうなのに。
出来ない約束はしない!これ!絵里の鉄則!
「えーじゃあもう録画はいいですから、ちゃんと見て下さいね」
「はいはい、わかってるって!」
いつやるテレビに出るんだろう。
今聞いてもいいけど、たぶん覚えられない。
それなら今聞かなくても同じだし、聞かなくてもいっか。
きっと当日になれば、誰かが教えてくれる。
見れなくても、まぁ、いいや。
約束は予定!予定は未定!これ!絵里の鉄則!
「なんか亀井さん、本当に見てくれるか不安なんですけど」
「なんで!ちゃんと見るしぃー」
「本当ですかぁ?」
「見る見る!だって絵里見たいもん」
「本当ですかぁ?」
「本当だってばー」
見たい気持ちは嘘じゃない。
でも、だから絶対見るというわけではない。
だって、予定は未定なのだから。
でも、小春はそういうわけにはいかないんだ。
予定は予定通り。
そんなのって、すごく大変だと思う。
「仕事ばっかで疲れない?」
「大丈夫ですよ。もう慣れましたから」
絵里だったら、絶対に慣れない。
慣れるまでもたない気がするし。
「じゃあ、小春そろそろ行きますね」
「今日も仕事?」
「はい」
「そっか。じゃあ、また来年だね」
「はい」
普段からなかなか会えない小春だけど、いざ会えなくなると思うと、ちょっと寂しい。
小春がどう思っているのか、結局わからなかった。
寂しいのかな。
仕事だから仕方ないって、割り切ってたりするのかな。
絵里なら、きっと無理だろうな。
「小春」
「はい?」
愛ちゃんと喋っていた小春を呼んで、絵里は席を立った。
小春の方へ歩いて行くと、小春は不思議そうに絵里の顔を見ていた。
「いつでも、戻って来ていいからね」
仕事が終わらなくても、忙しくても、いつでも。
ここに来たければ、来ればいいと思う。
仕事を休んででも、ここに来ればいい。
「ずっとここにいるから」
「…亀井さん、帰らないんですか?」
「…いや、帰るけど」
絵里が言いたいのは、そういうことじゃない。
そういうことじゃないと思うんだけど、なんて言ったらいいんだろう。
「小春はどうかわかんないけど」
「はい」
「絵里は、小春と会えなくて寂しいと思う」
「はい」
「だから」
「はい」
「そういうことなんだよ」
「はぁ?」
苦笑いの絵里を見て、愛ちゃんがニヤニヤと口元を緩めていた。
きっと絵里の言いたいことをわかっているんだろう。
わかってるなら代わりに言って下さいよ!
そう言いたいのを我慢して、絵里は小春に顔を向き直した。
「寂しくなったら、帰って来ていいんだよ」
小春のことだから、たぶん本当に仕事が終わるまで来ないんだろうけど。
でも、だからこそ、言いたい。
「小春なら、たぶん大丈夫だけど」
「なんすかそれ」
もう自分でも何が言いたいのかわからない。
慣れないことはするもんじゃないなと改めて思った。
「まぁ、そういうことだから、お仕事頑張って!」
「えー?意味わかんないんですけど」
「もーいいから!忘れて!」
「忘れていいんですか?」
「いや、よくないけど!」
「へへ、ありがとうございます」
なんだかよくわからないけど、小春は嬉しそうだった。
なんだ。絵里の言いたいこと、伝わったカンジ?
「小春も、みんなに会えなくて寂しいです」
「おぉ」
「でも、みんなが応援してくれるから、頑張れるんですよ」
なんだ。絵里の聞きたいことまで伝わってるじゃん。
小春の言葉と笑顔に、何故だかこっちが元気付けられた。
一生のふかくだ。
小春に胸をジーンとさせられるだなんて。
「じゃあ、来年もよろしくちゅーす!」
絵里がポカンとしている間に、小春は楽しげに出て行ってしまった。
よろしくちゅーすって何。
絶対流行んないし。
「絵里」
「はい?」
「よろしくちゅーす」
「…ぶっ」
愛ちゃんの、ちょっと訛った「よろしくちゅーす」がツボだった。
一生のふかくだ。
結果的に小春のネタに笑ってしまうだなんて。
「愛ちゃん」
「ん?」
「よろしくちゅーすって、流行りますよね」
「あぁ、流行ると思う」
よろしくちゅーす。
なんだこれ。おもしろいじゃないか。
来年もこのネタで小春は安泰だなぁ、なんて、単純かもしれないけど。
来年も忙しいといいな。
リゾナントに顔を出せる暇がなくなるくらい、小春に仕事が来ればいい。
でも、ちょっとした時間に小春は来て、こうしてみんなを笑わせるんだ。
そんな小春を、ちょっとでも笑わせてあげよう。
背中を後押しするように、風を吹かせてあげよう。
そしたらきっと、絵里も安泰だ。
だから小春、来年も、よろしくちゅーす。
最終更新:2014年01月18日 13:35